6、帝都『グランバレア』
トネリコ村を離れてから数日。
ハヤトとアミアのコンビはグラン帝国の首都、『グランバレア』の城門前にたどり着いた。
「はぁ……やっと着いたねぇ」
「ほんとだな……ここまで長かった……」
一人と一匹がそろって、そうため息をついた。
村からここまで、乗合馬車もなければ、王城へ向かう行商の馬車もなかった。
そのため、ここまで徒歩で来なければならなかったのだ。
疲れも出るだろう。
だが、アミアはそんなハヤトに追い打ちをかけるような言葉が飛び出してきた。
「ところでさ、疲れてるところ悪いんだけど……」
「わかってる……どうしようね」
「うん……」
ハヤトとアミアは、自分たちが現在進行形で直面している大きな問題を思い出し、さらにため息をついた。
二人が直面している大きな問題。
それは。
「今日の宿代」
「大丈夫かなぁ……」
ここまでの道中、村長が持たせてくれたお弁当ともともと持っていた保存食、そして近くの森に生えていた野草や野生動物でどうにか餓えをしのいできたが、それももう限界。
食料は底をつきそうだし、所持金も心もとない。
しかし、ハヤトもアミアもあまり悲観はしていないようだった。
「どうしよう? これじゃ、今日の宿代も危ういんじゃ……」
「とりあえず、途中で狩ってきた森狼とかの魔物の素材を売れば、今夜の宿代くらいにはなると思うけど……」
「まぁ、ともあれ、まずは王都に入らないとだね」
「ギルドにいけば、何か仕事を紹介してくれるだろうしね」
ここまでの道中、何度か魔物の襲撃を受けた。
その時に採取した牙や爪、毛皮といった素材が、現在、バックパックに詰め込まれている。
質は若干落ちているだろうが、量が量なのでそれなりの額になるだろうと考えているようだ。
「それじゃ、宿屋に行く前にギルドだね」
「ギルドと宿屋が併設されてたら楽なんだけどねぇ」
「まぁ、王都のギルドだからね……どっちに転ぶのか」
冒険者の互助組織、通称『ギルド』と呼ばれる施設は、冒険者に対する依頼を掲示するだけでなく、冒険者の宿泊場所を提供する場所だ。
だが、町によっては依頼を提供する場所と宿泊場所が別々になっていたり、そもそも、依頼を提供する場所しかないというものもある。
特に大きな町や最近になってできたギルド会館などは、宿屋が多いため、彼らの利益を奪わないよう、宿泊場所を併設させないことが主だ。
「ひとまず、先にギルドに行こう。素材を換金してから、宿屋を探そう」
「そうだね。ついでに、ギルドで依頼が見つかれば万々歳だ」
「ちょうどいいのがあることを祈ろうか」
互いに笑みを浮かべてそんなやり取りをしながら、二人は王都へ入ろうとしている列の後ろに並んだ。
少しして、二人は衛士の検閲を通過し、王都の中へと入った。
当たり前ではあるが、ここは『ファーランド』最大の規模を誇る国である『グラン帝国』の中心だ。
それなりどころではない量の物資、人が集まっているため、かなりの活気があり、屋台で商売をしている行商人もちらほらと見えていた。
「さすが、『ファーランド』最大の国家のお膝元だね」
「うん。すっごい人だかりだね」
「こりゃ、地図とかないと迷いそうだな……守衛さんにギルドと宿屋の場所だけでも聞きに行こうかな」
本来ならば、地図や案内板のようなものを見るべきなのだろうが、防衛上の都合か、そういった類のものはまったく見当たらない。
仕方なく、先ほど自分たちを検閲した守衛にギルドの場所とお勧めの宿屋があるかを問いかけると。
「あぁ。それならこの街道をまっすぐ進んでいくと……」
丁寧にギルドの場所とその近くにある手ごろな宿を教えてくれた。
二人は守衛にお礼を言って、まっすぐギルドの方へと向かっていき、素材納品のための窓口を探す。
「えぇと、素材納品は、と……」
「あそこじゃないかな?」
「あぁ、そうみたいだね」
アミアが示す方に視線を向けると、そこには『素材回収』と看板が掲げられている窓口があった。
ハヤトはその窓口の方へと向かっていき、受付に控えていた係員に声をかける。
「すみません、素材の買取をお願いしたいんですが」
「どうぞ。あ、素材が入ってるカバン、置いておいてくれればそれで大丈夫です。番号札に書かれてる番号でお呼びしますので」
どうにもやる気のなさそうな態度でハヤトにそう告げてきた受付だったが、ハヤトは文句を言わず、牙や毛皮などの素材を数えやすいようにまとめて、カウンターに置く。
番号が呼ばれるまでの間、ハヤトとアミアはおとなしく待機していた。
しばらくすると、受け取った番号札に書かれた番号が呼ばれ、二人はカウンターまでむかう。
「こちらが、今回、書いとる金額となります。お確かめください」
「……はい。大丈夫です」
「では、こちらの受領書にサインを」
差し出された書類の署名欄にハヤトは自分の名前を書くと、差し出された金額の入った袋を受け取り、カウンターから離れた。
「これでしばらくは宿代に困ることはないかな」
「そうだねぇ。でも、油断は大敵! 宿で部屋を取ったら、すぐに依頼を見つけないと!」
「あぁ、そうだね」
いくら収入があったからとはいっても、冒険者は基本的にその日暮らし。
貯金するという選択肢もあるにはあるが、そういったことができるのは拠点を構えることができるほどの収入を得ている冒険者に限られている。
ハヤトもアミアもまだそれほどの収入を得ていないため、貯金をすることができない。
仕事をし続けなければ、明日の宿代も危うくなってしまう可能性が非常に高いのだ。
「それじゃ、まずは宿を取ろう。それから食事をして、依頼を探そうか」
「そうだね。そういえばお腹も空いてきたし」
アミアの提案に加えて、ハヤトが食事を提案すると、アミアは笑みを浮かべて同意する。
それからすぐに、ハヤトはギルドを出て、宿屋へと向かっていった。
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