4、報酬は特製ラタトゥユ
知らなかったとはいえ、ハヤトの相棒を自称する霊獣アミアの機嫌を損ねてしまったアレックス村長だったが、意外にもアミアの方があっさりと謝罪を受け入れ、すぐに機嫌を直していた。
こほん、とアミアが小さく咳をして、会話を仕切り直す。
「改めまして、僕はアミア。ハヤトの相棒です。よろしく、アレックス村長」
「あ、あぁ。こちらこそよろしく、アミアさん」
霊獣という珍しい存在を目の当たりにしたためか、それとも先ほどのやり取りで委縮してしまっているのか。
アレックス村長は少しばかりおどついた態度でアミアに接していた。
その様子を見ていたハヤトは、苦笑を浮かべる。
「村長、何もアミアは人を取って食いやしませんよ。そんなに怖がらなくて大丈夫です」
「は、ははは……そ、そうは言いましてもね」
「……ちょっと、ハヤト? それは僕に対して失礼なんじゃないかな?」
「ははは、ごめんごめん」
アミアがジト目になりながら文句を言ってくると、ハヤトは笑いながらアミアの毛並みを優しくなで始めた。
よほど心地よいのか、先ほどまで文句を言いたくてたまらない、という顔をしていたアミアの顔は、すっかり蕩けていた。
「しかし、霊獣と一緒に行動しているとは」
「以前、ギルドからの依頼で探索をしていた時に出会って、それ以来の付き合いですね」
トネリコ村に来る数か月前。
当時、ここからかなり離れた場所で発見された遺跡があり、複数の冒険者を対象とした調査依頼がギルドに寄せられていた。
その調査依頼にハヤトも加わったのだが、その調査中にアミアと出会い、懐かれ、こうして行動をともにしている。
「……言っておきますけどね、僕は誰にでもほいほいついていくような軽い性格じゃないよ?」
「わかってるわかってる」
「もぅ、ほんとにわかってるのかなぁ、僕の相棒は……」
なでられて上機嫌になっているかと思いきや、自分はそこまで軽い性格はしていない、と真っ向から抗議してきた相棒に、微笑みながらそう返し、ハヤトは手を離す。
手が離れると、一瞬だけアミアは少し残念そうな表情を浮かべたが、すぐにもとの表情へと戻った。
「まぁそれはともかく。ハヤトの言ったことは嘘じゃないよ。僕が証人になる」
「い、いや、ハヤトさんのことを疑っていたわけではないんだが……まぁ、確かに、霊獣が証明してくれるなら、これ以上ない安心材料にはなるな」
霊獣は人間以上の知性を持っているだけでなく、非常に高潔で、本来ならこうして人間とともに行動すること自体が珍しい。
そんな霊獣が証人になってくれるという。
これ以上ない安心材料になることは確かだ。
「わかりました。それでは、これにて依頼完遂とさせていただきます」
「はい」
アレックス村長がにこやかにそう話すと、ハヤトは笑みを浮かべて返した。
本来なら、ギルドから預かった依頼書に書かれている承認欄にサインをする必要があるのだが、今回はあくまでハヤトが厚意で行ったことであり、そんなことをする必要はない。
「では、報酬を支払いませんとな」
満面の笑みを浮かべ、アレックス村長は席から立ちあがり、かまどの方へと向かう。
数分とすることなくアレックス村長は、ほかほかと温かな湯気を立てている料理を手に戻ってきた。
「報酬は今夜一晩の宿ということで、ささやかですがこの村で採れた作物でおもてなしさせていただきます」
そっと、ハヤトの目の前にを置く。
ハヤトとアミアの視界にニンジンやカボチャ、ズッキーニなど、様々な野菜が使われた煮物料理が入り込んできた。
「この村で採れた作物をふんだんに使ったラタトゥユです。アミアさんの分も持ってきますので、少々お待ちください」
「あ、ありがとうございます!」
まさかアミアがいるとは思わなかったため、事前に用意していた皿が足りず、アレックス村長は再びかまどの方へと戻った。
数分もせずに、村長が戻ってくるとハヤトの目の前に置かれたものよりも二回り近く小さい皿がアミアの前に置かれる。
「わぁ……これ、もしかしなくても村長が?」
「えぇ。私が作ることができる、唯一の自慢料理です」
どうやら、このラタトゥユはアレックス村長の手作りのようだ。
外見の年齢からして、すでに結婚していてもおかしくないが、奥さんはいないのだろうかという疑問が浮かんできてしまう。
(ハヤト、変なことを聞こうとするのはだめだよ?)
(わかってるって!)
だが、アミアの方からプライベートの詮索を咎められ、その話を切り出すことはできなかった。
そんなやりとりがあったことを知らず、アレックス村長も席に着くと、ハヤトとアミアは両手を合わせる。
二人のしぐさに合わせて、アレックス村長もまた、両手を組み、静かに目を閉じてうつむき、祈りを捧げた。
「「いただきます」」
「えぇ、どうぞ」
祈りを終えると、ハヤトはフォークを手に取り、アミアの皿に盛られていた野菜を小さなアミアでも両手で持てるほどの大きさにちぎった。
アミアはハヤトにお礼を言いながら、切られた野菜を手に取り、そそくさと口元へ運んだ。
その様子を眺め、優しい微笑みを浮かべたハヤトは、自分の目の前に置かれた料理に手を伸ばした。
「いかがですかな?」
「「おいしいですっ!!」」
感想を求めてきたアレックス村長に、二人は目を輝かせながら返す。
ここ最近は町や村で宿泊することもなく、食事も保存食がほとんどであったため、まともな料理は本当に久しぶりだった。
それを抜きにしても、素材そのものの味を十分に生かした素朴な味に、ハヤトもアミアも満足しているようだ。
自慢の料理が称賛されたアレックス村長はさらに笑みを深め、自身も自慢の料理に手を出した。
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