吐瀉物

陋巷の一翁

空転する車輪

 ああ、また空回りだ。


 俺はいつものように吐き捨てた。この車輪もその車輪もどの車輪も前に進まない。後ろにも進まない。ただその場で空転するだけだ。そんな車輪を何十、何百と作ってきただろう。役立たずの車輪が山のように積み重なって、倉庫中を圧迫している。捨てなければ。こんなものは捨てなければならない。


 けれどどの車輪にも愛着と作ったときの思い出だけはあって、実際今まで何一つ捨てられずにいるのだ。おかげで倉庫は足の踏み場もない。


 堆積するゴミの山。なぜ前に進めないのだろうか。理由はわかっている。摩擦力が足りない。いや摩擦力がない。地に足が付いてないのだ。粘り強くない。どの車輪も粘り強くない。駄目だこんなのは。それはわかっている。進まない車輪など無価値で無意味だ。


 愛着なんて捨ててしまえ。それもわかっている。痛いほどにわかっている。それでも粘つ作った車輪への愛着。これを車輪自身に使えたら――。今度は前に進めるだろうか。いや摩擦力が強すぎてやっぱり前には進まないだろうか。止まった車輪。空回りする車輪。どっちも似たようなものだ。俺は頭を抱えた。くらくらと吐き気がする。こんなものを作り続けるのか。いったい何を作っているのか自分でもわからなくなってきた。


 だいたい一体これはなんだ?


 車輪かどうかも疑わしい。


 そんなものを俺は今日も作り続けている。


 誰にも見せることなく。こそこそと。


 それはきっと何もしてないのと同じなんだろうな。


 天井を見上げため息をつく。


 また新しい車輪を作らなくては。


 今度はくるくる前に進めばいいな。


 そんなことだけをただひたすらに願いながら、今日も新しい車輪を作り続けている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る