第2話 73はいつくるの?

 彼が学園に来てから丸1か月が経過した。


 彼というのはこの学園に突如入学した男の子で、名前は三好音々というらしい。

はじめは「ねね」って読むのかと思ったんだけど、どうも「ねおん」って読むらしい。ちょっと不思議な名前だけど、見た目は落ち着いた雰囲気で、この学園の中じゃ男の子に関わっている私からしてもとってもかっこよく見える。耐性がない鷺女だったらノックダウンされちゃうかも。ノックダウンって死語かもだけど…。

彼が来てからの1か月間で、彼の素性も、彼が入学した背景も徐々に明らかになった。

 話の原因——というよりも主犯はやはり、鷺宮さんのおうちの人だった。鷺宮さんはうちのクラスの生徒で、本名は鷺宮鈴。鈴さんは名字のとおり、この学園の運営の関係者。細かく言えば、確か…理事長の孫だっけ?名は体を表すというのはたぶん本当で、出生を感じさせないくらい彼女の物腰は柔らかくて、さらには美人だ。不公平感は彼女と接していくうちにほとんどの子はなくしてしまった。私もその一人。

そういえば自己紹介がまだだったね。私は南戸りん。この学園の中じゃ、お嬢様ポイントが低めだけど、れっきとした鷺女。

「り~ん!」

 噂の彼のことを考察するのに夢中になっていた私は、背後から近づいてくる友達に気づけなかった。私はその子に背面タックルを決められ

「でげふっ!」

乙女としてはあらぬ声を出してしまった。私は一息ついて

「危ないでしょ…陽」

「えへへぇ、りんを見つけたからさぁ」

そんなふやけた笑い方をされたらこちらとしても許すほかなくなる。

「もう…気をつけてよね、次から」

彼女は神楽陽。この学園で知り合った友人の一人だ。先日の男子高生入学事件で、啖呵をきっていたが、いつもの彼女はかなりフランクで優しい子だ。やっぱり、外国の血が入るとそうなっちゃうのかな?

「そ・れ・で…なにをりんちゃんは考えてたのかな?転校生君?」

陽は最初こそ、縄張り争いをする雌ライオンかのように彼に対して威嚇をしていたけど、その警戒はかなり早い段階から解いたみたい。いや、雄ライオンが正しいって怒られたんだっけ?まぁいいや。

「当たらずとも遠からずって感じ。どちらかというと鈴さんの方。」

「まぁあんなうわさが流れちゃったしね。なんだっけ?鈴さんが転校生君と付き合ってるって話だっけ?」

「違う……ってそれホント!?というより、この学園って男女交際オッケーなんだ」

 自分の想定の遥か上を行ったリークにちょっと声が大きくなっちゃった。男の子に関わってるといった発言を撤回してもいいですか?乙女としての自信を失いそう。

「まぁそもそも、女の子しかいないこの学園でそんな前提はありえないからね」

それもそうだ。私はこの学校について知らないことは多い。幼稚園からのエレベーター式とはいえ、全員が全員そういう事情ではない。私なんかは高校からの受験組、陽は小学部からの進級組、鈴さんは幼稚園からの初期組だ。鷺女に長くいるほど、世間でいうお嬢様っぽい人になる。受験組の私みたいな人は、2年前までの中学は共学だったから、普通の女子高生と感覚に違いはない。でも陽とか鈴さんみたいな人は、会っていた男子も身内の人か、子供の頃だったりで男子に対する知識が欠如している。

「話してみれば分かるんじゃない?そのうわさの真実もさ」

「えっ!どっちに聞くの?」

「転校生君に決まってるでしょ。鈴さんはそういうのはぐらかしそうだし」

「そうかもだけど…私面識ないよ?」

「私も転校してきた日以来だから大丈夫」

まっっっったくあてにならない。彼女の発言はわたしに不安要素を作っただけだった。というよりもそれってマイナスポイントじゃ?

「でも最近は鈴さんがいつも話しかけているよ…」

「転校生君!ハロー!」

ガン無視である。清々しいほどのガン無視。猪突猛進タイプであることは分かっていたけどもここまでとは…上方修正が必要なようだ。

「神楽さんだっけ?転校日以来だね」

 根 に 持 っ て る。

 やっぱり根に持ってたよ。そりゃそうだよね、状況は知らないけどなんかトラブルに巻き込まれて連れてこられた場所で周りは全員敵だらけなのだ。無理もない。

「その件はごめんって。それよりもさ、あなたと鈴さんって付き合ってるの?」

「なんかキャラ違くない?もう少し圧があったような…いやっ、圧が欲しいってわけじゃないんだけどね」

「初対面なんてあんなもんでしょ?それより付き合ってるの?鈴さんと」

「いやっ、それは…「付き合ってるわ」

「「「え?」」」

その場の誰もが一瞬フリーズした。ダメージ後の無敵時間ぐらいには。でも無敵なのはこの場ではおそらくその発言者。


鷺宮鈴ただ一人だった。

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