働く聖女様
シール親子の村に着いてから村長に紹介されると、村を挙げての宴が開催された。村民の救出と交易品の奪還、及び山賊討伐の御礼だそうだ。
今回、ティリスやララは人族の変身魔法をしていない。ただ、俺がテイマーである事を説明し、シール親子や囚われていた娘が彼女達に救われたと証言してくれたので、彼女達もそのままの姿で受け入れてもらえた。
もともと二人とも可愛らしい容姿をしている事もあって、むしろ人気者扱いだ。最初は少し怖がられていたが、危険がないとわかると、もみくちゃにされていた。
相変わらずティリスは村の女達に人気で、髪や肌などを触られてケアの秘訣などを訊かれている。一方のララは、こちらも相変わらず男達に人気で、酒を飲みながら腕相撲をしている。ちゃんと手を抜けよ、とララには伝えてあるが、誤って村人の腕をへし折ってしまわないか心配だ。腕を折ってしまったら聖女様に治してもらえばいいのだけれど。
その聖女様ことラトレイアは、宴には参加せず、具合の悪い村民の診察・治療を行っていた。この村には医師や回復師がおらず、月に一回隣の村から往診に来る医師が頼りなのだそうだ。
しかし、先月からその医師が急に来れなくなってしまったのだと言う。以降、治療や薬が必要な者も放置せざるを得なくなっていたので、村人達も困り果てていたそうだ。そういった意味でもラトレイアがパーティーに加わってくれてよかった。ティリスは魔力こそ凄まじいが、治癒魔法が得意ではないので、怪我は治せても病気までは治せない。ラトレイアがいなければ、村人達を助けてやれなかったところだ。
「悪いな、宴中もずっと治療させて」
ようやく診察に一息つけたらしい聖女に、そう声をかける。
彼女は若干疲労が見えるような笑みを向けて、「大丈夫よ」と首を横に振った。村に着いてから数時間、休む間もなくずっと治療を行っていたので、実際は大丈夫でもないだろう。
「まあ、さすがにちょっと疲れたけどね」
ラトレイアは苦笑して、体を伸ばした。その際に豊満な胸部がたゆんと揺れて、思わず俺は視線を逸らした。
「どうして医者はいきなり来なくなったのかしらね?」
薬師もいない村なのにあんまりだわ、とラトレイアが不満げに漏らした。
「ああ、その事だけど、どうやら隣の村も大変らしいんだよ」
俺も疑問に思って村長に訊いたところ、医師がいる隣村では、流行り病だか何だかで急病人が多発していて、こちらに往診に来ている余裕がないそうなのだ。
「流行り病?」
「ああ、何だか村人がいきなり腹を下したらしい」
村民達と楽しそうに話すティリスやララを遠目で見つつ、答えた。詳しい事は村長もわからないらしいが、かなり大変なのだろう。
「流行り病でお腹を下すって変な話ね。もしかしたら病気以外に原因があるんじゃないかしら」
「かもな。次はそこの村に行ってみようか」
俺の提案に聖女がこくりと頷く。
「ここを出る前に薬草採りに行くの手伝ってくれない? 薬師もいないんじゃ、さすがに不安で」
ラトレイアは村の為に応急処置用の薬草や解熱作用のある薬を作っておいてやりたいそうだ。
全く、と俺は内心で呆れた。これでは本当に聖女様ではないか。あの性悪性女様は一体どこに行ったのやら。
「……何よ?」
俺の考えを見透かしたかのように、ラトレイアが訝しむような視線を向けてくる。
「いや、随分と仕事熱心な聖女様だな、と」
「何よ、それ。皮肉?」
「まあ、半分くら──痛ッ!」
がつっと足を踏まれた。攻撃的な性格は変わっていなくてある意味安心した。
「あなたが言ったんじゃない」
「何をさ」
「肩書がなくなっても自分は自分なんだから、自分ができる事をやれって」
もう忘れた? と溜め息混じりで付け加えて、呆れたのような視線を送ってくる。そういえばそんな事を言った記憶がある。
「こんなところで油売ってる暇あったらさっさとティリスと仲直りしてきなさいよ。じゃあ、私はまだ診察が残ってるから」
ラトレイアはそれだけ言い残してもう一度伸びをしてから、診察の場として与えられている家屋に戻って行った。
「仲直りって言ったってなぁ」
ちらりと遠くのティリスと目が合うが、やっぱり逸らされてしまう。
話かけようにも、全然タイミングがつかめない。むしろどこか避けられている気がするのだ。
「やれやれ……」
俺は小さく息を吐いてから、宴の中に戻って行った。
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【読者の皆様へお願い】
いつも応援ありがとうございます。コメント等もしっかりと読ませていただいております。
ただ、それに関して一つお伝えしたい事がございます。
今に限った事ではありませんが、最近特に過激な長文コメントが目立つようになってきました。熱心に作品を読み、作品への想いを書いて下さるのであれば、全然かまいません。むしろ作者としては嬉しい限りなので、大歓迎です。
しかし、多くの長文コメントは、主人公の判断ミスや失態・失言などを槍玉に挙げて、ただ自らのストレスの発散のはけ口にしたいだけなように感じます。Twitterで著名人の失言や失態に罵詈雑言のリプライを送っているニュアンスに近いでしょうか。
はっきり言って、不愉快です。
この作品も登場人物も、コメント欄も、あなた方のサンドバッグではありません。更新するたびにそのようなコメントが羅列していては、こちらも更新する気を無くします。
無論、読んで頂いている大半の方は、普通に楽しんで読み、まともな感想を書いて下さっているのはこちらもわかっています。そういった方にもこんな文言を読ませなければならないのは、本当に申し訳ない限りです。
ただ、あなたが書かれるコメントは、あなたと私だけでなく、他の多くの方も見ています。そのコメントを見て、気分が悪い、コメントを書く気を無くした、という読者さんも実際にいらっしゃいます。
そこで、お願いがあります。
コメントを書き込み、送信する前に、その内容を読んだ人がどんな気分になるか、一度思い遣って頂けないでしょうか。
そして、もう少し他者──架空の登場人物も含めて──に寛容に、優しくなれないものでしょうか。
アレク達同様、人は誰でもミスを犯します。そしてこの作品には──というより私の作品は全般的に──完璧な者はいません。主人公であれヒロインであれ、ミスをするし嫉妬もするし、劣等感も持っています。皆さんと同じように、です。
他者──例えそれが架空の人物であっても──のミスや失態に厳しい言葉を一度ぶつけてしまうと、自分がやらかした時、その自分がぶつけた言葉は、そのまま自分に返ってきます。それってしんどくないですか?
自分含め人はどうやってもミスをする生き物だとするなら、優しい言葉を選んだ方が建設的ではないでしょうか。
他所の小説は知りませんが、それぞれの優しさで支え合っているパーティーの物語でもあるので、せめてこの小説くらいは、コメント欄も優しくあってほしいなと思います。
以上、作者からのお願いでした。
ご認識宜しくお願い致します。
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