収穫祭②
料理や酒が出来上がった昼からは、大騒ぎだった。
こんなに騒いでいては教会に豊作が知れてしまうのではないかと思ったが、ここまで調理が済んでしまえば、外部から俺が材料持ち込んだとか適当に言ってしまえばいいだろう。あながちそれも間違いではないし。
「ほんとはもうちょっと美味い麦酒を飲ましてやりたかったんだけどな! これじゃ麦酒ってより麦汁だな!」
ガハハハと村の男が笑いながら、麦酒を木製の杯に注いでいく。
今回は急造した麦酒なので、発酵時間が少なかった。麦汁の冷却に関しては、
ただ、今の村民にとっては味など二の次だ。とにかく食って飲んで騒げれば何でも良いのだ。何となくそんな雰囲気を楽しんでいた。
料理はさまざま並んでいて、初めて見るものも多かった。
レンズ豆とバターオイルを用いたスープやベーコンで煮込んだもの、鳥肉を用いたパイや色んな穀物が入ったポタージュなど。それに豚肉のシチューもある。どれもパンとよく合って食が進む。
「このパイとシチューは私が作ったんですよ!」
ティリスがテーブルに並んだ料理を指差して嬉しそうに報告してくる。
「え、凄いじゃないか! 普通に美味いよ」
さっきから普通に食べていたものだったので、驚いた。
「私ひとりで……と言いたいんですけど、横で教わりながら作りました」
ティリスはてへっと照れたように笑って、俺の横に座った。
「いやいや、初めて料理したんだろ? 凄いよ」
「えへへ」
俺が褒めると、どんどん顔が緩んでいる。可愛い。
魔族……特に魔神という種族は生まれながらにして強者に入るので、自分で料理を作る事はまずないそうだ。ただ、魔族の食べるものは食材そのものがまずいので、味は人族の料理で言うと下の下なのだとか。体力回復や魔力供給の為に食事を取っている者がほとんどらしい。
「作り方とかは覚えたので、もう一人でも作れますっ」
ティリスは少し誇らしげだ。
「じゃあ今後の野営も楽しみにしてるよ」
「はい!」
元気よく美しい
彼女の服のポケットの中に何やらたくさん小さな文字が書かれた羊皮紙の束──おそらくレシピが書いてあるのだろう──を見つけてしまったが、気付かなかった事にしておこう。
「この肉はあたしが狩ってきた猪の肉だぜ!」
平たく斬られて焼かれた肉を見てララが嬉しそうに言う。
彼女も村の猟師と一緒に森に出てたくさん動物を飼ってきてくれたのだ。暴れ牛と呼ばれる巨大な牛の魔物も倒したそうで、村人達がこれまた歓喜していた。大きいので食える箇所が多いそうだが、何分狂暴且つ強いので、猟師とて出会っても逃げる事を選ぶのだという。
台車一杯に狩られた野生動物を見ると、またララは英雄扱いされていた。老若男女問わず、彼女が一番この村では人気者だ。
「ララも頑張ったな。偉いぞ」
「へへへ」
桃色髪を撫でてやると、嬉しそうに鼻の下をこすって、これまた誇らしげである。
村は歌えや踊れや飲めやでしっちゃかめっちゃかであるが、そこにはみんなの笑顔があった。
数日前、ここを訪れた時は廃村かと思うくらいに絶望に満ちていたけれど、今はこれだけ幸福が溢れている。
人の出入りが少ない閉鎖された村だが、食べ物や飲み物がたくさんあるだけでこれだけ人は幸せになれるのだな、と改めて思う。
いや……違うか。
多分、みんなで一致団結して危機を乗り越えたからこれだけ幸せな気持ちになるのだ。
「とりあえず……
ララが俺とティリスの杯に麦酒を継ぎ足して言った。
「そういえば、まだしてなかったな」
「麦酒で乾杯は初めてです」
なみなみに注がれた杯を見て、俺達3人は笑みを交わした。
「じゃあ──豊作を祝って」
3人で杯を上げて、「乾杯」と声を重ね、杯を空けた。
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