第13話 リスからの手紙

 体育祭という大きな行事がひと段落したところで、学校生活は日常を取り戻していた。

 毎日六限まで授業を受けては家に帰るの繰り返し。

 正直、平凡すぎて嫌になってしまうくらいだ。

 でも、こんな何気ない日常が幸せということなんだろうとつくづく思う。

 そんな幸せを噛みしめながら、今日も学校に登校するや否や靴箱に一通の手紙らしき封筒が入れられていた。

 俺はなんだろうと思い、それに手を伸ばす。

 裏面を見ると、そこには氏名が書かれており、どうやらまーちゃんのクラスにいるリスかららしい。

 とりあえず見た感じだとラブレターには見えないことにホッと一安心しながらも、それをポケットの中へと突っ込んだ。


「歩夢くん、どうしたんですか?」


 シューズに履き替えた優樹菜が近づいてきた。


「ん? 何でもないよ」


 俺はすぐに平素なフリをしながら靴からシューズに履き替えると、優樹菜と共に教室へと向かった。



 教室に到着してすぐに俺は自分の席に着くと、例の手紙をポケットから取り出した。

 封を切って、中身の紙を取り出し、黙読する。


 “上村くんへ

  今日の昼休みにお話ししたいことがあります。午後一時に校舎の屋上で待っています。必ず来てください。“


 たったこれだけの内容だった。

 詳しい内容は何一つ書かれておらず、呼び出しの文章だけ。

 一体なんの話があるというのだろうか……。

 俺とリスは体育祭での二人三脚の時が初対面だったはずだ。

 ほとんど知らない相手に何を話す? ……もしかして、告白か?


「ま、まさかな……」

「どうしたんだ? 珍しく独り言なんて」


 急に声をかけられ、俺は肩を跳ねさせる。


「そんなに驚かなくたっていいだろ」

「な、なんだ……明久か。いきなり声をかけるなよ……」


 前の席である明久が後ろを振り返っていた。

 俺はすぐに例の手紙を引き出しの中へとしまう。


「それよりなんかあったのか?」


 明久が訝しげな目で俺を捉える。


「い、いや、何にもないぞ? 別に普段通り」

「どこがだよ。そもそも歩夢の態度でわかりやすいし、絶対に何かあっただろ?」

「いやいや! 本当に何にもないんだってば!」

「本当にか?」

「ホントホント!」

「浮気……とかじゃないよな?」


 明久の視線がさらに鋭くなる。


「な、何言ってんだよ。俺には優樹菜がいるし」

「今ちょっとだけ動揺したよな? 怪しい……」


 妙に鋭いところをついてくる明久。

 俺は冷や汗を額や背中に流しながらもどうにか笑って誤魔化す。


「本当に違うよ。そもそも俺がモテるとでも思うか? 中学の時なんて全然モテてなかったんだぞ?」

「それはたしかにそうだが……まぁ、歩夢に限ってあり得ないか」

「そうだよ。俺がモテるはずがない」

「そうだな。でも……優樹菜ちゃん以外に女を作った時は本気で許さないからな? あんな美少女が妹であって、彼女とか……世の中の男子が羨ましがるレベルだぞ? その上に別の女ときたらもう……欲張りセットじゃねーか! それだけは許さん! マジでわかったか!?」

「あ、ああ……」


 俺は明久の勢いに若干引いていた。

 あれだけ俺と優樹菜の仲を反対していたというのに今では肯定的……というか、むしろ羨ましがってるレベルにまでなっている。

 彼に何があったのだろうか……一瞬脳内に明久の実妹である千夏ちゃんのことがチラついた。

 が、まぁ関係ないよねっ!

 明久が正面に身体を向き直した時、ちょうどチャイムが鳴り、担任の先生が教室に入ってきたとともに朝のSHRが始まった。

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