第25話 義妹と恋人関係になって何が悪い?②
家に帰り着くと、優樹菜がエプロン姿で出迎えてくれた。
「おかえりなさい」
「ただいま。優樹菜、少し時間あるか?」
「? 一応ありますけど……?」
優樹菜はきょとんとした顔になる。
「話があるんだ。リビングの方で少し話せないか?」
「……わかりました」
俺は靴を脱ぐと、荷物を玄関先に置いて、優樹菜と共にリビングへと向かう。
リビングに入ると、夕飯のいい匂いが立ち込め、食欲をそそられる。
そのまま俺は、ダイニングテーブルに腰掛けると、優樹菜は一度キッチンの方へと向かい、IHを止める。たぶんだが、話が長くなるんじゃないかと直感したんだろう。
そして、戻って来た優樹菜は俺の対面席にちょこんと座った。
「それで、話というのは……」
優樹菜の表情が複雑なものになっていた。
恐怖と不安、覚悟といった感情などが入り混じっている。
俺は、今から話さなくてはならない。学校の奴らに俺たちの関係がバレてしまったことを。
心を落ち着かせ、どのくらいか間を置いた後、俺は重々しく口を開く。
「俺たちの関係がバレてしまった。明日ごろには全校生徒に広まっていてもおかしくないだろう」
優樹菜の瞳が大きく開かれる。
俺は続けて話す。
「そこでだ。俺たちの関係は別に学校の生徒にバレたところであまり問題はないだろ? まぁ、友人をなくすかもしれないが、俺はそれでもいいと思っている。本当の問題は親父と母さんだ」
母さんはどうなのかはわからないが、親父に関しては認めてくれない可能性が高い。
何かと世間体というものを気にする親父だからな。俺たちの関係が耳に入った瞬間、何がなんでも別れさせるかもしれない。
そんな親父たちをどう説得させるかだ。
「お兄ちゃん……もし別れろって言われたらどうするんですか?」
優樹菜の表情が不安一色になった。
「別れるって選択肢がまずないからなぁ……」
俺の答えを聞いた優樹菜は少しホッとしていた。
「それよりまずはどう説得するかだ。説得次第では俺たちの関係を認めてくれるかもしれない」
「でも、どうやって説得すればいいのでしょうか?」
「そこがわからん。ある程度筋が通った説明ができれば、ワンチャンあるかもしれないが、単に好きだからという理由だけでは無理かもしれない」
「好きという理由だけじゃダメなんですね……」
優樹菜がわかりやすく気分を沈める。
好きに理由も理屈もないということはわかっているし、それが常識だと思う。
例え、好きになった理由を具体的に話したところで、お前たちは兄妹だろで一蹴されるに違いない。
俺は、優樹菜を安心させるべく微笑んで見せる。
「大丈夫だ。絶対に認めさせてやるから」
「どこが大丈夫なんですか……。ちゃんと説得できるんですか?」
「ま、まぁ絶対とは言い切れんが……とりあえずだ。兄で彼氏の俺を信じろ」
「本当に信じていいんでしょうか……」
優樹菜がジト目で俺を見つめてくる。
そんなに見つめられると、せっかくの自信が不安へと変わっていってしまう。
今はまだどうなってしまうかはわからない。
もしかしたら俺たちの関係をすんなり認めてくれるかもしれないしな。
「話はもう終わりですか?」
「あ、ああ。今回はただ報告をしたかっただけだからな」
「そうですか。じゃあ、私は夕飯の支度に戻りますね」
そう言うと、優樹菜は席を立ち、キッチンの方へと向かう。
すっかり冷めきってしまったであろう作りかけの料理を再び、温め直しながら、皿の準備などをしている。
俺はそんな光景をしばらく眺めた後、リビングを出て、玄関先に置きっぱだった荷物を自室へと運ぶ。
ひとまずは優樹菜に事態を知らせることができた。
問題は明日からだ。
明日以降は俺たちを見る目が変わっているはずだ。
大体の人が俺と優樹菜を白い目で見てくるに違いない。
「これから先、やっていけるのか……?」
思わず、つぶやいてしまった。
理解者が多少いれば、学校生活もその分楽になると思うけどな……。
☆
翌日。
学校に登校するなり、事態は予測通りだった。
みんなからは白い目で見られ、こそこそと所構わず陰口を言われる。
友人である明久も今日は話しかけてくることはなく、ずっと前を向いている。
俺と優樹菜は完全に孤立状態へとなってしまった。
もはや俺たちに話しかけてこようとする人はクラスには誰一人いなく、みんな距離を置いている。
――思った以上にキツイな……。
今までクラスの連中からは陰口など言われることなく、人間関係も良好だった。
しかし、今回のことで俺のイメージは確実にダウンしただろう。
それは優樹菜も例外ではない。
俺の場合はイメージダウンに加えて、学校一の美少女である優樹菜を彼女にした。ただでさえ、妹になったということで恨まれていたのに対し、さらに彼女となると、優樹菜のことを好きだった男子やファンからしてみれば、恨みを通り越して、もはや暗殺を目論むレベルだろう。
そうなってしまうことには、相応の覚悟はしていたけど……そいつらの視線が痛すぎる。
まるで鋭利な刃物で心を何度も滅多刺しにされているような感覚だ。
SHRまではまだ時間がある。
それまでスマホでもいじっとくか。
と、思っていると、ちょうどラインの着信音が鳴った。
俺は誰なんだろうと思い、ラインを開く。
「って、なんで俺のラインを持ってんだよ……」
明久の妹であり、この学校の一年生である千夏ちゃんからだった。
俺の記憶上では、千夏ちゃんには何度か顔を合わせたことはあるけど、ラインを教えたことはなかったはず。
となると……俺は前の席に座っている明久をじーっと見つめる。
明久は視線に気がついているのか、時折身震いする。
俺は「はぁ……」と、深いため息をついた後、改めて千夏ちゃんから届いたラインの内容に目を通す。
“先輩! 話したいことがあるんで今すぐ校舎の屋上に来てください!”
なんと言うか……一方的な内容だった。
せめてなんの話なのか書いて欲しかったけど……行くしかないよな。
周りの視線を気にしつつも、俺は席を立つ。
ふと優樹菜の方を見ると、視線が合ってしまった。
優樹菜はどこに行くの? みたいな目をしている。
たしかにこの状況で一人になるのは不安だし、逃げ出したくなるくらいに嫌で酷だと思う。
けど、だからと言って、俺と一緒にいれば、それはそれで何かと悪化していくかもしれない。
ここは優樹菜には悪いが、少しばかり我慢してもらうしかない。
俺は、ラインを使って、優樹菜に明久の妹である千夏ちゃんに屋上へ来るよう呼び出されたこと、その間少し教室で待っていて欲しいことを書いて送った。
すると、それを読んだ優樹菜は再び俺の方に目線を向け、こくんと一回頷く。
SHRまでの時間を考えると、そこまで長く話し込むということはないだろう。
とりあえずは、千夏ちゃんが待っているであろう校舎の屋上に向かうとするか。
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