第16話 ピチピチのスクール水着②

 約二時間にわたる掃除が終わり、残り時間は自由となった。

 みんなは掃除道具を倉庫に片付けると、水が溜まったプールの中へと入る。

 真面目に泳いだりする人もいれば、プール内で鬼ごっこだったりさまざまな遊びを男女問わず行われている。

 そんなきゃっきゃっ騒がしい中で俺はというと、更衣室にいた。

 掃除は結構疲れたし、正直な話プールは苦手だ。泳ぐことができない。

 そのため、一人ポツンと更衣室でスマホをいじっているのだが……外の騒がしい様子を見ていると、仲間外れ感が出て少し悲しくなってしまう。

 ――金槌じゃなかったらなぁ……。みんなと同じように遊べてたのに……。

 そんなことを思いながら、最近ハマっているパズルゲームのアプリを起動させていると、更衣室のドアが開いた。

 俺は一瞬驚きのあまり、座っていた机から腰を浮かす。


「って、優樹菜?! な、ななななんで男子更衣室に入って来てんだよ!?」


 誰が来たんだろうと思った瞬間、そこに現れたのは、スク水姿の優樹菜だった。

 優樹菜は俺の存在に気がつくと、どこかホッとしたような表情を見せる。


「歩夢くんじゃなかったらどうしようかと思った」

「どうしようも何もここに入って来たらまずいだろ……」


 もしこの状況を誰かに見られてしまったらどう説明すんだよ。それが先生だったらなおさらだ。生徒ならまだなんとかごまかせる手はあるにせよ、教師相手には何もかも通用せず、問答無用で生徒指導室送りにされかねない。

 男女二人きりでしかも更衣室というエロゲでありそうなシチュエーション。実際にしたことがないからわからないけど。

 優樹菜は、無表情のまま俺の隣にちょこんと腰を下ろす。

 俺もとりあえずスマホをリュックの中へ直すと、再び座り直した。


「歩夢くんがいなくなってたから少し心配した」

「それは……なんか、悪かったな……」


 彼女に心配されるということがこんなにも幸せなことだったなんて、今初めて経験した。

 俺はどうしていいかわからず、もじもじとしていると、優樹菜が体を俺の方に預けてくる。

 少し膨らんだ胸がつんつんと突くように当たり、俺の心臓は破裂寸前。心拍数が自分でもわかるくらいに急上昇して、体が熱い。

 ――ここサウナじゃなかったよね?

 そう勘違いしてしまうくらいに熱気が空気中に放出されていた。

 それは優樹菜も同様なのか、若干心音が聞こえたりしている。顔も赤くなっていて、ものすごくエロい。

 俺は一体どうすればいいのだろうか……。

 こんな状況、とてもじゃないけど耐えられない!


「そ、そろそろ更衣室から出ようかなー。みんなと遊びたいしー」


 めちゃくちゃ棒読みになっていた。

 仕方がない。なにせ、美少女で彼女の優樹菜が体を密着させているんだから。

 俺は立ち上がろうとする。

 が、すぐさまに優樹菜が俺の腕を引っ張って、座らせようとする。


「ど、どうしたんだよ?」


 そう訊くと、優樹菜は恥ずかしそうに目線を下に逸らす。


「せ、せっかく二人きりなんだから……もう少し、いてほしい……」


 優樹菜のすがるような上目遣いが俺を捉える。

 うるうると目が潤み、超絶可愛く見えた。

 ――こんな水着姿でそんなことを言われてしまえば……。

 自分の中にいる狼を必死に取り押さえながら、俺は再度優樹菜の隣に座った。


「あ、ありがと……」

「い、いや、別にいいんだ……」


 本当は良くない。このドキドキ感……どうにかなってしまいそう。

 それからして俺たちの間では気恥ずかしさというものもあってか、会話らしい会話は一つもなく、ただ時間が過ぎ去っていくのを感じるのみだった。

 どのくらい時間が経過したのかもわからない。今の状態では、なぜか時間のことなんて気にすることすらなかった。

 やがて外の騒がしい声が聞こえなくなってきたところで我に帰る。


「ゆ、優樹菜! もうそろそろ出た方がいいん––––」


 その時だった。

 更衣室のドアが開く音がした。

 俺は言いかけた言葉をすぐにしまい、優樹菜の腕を強引に引っ張る。


「痛い……」

「ごめん! と、とにかく隠れて!」


 俺はそう言うと、優樹菜と共に使われていない古びたロッカーの中へと入った。

 ロッカー内はとても臭くて狭い。

 隙間から様子を窺うと、ぞろぞろと男子たちが入ってくる。

 今こうして冷静に考えてみれば、俺まで隠れる必要はなかったなと思っていると……何やらふにゃんと柔らかい感触が手の平に伝わってきた。

 それは手に吸い付くような弾力でいつまでも触っていられるような不思議な物体。

 最初は中が暗くてよく見えなかったが、次第に目が慣れていき、ロッカー内の様子がある程度わかるまで見えるようになったところでその物体がなんなのかが判明。

 俺の片手は見事に優樹菜の胸部に当てられていた。


「こ、これは、その違うんだ……本当にすまん」


 声をひそめながら俺は謝罪した。

 優樹菜は恥ずかしそうな仕草をしながらも抗議のようなことを口にする。


「そ、そう思っているのなら、早く手をどかしてください……」

「そうしたいのは山々なんだけど……」


 このロッカーはかなり狭い。そのため、身動き一つ取れない状態になっている。

 それに今下手して動いたりでもすれば、ロッカーのドアが開いてバレる可能性がある。

 ここはみんなが更衣室から出て行くまで我慢するしかない。

 優樹菜もそのことがなんとなくわかったらしく、そのあとは何も言ってこなかった。

 こんな狭くて暑苦しいロッカー。

 優樹菜はどう思っているのかはともかくとして、俺からしてみれば、考え方によっては非常にラッキーなことなのかもしれない。

 次の授業は五限目から。今が四限目だったことが少なからずの幸いと言えるだろうか。

 気がつけば、更衣室には男子の姿は消えていた。


「本当にごめん!」

「……」


 ロッカーから出ると、俺は再度頭を下げて謝った。

 が、優樹菜は怒っているのかどうなのか、何も答えず、そそくさと男子更衣室から出て行ってしまった。


「やってしまった……」


 俺は優樹菜から嫌われてしまったのだろうか……。

 もしそうであるならば俺は今後どうしたらいいんだ……。

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