第12話 兄弟間での恋愛なんて認められないっ!③
それから翌日。
俺と優樹菜の様子を見ているクラスメイトたちは唖然としていた。
それは明久も例外ではなく、陸に打ち上げられた魚のように口をパクパクとしている。
「お兄ちゃん、今日の夕食何が食べたい?」
「え、えーと……なんでもいいかな」
「それだと困ります! 献立を考えるのも一苦労するんですからねっ!」
そう言って、頰を膨らます優樹菜。
俺の席には無数の視線が集まり、ものすごく居心地が悪い。
とりあえず適当なものでも言っておくかと脳内でいろいろなメニューを思い浮かべる。
「じゃあ……オムライスで」
「オムライスですか……。わかりました。一応材料はあったと思うのでそれにします」
「ああ、お願いな」
昨日とは別人格なのではと疑ってしまいたくなるほどに変わってしまった優樹菜。
その様子を見れば、誰しも何があったと思ってしまうだろう。
俺と優樹菜が付き合ってから一日が経過した今日。俺たちの関係を知っているのは他に誰もいない。
二人だけの秘密。
なんかハラハラしたものがあり、スリルというものを感じてしまう。
俺たちの関係は誰にも知られてはならない。昨日あの後、二人でそう決めた。
……のだが、続かないような気がするのは俺だけだろうか?
優樹菜の様子は明らかにいつもと違う。ほとんど笑顔というものを見せなかった優樹菜が俺に対してだけは笑顔を見せ、休み時間のたびに俺の席に近寄っては話しかけてくる。
––––バレてしまうのも時間の問題のような気がする……。
そんなことを考えていると、授業開始のチャイムが鳴り響く。
教室前方出入り口からは現代文の先生が入ってきて、すぐに授業が始まった。
俺は何気なく、いつも通りに授業を受けていると、前の席に座っている明久から小声で話しかけられる。
「歩夢、一体何があったんだよ?」
やはり気になっていたようだ。
「別に何があったていうわけじゃねーよ」
例え、友人の中で一番仲がいい明久にも俺たちの秘密を話すわけにはいかない。
だから、バレない程度に嘘をつくことにした。
「でも、お前らあんなに仲良くなかっただろ」
「まぁ、最初の頃はそうだったな。なにせ、あまり話したことがなかったし。それにいつまでも仲が悪いというわけではないだろ。一緒に暮らしてれば、ふとしたきっかけで仲が改善されることもある」
俺たちの場合は改善したどころか、その先まで行ってしまったけどな。
「義理って、そういうものなのか?」
「一概には言えないだろうな。俺たちとは違って、逆に悪くなっていくパターンもありえそうだし」
こればかりはなんとも言えない。
義理だからと言って、必ずしも仲良くなれるとは限らないし、何かしらの出来事でお互いを忌み嫌う可能性だってある。
血の繋がらない兄妹というものは本当に不思議な感覚だ。一応親同士が再婚したからということで兄妹にはなっているけど、実際には血縁関係はないし、家族という感じにはならない。もっと簡単に説明するのであれば、同じ家に他人が同居しているような……シェアハウス的な感覚に近いのかもしれない。実際にシェアハウスに住んだことがないからわからないけど。
「それにしてもいいよなぁ。義理の妹があんなに可愛くてさ」
「……前にも似たようなこと言ってなかったか?」
「そうだったか? けど、あんな美少女と仲良くなれるなんてなぁ……。俺の両親離婚してくんねーかなぁ? そしたら、どっちかが再婚してくれれば、ワンチャン……」
「お前……さらっとひどいこと言ってるが、その自覚はあんのか?」
両親が離婚してほしいって思っている子どもなんてそうそういないぞ?
もし、このことを明久の両親が聞いてしまったら、間違いなく勘当されかねない。
「まぁ、俺には可愛い実の妹がいるからいいけどね」
「実の妹って……」
思わず苦笑してしまった。
そう言えば、明久ってシスコンだったな。
妹はたしかこの高校の一年生だったはず。
高校生の妹を可愛いと表現するのはどうかと思うが、俺基準で言うのであれば、優樹菜には劣るにせよ顔面偏差値は高いことに間違いない。
故に……
「千夏はモテるからな。兄貴の俺が悪い害虫どもを駆除してやらねばならない」
熱い闘心を燃やしている明久。
その瞳は本当に燃えたぎっているように見える。
シスコンもここまで来るともう清々しい。俺ですら最初の頃は妹のいいなりになって、犬に成り下がっていた明久にドン引きしていたが、それがもう今では普通のように感じられてしまう。慣れって怖いね!
「明久……妹が好きすぎるのはわかるが、ほどほどにしとけよ? でないと、嫌われるからな」
「嫌われるだと? そんなバカな」
本当にバカにされたような笑い方をする明久。ちょっとイラっとした。
「そう言っているけど、実際妹の立場で考えてみろよ。こんなベトベトしてくる兄貴のことを好きだと思えるか? 俺だったらもう嫌いになるね」
「き、嫌いになる……? そ、そんなわけないだろ……」
俺の言葉を聞いた明久の様子が変わった。
なんと言うか……絶望する手前みたいな感じ?
俺も少し言いすぎただろうかと思いつつも、こいつと小豆ちゃんのためだ。しっかり現実を教えてあげなければならない。
「そんなわけあるぞ。千夏ちゃんも明久のことが好きならまだしもそんな素振り見せてるか? 俺がお前たちの様子を見る限りでは、千夏ちゃんの態度めっちゃ冷たいように見えるけど?」
「そ、それはあれだよ。ツンデレ? っていうやつに違いない!」
「どう見てもあれはツンデレの類じゃないぞ? ガチっぽく見えるんだけど?」
「……」
明久の目がどんどんと濁り始め、光を失っていく。
まるで死んだ魚のような目に変貌してしまった明久は小さくうめき声を上げながら、顔を前に戻すと、机の上に倒れ伏した。
その様子をたまたま発見した現代文の先生が近寄って来る。
「どうした? 体調でも悪いのか?」
「た、体調というよりかは、精神的なものと言いますか……」
「? ちょっと何言ってるのかわからないが、もし体調が悪いのであれば、保健室で休んで来なさい」
「はい……」
それだけを伝えると、現代文の先生は教卓に戻り、明久を放って、授業を再開した。
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