第11話 兄妹間での恋愛なんて認められるはずがないっ!②

 放課後になった。

 激しい雨が地面を叩きつけ、雨粒が傘に打ち付ける音が常に響いている。

 そんな中で俺と優樹菜はいつものように二人で下校していた。

 が、今朝のこともあってか、今日ばかりは空気が重たい。

 終始ほとんど無言は、常にあることだが、今続いているこれはまた別種の無言。

 どうにかしてこの最悪な状況を打破したいところではあるが……。


「ゆ、優樹菜。朝のことはその……とりあえずは気にしないでくれ」


 そう言うと、優樹菜が顔だけこちらに向け、足を止める。

 その瞳は思い悩んでいるようにも見えた。


「私……別に歩夢くんのことき、嫌いとは言ってない……」

「……え?」


 優樹菜は小さな声で呟くと、顔を俯かせる。

 一方で俺は今だにどういう意味なのか理解できていなかった。

 それを見兼ねてなのかどうなのか、優樹菜が再び口を開く。


「ただ私たちはあくまで兄妹。昨日も言ったけど……兄妹間での恋愛は法律が認めたとしても親や親戚、周りの人たちが認めてくれない」


 要するに優樹菜が俺の告白を断ったのは、周りの目や偏見を気にしてということなのか? だとすれば、俺としてはそれがどうしただ。

 まだ血が繋がっている兄妹ならまだしも、俺たちは義理。法律上では他人として扱われ、結婚することだって認められている。なら、問題はどこにもないじゃないか。

 親同士が再婚して夫婦になったからと言って、俺たちの人生には関係ない。


「周りがどうした……? 親が再婚したからと言って、俺たちは幸せになっちゃいけないのか?」

「……」

「親は親だろ。法律的にも義理であれば、結婚はできる。いわば、認められてるんだぞ? それなのに兄妹だからという理由でフラれるのは……俺としては納得ができない」


 好きな人がいると言われて、フラれた方がまだマシだったかもしれない。

 そうすれば、簡単には諦めきれないとは思うが、どこかで仕方がない、俺には釣り合わなかったんだって思うことができた。

 なのに兄妹だからという理由で付き合うことができないと言われてしまうと、俺としては諦めきれない。

 ––––今までずっと想い続けてきた俺の気持ちはどうなるんだよ……。そんな理由で……。

 優樹菜は俺の言い分を聞いて、ずっと下を向いたまま。

 もちろん優樹菜が思っているところもわかる。兄妹同士での恋愛なんて周りから見れば、気持ち悪がられるだろうし。

 これはそう簡単な問題ではない。結局のところ、俺が付き合いたいと思っていても、優樹菜がノーと言えば、恋人関係は成立しないから。


「じゃあ……どうすればいいの……?」


 優樹菜の震えたようなか細い声が外の音を打ち消すように発せられた。


「私だって、できればそうしたい。でも……兄妹になってしまった以上仕方がないことでしょ?」


 優樹菜が顔を上げ、俺を見つめる。

 目頭には涙がたまり、今にも決壊しそうだ。


「気にしなければいいんじゃないか?」

「気にしなければいいって……」

「たしかになんとなく無責任な発言に聞こえてしまうかもしれないが、実際にそうだろ? 周りがとやかく言ったところで俺たちは何も悪いことなんてしていない。胸を張って堂々としていればいいと思うけどな」


 俺としては、もし付き合った場合はそのつもりだ。

 優樹菜と交際できるのであれば、何もかも捨ててでもいい。……なんか気持ち悪いような言い方ではあるにせよ、覚悟はできている。

 どのくらいか沈黙が俺たちの間で流れ始める。

 辺り一帯は雨音でうるさいのにそれがなぜか気にならない。

 空を見上げれば、ドス黒い雲が永遠と続き、俺たちを見下ろしている。


「歩夢くん……」


 優樹菜の真っ直ぐで透き通った目が俺を捉える。


「ん?」

「私のこと……大事にしてくれる?」

「ああ……」

「可愛がってあげたり、守ってあげたりしてくれる?」

「もちろん……」


 俺の返答を聞いた優樹菜は口角を緩め、微かな微笑みを見せる。


「なら……安心だね」


 優樹菜はそう言うと、傘を放り投げて、俺の胸に飛び込む。

 いきなりの行動にどう反応していいかわからず、されるがまま。


「ゆ、優樹菜さん……? 何してるんですか……?」

「何って、歩夢くん成分を補給してるの」

「はい?」


 何それ? 初めて聞いた成分なんですけど?

 優樹菜は赤くなった顔を深く埋めると、むにむにしている。


「いいでしょ? 私たち付き合うことになったんだから」


 優樹菜の甘い香りが鼻をつく。

 柔らかく小さな体を密着させ、上目遣いをする優樹菜はめちゃくちゃ可愛く見え、思わず見惚れてしまう。


「い、いつまで見てるの? 恥ずかしいんだけど……」

「あ、ご、ごめん! あまりにも可愛くてさ……」

「……可愛いって簡単に言うな」


 優樹菜は小さくそう言うと、顔を隠すようかのように俺の胸に再び埋める。

 今後はどうしたものか……。

 やはり周りのことは気にしないとはいえ、あまり問題にはなりたくない。

 しばらくの間はひっそりした交際になりそうだなぁ……。

 気がつけば、雨は止み、ドス黒い雲の隙間から光が差していた。


 "これからもよろしくね。ずっと一緒だから……"


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