第12話
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十分が経過した。スコアに動きはなかった。バルサは得点の匂いはしていたが、ゴールのバーに弾かれたりと運がなかった。
天馬が中にパスした。敵5番がカットした。すぐに前方に目をやって、大きく蹴り出す。バルサは両サイドバックが攻撃参加したため、自陣は手薄だった。
神白は瞬時に決断し、地を蹴って前に加速。頭から飛び込み、ボールを弾き返した。
低い軌道で飛んでいき、8番へのパスになった。しかし、猛然と走ってきた暁が8番の前に出た。腿でトラップし、右足で収めて前へとドリブルを始める。
(遼河!)神白は危機感を抱き、後ろ走りで引き始めた。
暁がモーションに入った。神白はいよいよ危険を感じ、ゴール側に向き直り疾走する。
後ろでボールが蹴られる音がした。神白は五歩行ってから、首だけで振り返る。案の定、暁の超ロングシュートがバルサのゴールに向かっていた。
(~~間に合え!)神白は焦燥に駆られつつ、全力で足を動かし駆け続ける。
落ちてきたボールがワンバウンドした。そのままゴールへと跳ねていく。
神白は、スライディングの要領で跳んだ。ボールがゴールラインを割る直前で、どうにか右足の甲に当てた。
カンッ! 斜め上に軌道が変わり、ボールはクロスバーに当たった。(くっ! 外に出せなかった!)神白が悔やんでいると、ゴールネットが超速で近づいてきた。止まれるわけもなく、神白はネットに衝突した。
(まだボールは生きてる!)神白は焦った。すばやく足をネットから抜いて、振り返りつつ立ち上がった。
9番とアリウムが並走していた。だが9番がわずかに早い。アリウム、足を出すも9番のシュートを防げない。
地を這うシュートがゴールに迫る。神白は跳んだ。左手に当たり、真横に転々と進んでいった。
「OK!」駆け寄ってきたアリウムが叫び、左足でボールを蹴った。ラインを割り、ヴィライアのスローインとなる。
神白はすうっと立ち、暁に目を向けた。暁は貪欲な笑みを浮かべていた。
「楽しいなぁ、樹! 俺は本当に楽しい! セットプレーで一点取って、それから前半はうまく守り切れて。このまま逃げ切れるんじゃねえかと思ったら、本性を発揮したバルサに数分で振り出しに戻されて! ヴィライア、大ピンチだ! ここから俺が決勝点でも決めてみろ! 俺はスターだ、英雄だ! 想像しただけで武者震いが止まらねえよ!」
心の底から愉快げに、暁は熱弁を振るった。
暁を見据えつつ、神白は負けじと言い返す。
「悪いけど、遼河の野望は叶わないよ。ここからずうっとうちの独壇場だ!」
大声の宣言を聞き届け、暁は笑顔をいっそう大きくした。
(油断のないようにしていかないとな。今の遼河は、絶好調の時の雰囲気に近い。本当に点を取られかない)
神白が気を引き締める一方で、ヴィライア5番がスローインを行いボールが再び動き出した。
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