第三章 神戸の盟友との決戦

第1話

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 一週間後、土曜日の午前九時前、神白は練習グラウンドで先輩キーパーと練習をしていた。チーム練習の前に、キック精度向上に取り組みたかった。

 この土日は、日本のJ1のチーム、神戸ヴィライアのU18(18歳以下)のチームが来る予定となっていた。土曜は合同練習、日曜はテストマッチというスケジュールだった。

 コーナーフラッグ付近の先輩キーパーがパントキックを放った。大きな弧を描いてボールは飛び、センターライン上の神白へと落下してくる。

 神白は足の甲に当てた。真上に少し跳ね、ボールは神白の足元に落ちた。

 トラップの出来に満足していると、「おいっす! 樹! 元気してっかよ?」とざっくばらんな声が耳に飛び込んできた。

 神白は振り返った。コートの入り口に二十人ほどのジャージ姿の者たちがいた。神戸ヴィライアの面々だった。

 そのうちの一人が神白に視線を向けていた。「よっ」という感じで、敬礼に近いポーズを取っている。

遼河りょうが!」喜ぶ神白は即答した。先輩キーパーに合図をしてから、自分の名前を呼んだ者、あかつき遼河へと駆け寄る。

 暁の第一印象は、雄々しいスポーツ選手というものだった。身長は、百八十センチ後半の神白よりわずかに低いが、佇まいには獣のような力強さがある。

 髪は四方八方に広がっており、ボンバーヘッドに近いものがあった。動物で例えると、ライオン。神白は昔から、暁をそのように捉えていた。

「会うのは──三年ぶりになるかよ。時の流れは速ええもんだ。にしても全然変わってねえな」

 暁は嬉しそうな瞳で神白の全身を見回した。太めの眉と目ぢからのあるどんぐり眼からは、強烈なパワーが感じられる。

「でもやっぱ、テレビで見るのとは違うな。貫禄、もといオーラがあるっつうかな。スペイン最高峰のチームの荒波に揉まれ揉まれて、一皮も二皮も剥けましたってか。バルサでずいぶんとすばらしいサッカー・ライフを送ってるみてえだな。よっ! この幸せもんが!」

 冗談めいた台詞の後に、暁は破顔した。ぱしんと神白の左肩を叩く。裏表のない男前な笑顔だった。

 暁は神白と同い年で、ルアレ下部組織時代のチームメイトだった。別離は十五歳、二人がカデーテBに所属していた時だった。神白はバルサに、暁は神戸ヴィライアに移籍した。

「ああまあ、けっこう楽しくやってるよ。今日、明日とよろしくな。互いに得るものの多い、充実した二日間にしよう」

 慈しみを込めて言葉を紡ぎ、神白は暁に笑いかけた。気の置けない友との再会は、やはり心躍る展開だった。

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