第10話

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 十五分ほどが経ったが、未だスコアに動きはなかった。神白は好調だった。イスパニョール戦での失態はもう頭にはなく、完全に試合に没入できていた。

 補欠組のシュートが枠を外れ、主力組のゴール・キックになった。敵キーパーは外に開いた4番に出した。

 首振りで周囲を確認し、4番はボールを受け前を向いた。すぐに中盤の6番がするすると下がってくる。

 4番は6番に出す。6番はワンタッチで前を向き、上がった左サイドバックの3番にダイレクトではたく。

「ヘイ!」レオンが叫んで動いた。3番はダイレクトでレオンにパス。

 補欠組14番はレオンに追随。肩をぶつけて妨害するが、びくともしない。

 レオン、すばやく首を振る。ボールは止めずに股の間を通してスルー。後ろにいた9番がキープし、攻撃の起点となる。

(そこでスルー! 魅せてくれるな。やっぱりレオンは格が違う、か)

 油断なく構えつつ、神白は一人驚嘆していた。

「こっちっす!」左の天馬が大声で叫ぶ。9番は反転し、天馬へとパスを転がした。

 ちょんっと前に出して天馬、一気に加速。四十m四秒五七の俊足ゆえ、走る様は疾風のようである。

 補欠組の16番がフォローに来た。天馬は大きく跨ぎフェイント。16番の重心のぶれを視認し、反対にボールを出した。

(来る!)神白は一瞬で警戒を最大に引き上げた。

 天馬は撃った。地を這うシュートだ。ゴールの枠を捉えている。

 神白は跳んだ。指先に当てた。ボールは軌道が変わり、コートの外に転がっていく。

「ひえー! なんすかその超反応! カンゼンカンペキ決まったと思ったのに!」

 驚嘆を滲ませる声音で天馬が叫んだ。

(悪いな天馬。俺は約束は守るんだよ。戦力的にはお前たちが上だけど、サブ組のキーパーは俺だ! 今日は一点足りとも取らせない!)

 己を鼓舞した神白は、立ち上がりボールを取りに行った。

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