第12話 不思議な少女

 昨日約束した場所に向かう途中、雨が降り出した。フォリンと離れるのは久しぶりだな。少し心細く思っていると雨はさらに強くなり、服が肌に纏わりつく。晴れている日とは表情の違う森を歩いていると、約束の地が見え始めた。

「雨でもあの青は綺麗なのね……」

 感心してつぶやく。雨が叩きつけるようになって、岩場に腰をかけた私に容赦なく降り注いだ。

「エデンさん、遅いな……」

 フォリンも遅かった。雨だからどこかで休んでいるのかもしれない。重たい水滴は、小ぶりな花たちにまで及び、その勢いでくたった花を一輪摘み取る。

「こんなになって、かわいそうだね」

 もちろん花は何も答えない。その花を岩場に置いて立ち上がろうとしたとき、ぐらっと地面が揺れたように見えて倒れた。うっすら目を開けると夢で見たことがある少女がいた。私の顔を覗き込むと、

「お兄ちゃんを助けて」

と言って、吸い込まれるように姿が消える。そのまま私の意識も遠のいていった。


「ナタリア! ナタリア!」

 聞き覚えのある声にゆっくりと目を開ける。そこには母の顔があった。

「お母さま! ナタリアが目を覚ましたわ」

 駆け寄る足音が聞こえた。

「よかった。フォリンに感謝しなきゃだね」

「ん……?」

 手が痺れて、うまく動かなかった。

「フォリンがあなたのことを見つけて家に戻してくれたのよ」

 全てに、もやがかかっているようだった。

「ねぇ、大丈夫?」

 母の声にこくんとうなずく。エデンさんのことを聞きたかったけれど、母には言えないと思い出した。

「エデン様、森で倒れていたんですって」

 だから、母の言葉がすぐには理解できなかった。

「え……」

「ごめん、おばあちゃんに全部聞いちゃったわ。でも、私が頑なすぎたってこともわかってるつもりだから、もう強制はしない」

「それで、エデンさんは無事……なの?」

「噂によるとまだ意識が戻らないらしいわ」

 体を起こそうとするが、やはり力が入らない。おまけに咳も止まらなかった。

「エデン様の看護で私は宮殿に呼ばれたんだけれど、ナタリアも来るかい?」

 その提案は実に魅力的だった。

「うん、行く」

 反射で答える自分に、今更驚きはしない。

「じゃあ、これを飲んで、早く手の痺れを取りなさい」

 この人は魔女なんじゃないかと本気で思ったことがある。そのくらい祖母の観察眼は凄まじかった。そして、煎じたハーブを水で流し込むともやが晴れたように調子もよくなった。

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