第11話 母の覚悟

 黒竜なしで向かうのは数年ぶりだった。濡れた地面に足を取られながら、ナタリアの母は進む。

「エレン!」

 遠くから声が聞こえた。

「お母さま!」

 泥がはねるのも気にせず駆けていく。

「エデン様が行方不明になったそうだよ」

「ええ、ナタリアの友達から聞いたわ」

「ナタリアはその事を知っているかい?」

「いいえ、朝一番にクインの実を採りに行ったから知らないはずよ」

「まずいことになった……」

「どうしたの?」

「いや、白状すると昨日二人が家に来たんだ」

「え?!」

「黙ってて悪かった。けれどエレンに言ったら怒るだろう?」

「それはそうですよ! 身分違いの恋に溺れてあの子がお嫁にいけなくなったら、どうするんです?」

「おや? まるで自分のことを言ってるみたいだね」

「からかわないでお母さま」

「今の王は薄情だよ。身籠ったお前に手のひらを返したように結婚して」

 彼女の目には涙が溜まっていた。

「もう、その話はやめて」

「わかったよ。お腹の子はだめだったけど、家には天使が来てくれた」

「ナタリア……」

「あの子は駆け落ちを企んでたんじゃないかなと思う」

 思い当たる節があるのか、エレンはぐっと唇を噛んだ。

「もし、エデン様に何かあったら……。約束を破られたと思ったら……」

「そう、それが一番心配なんだ」

 二人はクインの実がなっている場所へと急いだ。泥は粘着性が高く、彼女たちの行く手を阻む。しかし、エレンの目には一種の覚悟のようなものが宿っていた。

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