第3話 臨時教師
体育館は騒めいていた。
いよいよ休校か?と喜ぶ奴。不安がる奴。
様々だった。
俺は別に嬉しくは無いが、姉さんのためには休校の方がありがたいかなと。
そう考えていた。
ウチの学校の体育館は、内装は汚くはないが、築年数は結構あったはずだ。
たまに放送設備がトラブルを起こすことがあるのだが、建て替えの話は聞いていない。
金が無いのだろうか?
壇上は幕が上がっており、演説台の上にマイクひとつ。
今は誰も上がっていない。
そして壁際に、教師陣が椅子に腰かけているのだが。
……おや?
ひとり、見かけない人が居た。
女性だった。
だがしかし、混雑する他生徒が邪魔で、すぐに分からなくなった。
しばらくすると、「静かに!」という教師たちの声が飛び、壇上に太った初老の男……この学校の校長が上がってきた。
校長は咳払いをし、マイクのスイッチを入れて、一拍置くと
「今朝、警察から6件目の殺人事件が起きたとの連絡がありました」そう言った。
静まり返っていたが、生徒たちの内心は、恐怖と、あと、不謹慎ながら、休校への期待だったろう。
休みたいんだ。
高校生なんてそんなもんだと思う。
しかし、続く校長の言葉。
ハッキリ言って信じ難かった。
「先生方で会議しましたが、休校にはしないことになりました。引き続き、登下校は注意してください」
理解不能。
これだけ殺人事件が起きているのに、何でだよ?
俺はそう思ったし、同じことを思った奴が大半だったはずだ。
何かあったときは責任が取れるのか?
そこまでして、休校にしない理由って何だ?
ざわざわが続いている。
静かにしろという教師の声が飛んだが、なかなか静まらない。
しかし、ざわめきを抑えることを諦めた先生方が、臨時の教師、先週体調不良で休むことになった数学の教師の橋本先生の代理、を紹介してきたとき。
一気に静まった。
多分、集会開始前に壁際に座っていた見慣れない女性だろう。
ちゃんと見えなかったけど、こんな人だったなんて。
壇上に上がって来たのがありえないくらいの美人だったからだ。
髪型はボブカット。身長は女性としてはかなり高い。
スタイルがよく、モデルでも通用しそうだった。
そんな女性が、スーツでビシっと決めて壇上に上がって来た。
そしてゆったりと一礼した。
「大変な時期ですが、橋本先生が復帰するまで数学を担当させていただきます。泉です」
壇上で、その臨時の先生は泉と名乗った。
声は凛としていた。
「すげー臨時の先生来たな」
「泉先生にはやく数学の授業してもらいたい。あんな美人に教えてもらえるなんて幸せだ……」
緊急集会が終わり、教室に戻ってくると、話題は最後に紹介された臨時の先生で持ちきりだった。
特に男子に。
女子もまあ、騒いでいたのがいたけれど、男子ほどじゃ無かったね。
最後にほぼ全部持っていかれた感じだ。
騒いでない派の人間は、それがだいぶ不満らしく
「よくお前ら、この状況でそんなノーテンキなこと言ってられんな」
と吐き捨てるように言う。
ここは休校だろ!何考えてんだ学校!と頭を抱えている。
「この事件、犯人がオーヴァードだって噂だぞ!?オーヴァードだから、警察が役に立ってないんだってさ!」
「お前こそそんな都市伝説信じてんのかよ!?オーヴァードなんて実在するわけねーのに!」
てな言い争いが発生していた。
自分の席でなんとなく聞いていた俺はそれにふと引っかかる。
……オーヴァード?
なんだそりゃ?
なんか、最近こそこそそういう噂話が出てるような気がするが、友人の居ない俺は詳しくは知らなかった。
ちゃんと調べれば分かるのだろうけど、生憎友人が居ないからな……
他人に聞く、って選択肢が取れない。
知りたきゃ自分で調べるしかねー
家の姉さんは、こういうの詳しくなさそうだし……
それに、今それどころじゃないハズだし。
気まぐれだった。
ホント、気まぐれで。
ちょっと、調べてみようかと思ったんだ。
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