9章:カオスレスト大陸
第221話:目的地設定!
島を出て七日目。船旅は順調に進んでいる。
漕ぎ手のいない船は、ク美によって作り出された潮に乗るだけですいすい進んでいく。
この時期なら台風とかも心配したんだが、特に何もない。
何もなさ過ぎて……
「退屈だ」
「暇だえぇ」
『ンベェ』
全員、暇で暇で仕方ない。
『ンペェェ……』
『うぅぅぅ、船楽しくなぁーい』
チビたちも初日こそはしゃいでいたが、はしゃぎすぎて甲板を早々と踏み抜き穴を開けてしまっている。
陛下、エリオル王子……すみません。ほんっとすみません。
穴をそのままにしておくのも危ないから、割れた板のところだけ剥いで錬成しようとしたんだけども……。
なかなか頑丈な船は、俺の力じゃ板を剝ぐことも出来ず。
そんでゴン蔵が任せろといって、爪を引っ掻けて剥ごうとしたら……。
一枚剥げばいいだけの甲板板は、十枚ぐらいメキっと割れてしまって。
うん。まぁ修繕はしたけどさ。
したけど、割れた板は錬成で元通りになってもさぁ、それを甲板に打ち付けるのは手動なんだよなぁ。
「はぁ……いっそ錬金BOXに船ごと入れられれば楽なのになぁ」
「入うの?」
「入らないよ。レベル99になっても無理だろ」
初期サイズが5センチ。レベル1上がるたびに5センチ増えていく。
レベル99だと……えぇっと、495センチか。惜しい、あと5センチで5メートルじゃん。
錬金BOXは、今レベル79だ。次のレベルで箱のサイズは4メートルだな。
船旅の間は錬金BOXのお世話になることも多い。
水は積んでいないので、海から調達しているから水錬成を一日に何度もやっているから。
『ルークさん、あそこ島が見えます。凄く小さい島なので、住むには適していませんけども』
ク美が海面から胴を出し、長い腕で前方を指し示す。
こんな感じで、時々島に上陸しながらゴン蔵の羽を休ませたり、チビたちを走り回らせたりしている。
ただゴン蔵がゆったりできるような大きさの島は、今のところない。
一番大きくても、トリスタン島の一割ぐらいの大きさだし。
できればあの島と同じか、もう少し大きなところがいい。
「ゴン蔵お勧めの場所とかないのかよ」
『わし、あの大陸から出たのは、一度きりじゃからのぉ。しかも結構昔の話じゃし』
「ふぅん。どのくらい昔なんだ?」
ゴン蔵が昔っていうなら、千年ぐらい前か?
『んー、三千年以上前かのぉ』
もっと前だった……。
って待てよ。三千年前って、たしか……
「神々の大戦期かよ!」
『ピンポーンじゃ。ほんと、神々のやつらドラゴン使いが荒くてのぉ』
あぁ、思い出した。
ローンバーグ家にいた頃読んだ本には、神々の騎乗用として神竜がいたんだとか。
んで、その神竜こそが神を滅ぼす力を持っていたとかなんとか。
元々は神の数だけ神竜もいたが、神竜同士の闘争でほとんど死んだって話だったよな。
はぁ……伝説のドラゴンはここにいる。
ここに……海面を凍らせた氷の上で、胡坐をかいている。
これが神竜……威厳とか、そんなもん全然息してないから。
『ん? どうしたルークよ』
「いや、なんでもない。三千年前でもいいからさ、この近所によさげな島とかないか覚えてないわけ?」
『んー。大戦末期で地形がめちゃくちゃ変わったからのぉ。覚えていたところで、役には立たん記憶じゃぞ』
地形が変わったのは、神さまや神竜が破壊しまくったからだろうが!
「ウークはどんな所に行きたいぉ?」
「どんな所って……んー、ゴン蔵たちと一緒にいても、あれこれ文句言われない場所──ってことで、まぁ無人島が一番いいんだよなぁ。出来れば大きな島がいい」
「無人島……モンスターいてもいい?」
「モンスターなんてどこにでもいるだろ。そことかさ」
凍った海の上を、チビたちが走り回っている。というか滑ってるな。
モズラカイコたちがはらはらした様子で、チビたちの上を飛んでいる。
「あのね、あのね。シアが生まれた大陸ね、東と西に分かれてるぉ」
「東西に?」
「うん、そう。東側はフォ……んと、フォートレスト大陸って言ってね」
『なっ』
シアがそこまで言うと、突然ゴン蔵が起き上がった。
『シアよ。お前、もしやカオスレストを勧める気か!?』
「あぐっ……だ、だってあそこ、人住んでないってお父さんとお母さん言ってたもん」
カオスレスト?
どこかで聞いたことがあるような、ないような。
『カオスレスト……千年前まで、魔王が支配していた大陸だな』
ぼそり……と呟くボスの声を聞いて思い出した。
子供の頃に読んだ、勇者の物語。
神々の大戦後、かの大地は悪しき神が倒れた地として汚染されていた。
長い年月が過ぎ、どこかのダンジョンで魔王が生まれた。
ダンジョンで生まれたくせにこの魔王は地上を闊歩して、大陸を支配したってのが前設定だったな。
魔王は五百年ぐらい、大陸を支配していた。
で、千年前に現れた勇者によって滅ぼされた。
「魔王が生まれて死んだ大地……えぇっと、俺は物語として本で読んだ程度なんだけど、実際にあったことあんのか?」
『うむ。あった』
「え、えぇっと……魔王は滅んだ……んだよね?」
『うむ。滅んだ。勇者だかなんだか知らんが、人間に滅ぼされるなど弱っちー奴だ』
ほっ。ちゃんと滅んでるんだな。
シア曰く。
悪い神様が死んだ土地だし、魔王が生まれて死んだ土地だし、みんな気味悪がって近づかないそうだ。
そもそもこの大陸、瓢箪のような形をしているが、くびれ部分がめちゃくちゃ細い上に大きな山がたくさんあって行き来するのは困難らしい。
「あっちの大陸はね、凄くつぉいモンスター多いから、人間もあっちにはいかないぉ」
「ふぅーん。じゃあ国とかもないのかな」
「んー……さぁ?」
お勧めしておいて知らないのかよ。
でもまぁ、行ってみて実際に確認すればいいか。
「よぉし。魔王がいないなら怖いもんなしだぜ! 目的地設定! 目指すはカオスレスト!!」
「『おぉー!』」
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書籍版『錬金BOX』発売となりました!
はい!
地元の本屋さんにはまだ出ていませんでした!!!
仕方ないね、地方だからorz
web版からかなりの加筆をいたしました。半分は加筆です。
ぜひぜひ、お手に取って頂けると嬉しいです><
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