第218話:思い出の地

 必要な作業も全部終わり、王都からやってきたエリオル王子への引継ぎも滞りなく終わった。

 まぁちょっと前まで領主代行をなさっていた王子なので、改めて引き継がなきゃならないようなこともなかったけれど。


「ルーク。この船を使ってくれ」

「この船って……随分大きいですね」


 王子が乗って来た船だ。転移装置を使わずにわざわざ船で来たのは、これを俺に寄贈するためなんだとか。


「角シープーたちが乗り込むのなら、大きな船でなければいけないだろう? それとも新天地まではゴン蔵殿の背に乗っていくのかい?」

「いや、全員を載せていくのはやっぱり疲れるらしくって。それに海を渡るなら、途中で休憩なんてのも出来ませんし」


 本当は出来る。

 ゴン蔵ブレスで海を凍らせて、そこに下りればいいのだから。

 ただそうなると俺たちは落ち着いて休めない。

 冷たいし寒いししもやけができる。

 なので島所有の船を一隻貰っていくつもりだったんだけども……これは有難い。


「な、中を見てもいいですか?」

「もちろんだとも。あれは君の船だからね。それはそうと、漕ぎ手はどうするんだい?」

「あ、ク美が潮の流れをコントロールして誘導してくれるんで」


 船の漕ぎ手は必要ない。なんなら帆もいらない。張り方も知らないし。


 船の中は意外とシンプルだった。

 部屋数は少なく、船倉に下りるのは階段ではなく坂道使用。角シープーの為だろうな。

 船倉の一角には藁が敷き詰められていて、これも角シープー用の寝床なんだろう。


 船室にある家具は高級品だ。めちゃくちゃふかふかのベッドだぞ。

 船旅でこのクラスのベッドって、最高級スイートルームじゃん。


「ありがとうございます、エリオル王子! 陛下にも直接お礼が言いたいところですが、あまりのんびりしていても他国を刺激するだけでしょうしね」

「父上には私の方から伝えておく。君が喜んでくれていたとね」

「はい!」


 港にチビたちもやってきた。


『わぁー、大きいでしゅねぇ』

『ルークしゃんたちは、このお舟で寝るでちゅか? いいなぁ』

『クラ助とケン助は、寝るときも海の中?』

『でしゅ』『でちゅ』


 さっそくチビたちも探検をしている。間違っても船底を破壊したりするなよぉ。


 船には食料の他にも野菜を植えたプランターや、住居が決まってから栽培する種なんかも運び込まれた。


「坊ちゃん……せめてわしらだけでもお連れくだされば……」


 そう言ってロクが悲しそうな顔を向けた。

 彼の後ろにはローンバーグ家に仕えていたみんなが並んでいる。


「ロク……連れて行きたいのはやまやまだけど、いかんせんどこに行くかもまだ決まってないしさ」

「そんなこと、わしらは気にしませんのに」

「いやいや、気にしてよ。まず食料問題だ。人数が多ければ多いほど、船に積み込まなきゃならない食料も多くなる。そもそもどのくらいの航海になるか分からないんだ。プランター野菜じゃ追いつかないだろう?」

「そ、それはごもっともでございますな」


 大量のプランターを持って行くわけにもいかない。水やりとか大変だしな。


「では──ルーク坊ちゃんが新天地を見つけ、そこに定住なさる時には是非……是非お呼びください」

「……分かったよロク。じゃあ長生きして貰わなきゃな」

「えぇ、えぇ。もちろんですとも。このロク、坊ちゃんのために百歳でも二百歳でも長生きいたしましょう」

「ロクはいつからエルフになったんだよ」


 そうだな。新天地を見つけて、安心して住める場所が見つかったら……。

 その時はロクたちを迎えに来よう。

 元々アンディスタンから移住してきたメンバーぐらいは、呼んだところで問題にはならない……よね?


 それにしても……どこに行ったんだ?

 荷物を積み終わったら出航するってのに。






 ボスの背に乗って町に戻ってみたものの見つからない。

 果樹園か?


 いや、やっぱりいない。


「どこに行ったんだよ、シアのやつ」

『ほかに心当たりはないのか? こう、ムードのある場所とか』

「は? なんでムードが関係あるんだよ」

『俺は夕暮れ時の山頂で妻たちを口説いた』

「知らんわそんなこと!」


 角シープーでも異性を口説くのにムードとか気にするのかよ。


『思い出の地だ。あの山が』

「思い出の地に残りたいのか? いいぞ、残っても」

『置いて行かないでっ』


 馬鹿なことやってないで、早くシアを探さ──思い出の地?


 シアにとって……この島での思い出の地と言えば──


「ボス! 南東の海岸に向かってくれっ」

『南東?』

「そうだ。俺たちが初めて流れ着いた場所に」


 シアはきっとそこにいる。

 何故だか、そんな気がした。


 走って、走って。

 いや走ってるのはボスだけど。


 やがて俺たちは最初に上陸した海岸へとやって来た。


 シアの姿は──ない。


「おーい! シアアァァ。どこだぁー!?」


 呼んでも返事はない。ないけど……ヤシの木の傍に見覚えのあるものを見つけた。


「まだあったんだな、ここに」

『小舟か? これに乗って来たのか、お前たちは』

「そ。奴隷船から落ちたこの船に乗って、必死に漕いで島にたどり着いたんだ」


 その奴隷船を襲ったのがク美なんだから、案外運命的な出会いだったんだな。


 そうだ。せっかくだからこの船も持っていくか。

 今なら錬金BOXにもはいるだろう。


「"錬金BOX"」


 手にした箱の蓋を開き、救命ボートに近づく。

 すると、ボートの脇から銀色のふさふさした何か──が見えた。


「シア?」


 ボートの向こう側には、間羅打を丸めて眠るシアがいた。

 しかもその姿は──


「シア!? なんでまた小さくなってんだ!」



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ドキドキドキ

あ、明後日だよ・・・

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