第216話:別れ

「ル、ルーク様!? ルーク様が国外追放されるって、どういうことですの!?」


 謁見の間を出て転移装置で島に戻ろうとする俺に、エアリス姫が駆け寄ってきた。

 誰かに聞いたのか、青ざめた顔で慌てた様子だ。


「追放してくれと、自分から頼んだんです。まぁ、保留されましたけど」

「ルーク様から!? い、いったい何故ですの? トロンスタがお嫌いになりましたか?」


 その言葉に、謁見の間から俺と一緒に来ていた護衛の騎士の顔がぎょっとなる。

 たぶんこの騎士の頭の中では今、俺がトロンスタを嫌いになったから国を出ようとしている。国を出て腹いせにゴン蔵のブレスをブッ込んでくるかもしれない──とか考えているのかもなぁ。


「トロンスタが嫌いになったとかではありません。むしろここが好きだからこそ、俺はこの国にいるべきではないと考えたのです」


 あと面倒くさいから。

 俺が原因で国同士が揉めるとか嫌だし。


 そもそも俺とゴン蔵たちに主従関係はない。彼らは感情で行動しているのだ。

 だから「俺に何があっても何もしないでくれ」とお願いしたところで、実際そうなった時には分からないだろう。

 俺だってゴン蔵たちにもしものことがあったら、頭に血が昇ってありったけの石をぶつけるかもしれないんだし。


 だけど島で日常を貪っている程度じゃ何も起きない。

 何も起きないのに、ただそこにいるだけで他国から警戒されるのはなぁ。


 トロンスタに追放して貰うとして、俺がフリーになれば文句を言ってきた国のどこかが勧誘してくるだろうな。

 戦力欲しさに。


 他国に戦力があるのは許せないが、自国ならよしとする連中ばっかりさ。

 そして結局戦争になる。

 そんなの、マジで勘弁してくれってね。


「出来ればゴン蔵たちと、静かに過ごせる無人島があればいいんですけどね」


 ぽろっと出た言葉だけど、案外悪くない気がする。


 ここはファンタジーな世界だ。

 飛行機もなければエンジン付きの船もない。

 未開の地ならいくらでもあるのがこの世界だ。


 ゴン蔵の背に乗って無人島を探すもよし。

 ク美の腕に捕まって探すもよし。

 あ、でものんびり船旅もいいな。そうすれば角シープーたちも連れて行けるし。


 そんなことを考えていると、なんだかわくわくしてきた。


「ルーク様! そ、その時にはぜひ、わたくしをお連れください!」

「え?」


 姫の言葉に御付きの騎士たちの顔が青ざめるのが分かった。


 エアリス姫……俺に……本当に好意を寄せてくれているのか?


 こういうの、前世でも縁がなかったし……どうすればいいのか……。


 ただハッキリしているのは、姫を連れてはいけないってこと。

 連れて行ったりしたら、今度はトロンスタ国から追われる身になってしまう。

 そうならなくても、面倒ごとに巻き込まれるのは必須だ。


 面倒を避けるために国から出て行くっていうのに……姫には申し訳ないけど、この国で幸せになって欲しい。

 それが姫のためでもあり、この国の為でもあるから。


「姫、申し訳ありません。貴女を連れて行くことは出来ません」


 俺がそう言うと、騎士たちの顔に安どの色が。


「そんなっ。ルーク様!」

「ご自身の御立場をお考えくださいっ。すみません……姫。トリスタン島のような元無人島暮らしとは違います。出来れば他の国に干渉されないような、そんな場所を探そうと思っているんです」


 そうすればトロンスタに戻って来ることも……まぁゴン蔵の背中に乗れば速攻で帰って来れるだろうけど、それをやればまた他国が「トロンスタはまだドラゴンを所有していつ攻めてくるか分からなぞ」とか騒ぎだすだろう。

 そして同盟を組んで、トロンスタを攻めてくるかもしれない。


「姫は戦争をお望みですか?」

「の、望むわけありませんっ。ルーク様がゴン蔵たちをそんな風に使ったりしないと、諸外国の方々に説明すれば──」

「俺やゴン蔵を理由に、自分を優位に立たせたいだけなんですよ。本当に戦争を仕掛ける気がないのならあーしろ、こうしろってね」


 周りの騎士たちも頷く。


「じゃあ、じゃあもうこの国には帰りませんっ。それならいいのでしょう?」

「姫……それでは俺が、陛下から恨まれます。この国から追われることにもなります。俺は陛下に恩があるし、この国だって好きです。笑顔で旅発ちたいんです」

「でもルーク様っ」

「エアリスよ」


 なおも食い下がろうとする姫の肩に、そっと置かれた手があった。


「お、お父様!?」

「エアリスよ。お前はルークを困らせたいのか?」

「わ、わたくしはそんなつもりは──」

「現にルークは困っておるぞ? お前は自分のことしか考えておらぬではないか」


 今にも泣き出しそうな姫が俺を見つめる。

 はっきり……言わなきゃいけないよな。そうしないと姫も、きっと諦めがつかないだろうし。


 好意を寄せられることは有難いことだけど、今は俺──自分の冒険を楽しみたいんだ。

 はは、俺こそ自分のことしか考えてないよな。


「姫、申し訳ありません。俺は貴女の気持ちに応えることが出来そうにありません」

「ル、ルーク様……」

「姫はこの国に残って、そして幸せになってください。俺はゴン蔵たちとのんびり、そんで少し冒険が出来るような場所を探します」

「わたくしは……わたくしの気持ちは……」

「俺の気持ちは?」


 その言葉に、エアリス姫は目を見開いて……それから大粒の涙を流して陛下に縋った。


 それが姫との──そして陛下との最後になった。



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書籍版『錬金BOX』の発売まで、あと四日!

都会のほうでは早売りがあればそろそろ書店に並び始める時期??


えぇ、田舎なんで早売りどころか発売日にも並びませんけど!(笑)

お見掛けの際には表紙だけでも見ていってください><

シアやボス、ハンナ、そしてボリスの姿が拝めます!


え?

主人公?

まぁいるけど?



新作、異世界現地主人公ものもぜひよろしくお願いします!

https://kakuyomu.jp/works/16816452220563275175

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