第202話
「そなたには本当に感謝している。ルークエイン・トリスタン男爵よ」
お城に案内された俺たちは、そのまま謁見の間へと通された。
さすがに王様には、トロンスタ国王から話がいっていたようで、俺のこともご存じだったようだ。
「トロンスタ国王陛下からの勅命でしたので、自分は遂行したまでのことです。それに、貴重な体験もさせていただきましたし」
モンスターがほとんどいない──とはいえ、いくつものダンジョンに潜れた。
それにいろんな町にも行けたし、結構楽しかったよ。
普段は島の中だから、あの町しかしらないもんな。
ローンバーグ家にいた頃だって、屋敷から出たこともなかったし。
「今現在、他に核を破壊されたダンジョンの報告は来ていない。しかし──」
「トケットのダンジョンで、グインゴーニャ王国の兵士は捕まっている。タイミング的に、王都近くの最古の迷宮にある核を破壊したのは彼らじゃないですよね」
「うむ。他にもおるようだの」
そいつらは捕まっていない。
だいたいグインゴーニャ王国の兵士が、なんだって他国のダンジョンの核を破壊するんだ。
この国の経済を破綻させて、弱らせてから戦争を仕掛ける気だったのかな。
「トリスタン男爵よ。申し訳ないが、今しばらくこの国に滞在してはもらえぬか?」
「核の破壊がまだ続くかもしれない……からですか?」
俺の言葉にディトランダ国王が頷いた。
仕事が終わればすぐに帰国しろって話でもないし、むしろ暫く諸国漫遊をしてこいなノリだったもんんあ。
エリオル王子の王様になる修行にしても、もう暫く続けた方がいいに決まっている。今頃ようやく、領主としての仕事に慣れてきたころだろうし。
「もちろんです。まだグインゴーニャ兵が何故核を破壊していたのか、そのことも分かっていないのでしょう?」
「うむ……拷問はしたのだが……」
国王が傍に控えている大臣っぽい人に視線を向けると、頭頂部つるつるのその人が咳ばらいをしてから口を開いた。
「十三名いたグインゴーニャの兵士は、みな自害してしまいまして」
「口を割るくらいなら……ですか」
「そう思いたいのですが、どうにも……」
ん? 自害したのに、そう思いたいっていうのはどういう意味だ?
「自ら舌を噛み切ってはおりますが、それがまことにその者の意思によるものなのかは不明でして」
「自分の意思じゃなく、舌を噛み切ったと?」
「担当した拷問監の話では、急に目が映ろになったと。その時に僅かな魔法の流れがあったようだと話しておりましてな」
魔法で操ったか、最初からそうなるよう制約の魔法のようなものを掛けられていた可能性がある。
そういうことらしい。
だから理由は分からない。
分からないが、決して教えられないような理由だってことだ。
ロクでもないことだけは間違いないな。
お城は窮屈だ。
ラッツたち四人にもお城の中にある客室を与えられたけれど、息苦しいからと城下町の少し上等な宿を手配して貰っている。
羨ましいので俺もそれがいいと言ったら、王様にニコニコ顔で却下された。
これまでは内密だっただけに黙認してきたが、一度招いたからにはさすがに他国の貴族を宿になんて泊まらせられないから──と。
はぁ……お国の事情って、やっぱ面倒くさいなぁ。
ここでの俺の役目は、ディトランダ王国の貴族のご子息やご令嬢とにこやかにお茶を飲むことだ。
最初はシアも一緒だったが、紅茶一杯とクッキーだなんだので一時間以上もキャッキャウフフと話しているだけなのが退屈で、とうとうラッツたちの所へ行ってしまった。
俺は立場上そうもいかず、必死に営業スマイルでその日一日を過ごすことに。
「はぁ~……疲れた。ボリス、おーいボリスゥ」
部屋へと戻って来ると、すぐにベッドへダイブ。そしてボリスのもふもふで疲れ切った心を癒すんだけども。
返事がない。ただの羊になったのか?
ボリスも一緒に客室で寝泊まりすることも許可されている。もちろん、全身くまなく洗いまくってからだったけれど。
「ボリスゥー、癒しをくれよぉ」
だけど返事がない。
……まさか!?
ベッドで横になっていた俺は急いで起き上がって、それから探した。
巨体が隠れる場所なんてない。
見つけたのはテーブルの上に置かれた紙きれだ。
【探さないでください。ボリス】
と、共通語で書かれている。
「ホークの字じゃん」
ホークが連れて行ったのか?
いや、たぶんボリスも嫌気がさしたんだろうな。
なんせ貴族子爵やご令嬢、侍女に兵士にいたるまで、ボリスをもふもふしまくっていくし。
最初は『僕、人気者~』とかってご満悦だったが、三日もすればげんなりしていたし。
ああぁぁぁ!
俺も城から出て、自由を満喫したあぁぁーい!!
これなら島にいた時の方が、もっと自由だったよ!!
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