第177話:奴ら

「旦那、どうだい?」

「まぁ待て。──"調教の鎖"」


 俺様の手から光る鎖が地面に向かって伸びる。

 瀕死状態になったモンスターを、エンディンが鍬で掘った穴に埋め、そして止めを刺す。

 ここからは時間との勝負だ。

 ちんたらしていると光の粒になってダンジョンに吸収されてしまうからな。


 モンスターが死ぬのと同時に俺様の鎖を絡ませ、従属させる。

 これまで死んだモンスターなんかを従わせようと思ったこともなかったが、なんとなんと、出来たのだよこれが!


 ふっふっふ。

 テイマーとしても、ネクロマンサーとしてもこの力は使えようとはな。

 しかもだ──


『ゴキュ……』

「お、復活したようですぜ」

「よし。では貴様はもう一度、土に潜るがいい」

『ゴキュ』


 返事をした僕が、そのまま穴に横たわる。

 そこに雇った冒険者どもが土を被せて埋めた。


「ではエンディン。よろしく」

「エンディン様って呼ぶじゃん」

「では俺様のことはアルゲイン様と呼べ。そもそも俺様のほうが目上なのだぞ、敬え」

「な、なんで僕ちゃんが!」


 俺様はエンディンの頭を鷲掴みにし、ぐらぐらと左右に振る。


「それが世間の常識というものだ。何も知らない豚のお坊ちゃんは、黙って俺様に従っていればいい」

「うぅ……うぅ……ママン」


 未だ母親を呼ぶのか。

 海の底に沈んで……いや、とっくに海のモンスターどもに食われてしまっただろう。

 かなりの巨体に育ったというのは風の便りで聞いている。さぞ食い応えがあっただろうな。


「アルゲインおじさんは人使いが荒いじゃん」

「おじさん言うな。まだそんな歳ではない」

「だってもうすぐ三十じゃん? ならおじさんでいいじゃん」

「おじさん言うな!」


 俺様と豚が親戚であることを話すと、鼻水まみれで抱き着いてきて「助けて欲しいじゃん」とわめいていた。

 そこで俺様は「伯父と従姉であるお前の母の仇を討とうと思っている!」と適当な嘘を言って、豚を丸め込んだ。


 俺様はクソ伯父をぎゃふんと言わせようと、常に情報は集めていた。

 こいつが『農耕の才』というギフトを貰ったことも知っている。

 だからこいつのギフトを使って、どこかの国の領主に取り繕って客将として──と思っていたんだが。

 まさかこんな副作用があったとは。


 モンスターに被せた土を、エンディンが鍬で耕す。

 すると土が光り、そして収束。

 その光は土の中で眠るモンスターへと吸収されたのだ。


「よし、起きろ」


 俺様が命じると、モンスターは勢いよく飛び出して来た。


「うむ。さっきより少し大きくなったか?」

「ランクアップまではまだまだっぽいですな。けど、確実に同種モンスターよりは強くなってるでしょう」

「この階層で捕獲できるモンスターももういないようですし、そろそろ地上に戻りますか?」

「そうだな。地上に出てもっともっとこいつらを耕そう」


 アンデッドと化したモンスターは、俺の影の中に隠れることができるようになる。

 しかもだ──


 本来地上を恐れるモンスターも、アンデッドと化していれば別のようだ。

 いや、使役されているからなのか?

 ダンジョン内のアンデッドモンスターも地上には出てこないのだし、そう考えれば死体以外の条件も必要なのだろう。


 まぁとにかく地上に出せれるのは幸運だった。


 これならモンスターの進化も楽に行えるかもしれない。

 進化したアンデッドモンスター軍団。

 それさえあれば国のひとつや二つ手に入れるのだって、夢じゃない!


「しかしこの国のダンジョン管理はどうなっているのだろうな。勝手にコアを破壊する馬鹿者が現れるなど」

「だけどそのおかげで、こうして比較的安全にアンデッド作りができるんでしょうよ」

「まぁそうだな。正常なダンジョンであれば、穴掘りなんぞやる余裕もなかろうし」

「そういうことです。まぁどっかの国がディトランダ王国の弱体化を狙ってやったんじゃないかって、そんな噂話も出てますけどね」


 国の弱体化か。

 確かにどこかに攻め入るなら、弱っているところを突きたい。

 なら今がディトランダに攻め入るチャンスか?


 いや、こちらの準備がまだ整っていないし、何よりこの国に旨味はない。

 いらんいらん。

 こんな暑くて砂っぽい国などいらん!


「さて、では簡易転移用の……ん? しまった、ポケットに穴が!?」

「えぇ!? まさか旦那、簡易転送装置を落したんじゃ?」

「心配するな。ポケットに入れていたのは万が一のとき直ぐに使えるように用意していたものだ。鞄の中にちゃんと予備がある」


 くそう、どこで落としたんだ。

 安い買い物じゃなかったんだぞ。


 だがこんな広いダンジョンで落とし物を探すなんて、砂漠で豆を探すようなものだ。

 歯痒いが、ここは諦めてさっさとモンスターの強化を行おう。


 鞄から予備の簡易転送装置を取り出し、それを発動させ俺様たちは地上へと戻った。


 

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