第161話:貴族らしい?
冒険だ。冒険が出来るんだ!
陛下は特命を終えた後、暫く見識を深めるためにあちこち見て回ってこいとも言ってくれた。
まぁディトランダ王国とトロンスタ王国内限定ではあるけれど。
その期限は三年間。
もうすぐ十七歳になるので、実質二十歳までといったところか。
俺が不在の間に領主代理も来てくれる。
もしもの時にすぐ連絡が取れて駆け付けられるよう、携帯魔導転送装置をいくつか作ってくれるそうだ。
代理の人に引き継ぎも必要だし、直ぐに出発は出来ないだろう。
むしろ引き継ぎ作業のことを考えて、直ぐに帰って書類の作成をしなきゃな。それにみんなにも知らせないと。
「──様」
温泉施設も完成したばかりだし、掃除の交代の件とかもしっかり伝えなきゃな」
「──ク様」
それにダンジョン宿の事とか、お金をどう集金しているかとか。
あぁ、そういやボスたちは連れて行けないだろうしなぁ。面倒を見て貰わなきゃ。
「ルーク様っ」
「あ、エアリス姫。見送りありがとうございます。直ぐに島に戻って、いろいろと準備をしなくてはなりませんので、これにて失礼いたします。シャテルドン、戻ったらすぐに人を集めてくれ」
「心中、お察しします姫様」
心中?
姫様がどうかしたのだろうか?
そう言えば考え事をしている間に、シャテルドンと話をしていたようだけど。
おっと、こうしてはいられない。
「俺には冒険が待っているんだ!」
わくわくしながら魔導転送に乗る。するとエアリス姫が駆けて来て──でもこの前見たじいやさんに掴まっていた。
お城での暮らしが退屈なのだろうか。そりゃまぁ、島では結構自由にしていたからなぁ。畑仕事も手伝ってくれていたし。
普通は有り得ないだろ。一国のお姫様が畑仕事なんて。
それが全部、俺への好意のため?
いやいや。変なことを考えるな。
そもそもうちの連中が勝手に勘違いしている可能性だってある。
俺が鈍い?
自分たちが勘違いして勝手に盛り上がっているだけとは考えないのか。
今だってほら、姫は自由を求めてじいやさんから逃げようとしているだけだろう。
島での生活から突然、城での窮屈な生活になれば逃げだしたくもなるさ。
だけどエアリス姫はトロンスタ王国の第一王女なんだ。
王族としての教育はしっかり受けなきゃならない。
かわいそうだと思うけれど、こればっかりは代えられない人生なんだ。
「姫、どうか頑張ってください。頑張って立派な王女になるのです」
「わたくしに頑張れと?」
「はいっ。俺も頑張りますから!」
頑張ってディトランダ王国のダンジョンを復活させてきます!
「ルーク様……」
エアリス姫が頬を染める。頑張れと言われたことがそんなに嬉しいのだろうか。
だったら、
「頑張れ。頑張れ。俺と一緒に頑張ろう!」
とエールを送った。
「ル、ルーク様が貴族っぽいお仕事をされるのですか?」
「……貴族っぽいって……」
忘れてはいけない。
俺、一応貴族だから。爵位としてはすっごい下っ端だけど、貴族だから!
そもそも、よその国に王命で赴くのが貴族っぽいってなんだろう?
「まぁとにかく、すぐには戻ってこれそうにないんで、みんなで協力して島の運営を頼むよ。俺が不在の間は代理領主が来てくれることにもなっているからさ」
「いったいどこの誰がくるんです?」
「それは伺っていないけど、まぁ陛下の人事に口出しは出来ないからな」
「そりゃそうだ」
騎士団の小隊長たちと冒険者ギルドのマスター。他にも町の世話役になってる何人かを集めて事情を説明。
ただし表ではこの話はしないことと念を押して。
数日以内に来るだろう代理領主用に、島のことが把握できるように書類をまとめて貰うことにした。
「しかし国内のダンジョンが三つも……あの国に限らず、基本的にはダンジョン核の破壊はタブーなんだがなぁ」
ダンジョン核の話に一番食いついたのはギルドマスターだ。ダンジョンと一番深く関わる仕事をしているのだから、あたりまえか。
「ダンジョンボスとの戦闘中に、たまたま偶然壊してしまったとか、そういうのじゃないのかい?」
婦人会代表のロゼッタさんがギルマスにそう尋ねた。
何故核が破壊されたのか、まぁそれしか考えられないんだけどね。
だけどギルマスは首を振る。
「普通はダンジョン核を破壊すればもう二度と稼げないんだぜ? 冒険者にとっちゃあ、死活問題だ。うっかりが万が一あったとしても、三カ所もそれがあるなんておかしいんだよ」
……その件は陛下も仰られていたな。
もしかして、裏で糸を引いている者がいるかもしれない……とも。
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