第162話:方向音痴がよくやること
『え!? 僕たち一緒に行けないの?』
「……行くのはダンジョンなんだけど?」
『嫌ああぁぁぁぁっ』
暫く留守にすると、ボスたちにも伝えようと新築した小屋に行くとこのありさまだ。
という訳で、今回は──
「お供いたします」
島にいるときはだいたい近くにいるブルックハルトとベルディルの二人がそう言う。
出来れば冒険を満喫したいんですけど。
素直にそう話しても、二人は……いやシャテルドンやライエルンも揃って首を縦に振ってくれない。
ここはこっそり出発するかなぁ。
なんて考えていると、執務室から俺の代理だという人が現れた。
「やぁ、ルークエイン」
「え……えぇぇ!? 王子が、え、なんで王子がここに?」
執務室の魔導転送から出てきたのはエリオル王子だった。
まさか、王子が代理領主!?
「実はね、私は私で統治のための勉強のためにやってきたのだよ」
「国王になるための勉強、ですか?」
「うん。規模は小さいが、ここはいろいろなことが起きるだろう? だからいい勉強になるだろうと父がね」
陛下の人選だったのか。
しかしエリオル王子が領主だと、島の人もさすがにやりづらいだろうなぁ。
という訳で。
「ブルックハルト、ベルディル。お前たちはもちろん王子の護衛だよな? 王子だぞ。もしものことがあったらどうする?」
「え、え、え」
「王子に万が一のことがあったら、俺が罰を受けることになるかもしれないんだぞ」
「い、いやルークエイン、そういうことは……」
「いえ、王子。ここはハッキリさせなきゃならないんです」
俺が自由気ままに冒険するためにも!!
「心配しなくてもルークエイン。君には極少数で向かって貰うことになっているから安心するといい」
「え?」
「今回の事、いろいろ不審な点もある。こうも立て続けにダンジョン核が偶然、冒険者の手で破壊されるなんて怪しいからね」
やっぱり誰かが裏で糸を?
だけどそうなると、ディトランダ王国とことを構えるつもりもあるってことだろうか?
あの国を弱体化させるためにやっているとしたら、そうなるよな。
「トロンスタ王国が大々的に援助するということを、あまり公にしないまま向かって貰おうと思ってね」
「裏で糸を引いている奴らに知られないために?」
王子が頷く。
たしかに知られれば更に他のダンジョン核も破壊されてしまうだろう。
なんて復活させるためにはダンジョンに潜らないといけないから、なんだかんだと時間が掛かってしまうし。
それに、ダンジョンを進む間に変な邪魔をされても嫌だ。
「というわけで、騎士団は待機」
「し、しかし王子!」
「君たちが一緒だと、ルークエインがトロンスタからの使者だとすぐバレてしまうだろう?」
育ちの良さそうな騎士が付いて回れば、そりゃあ確実にどっかの貴族だってバレバレだよな。
それに引き換え、俺は貴族の坊ちゃんとして生まれたのに、そういう教育を受けてないから自然体!!
つまり俺には品がない!!
……ちょっと泣きたくなった。
「ウーク! シア一緒にいくぉ」
「ん、まぁシアはそうだな。一緒に来るよな」
一応ギルドでも核を破壊されたダンジョンの調査をしているということだった。
そこで、とりあえずディトランダ王国に入ったら冒険者ギルドに登録して、調査団として中に入ることを勧められる。
「石よーし!」
「お肉よぉーし!」
「いや待てシア。肉は向こうの町で食べような?」
「うえぇーっ」
何も島から持って行かなくったっていいだろう。
移動はまず、魔導転送でトロンスタの城まで行く。
ゴン蔵に乗せていって貰おうと思ったけど、ドラゴンに乗っての移動じゃ悪目立ちしすぎる。
一分一秒を争う訳ではないので、徒歩なり乗合馬車なりの移動で十分だと陛下が仰ったと王子から聞かされた。
ならお言葉に甘えて旅を満喫しよう。
「では王子、あとは頼みます」
「分かった。大丈夫だと思うけれど、十分に気を付けて」
「はい」
王子から携帯用魔導転送石をいくつか受け取り、それをアイテムボックスリュックへ入れる。使えばこの執務室にある魔導転送装置に出てくれるそうだ。
この石も付与可能かな? 可能なら量産も出来るし、いつでも里帰り可能だ。
みんなに別れを言って、俺とシアは魔導転送へと乗った。
城に到着してからは一応陛下に挨拶をして、ディトランダ王国までの地図や冒険者っぽい装備なんかを頂き城下町へ。
「乗合馬車にしても、国境まで二回乗り継ぎだな」
「そこから近く?」
「いやいや。国境を越えるとまずホプスツェント国に入るんだ。そこを超えてようやくディトランダ王国なんだよ」
「遠いねぇ」
まぁそれは仕方ないさ。
で、さっそく馬車乗り場へ向かったが、あいにく明日まで来ないという。
なら明日までに次の乗り場のある町まで行くか!
そしたら乗車賃も安くなるし、暇も潰せるし一石二鳥!!
ついでに近道で移動距離短縮だね!
と思っていたんだけど。
「乗合馬車ならついさっき出発したばかりだよ?」
「え? いつの間にか追い抜かれた?」
「お前さん、途中で近道しようなんて思って林を突っ切ったりしてないかい?」
した。
「たぶんそこで追い抜かれたんだろう」
なんてことだ。
近道したのに追い抜かれた。
「次に馬車が来るのは五日後だよ」
「よし、シア。歩こう!」
「おー!」
うん。旅は始まったばかりだ。
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