第159話:城へ

 五月のある日。

 突然トロンスタ王に招集されて王城に行くことになった。

 お、俺、なんかヤバいことしたかな?

 税金は──ちゃんと納めてるし、滞納だってしていない……はず。


 あ、マウロナに行ったことで、国際問題が勃発したとかないよね?


 うぅん、うぅん。

 まぁ行ってみなきゃ分からないか。


 シャテルドンを伴って魔導転送に乗り、あっという間にお城へと到着。

 そこで待っていたのは──


「ルーク様! お待ちしておりましたわ」

「エアリス姫、お久しぶりです。お元気そうでなにより」

「元気じゃありません! 毎日毎日ルーク様のことを思って、食事も喉を通らないというのに」


 その割に痩せたようには見えないのだけれど。むしろ少しふくよかに──いや、これは絶対口には出すまい。

 彼女の案内で謁見の間──ではなく、国王の執務室へと通された。

 つまり個人的な面会だ。


 嫌な予感がする。

 姫がお城に帰る時のあのやりとりを思い出して、まさかここで姫を婚約!?

 なーんてことにならないだろうなぁ。

 いや、姫が本当に俺のことを慕っているのか未確認だけどさぁ。


「わざわざ呼び出してすまんな」

「いえ、臣下たるものの務めですので」


 執務室で陛下は働いていた。書類に目を通し、それに一枚一枚サインをしている。

 机の上に積み上げられた書類は、ざっと30センチ分ほどありそう。

 俺だったら頭抱えて畑にダッシュするな。


「よし、ひとまずこっちは後回しにして──さてトリスタン男爵よ」

「は、はい」


 ごくり。何を言われるのやら。


「貴殿は冒険者に憧れていたと聞く」

「へ?」

「ローンバーグ家を出た後は、冒険者になって気ままな生活を送りたかったと」


 な……んでそのことを。

 あ、エアリス姫から聞いたのか。


「は、はい。まぁ自分から家を出るつもりが、実父と義母に売り飛ばされてしまってこうなってますが」

「不思議な巡り合わせよな。お主があの島に漂着していなければ、今頃はこうはなっていなかっただろう」

「自分もそう思います」


 いったい……いったい何の話なんだ!?


「ところで男爵よ。冒険者になりたいという夢は、今でもあるのかな?」

「え……今も、ですか?」

「そうだ。君はまだ若い。いや若すぎる。トリスタン島で暮らしたいというから、領主になりたいのだろうと思って任命はしたが……」


 あぁ、そういえばそんな流れだったかな。

 島で角シープーたちと暮らしたい。

 だけど当時領土権を持っていたのはアンディスタンで、島はアッテンポーお抱え海賊の隠れ家に使われていた。

 もっと以前はトロンスタ王国が所有していて、陛下のご兄弟とアンディスタンの令嬢との婚約を期に譲渡されたものだ。

 それを海賊の隠れ家として使われたとあっては、トロンスタも黙ってはいられない。


 まぁ夫婦仲がすこぶるいいので、島をタダで返還することでチャラにしたようだ。

 で、その島を俺にくださったのだが……。


「お前は領主になることを望んでいたのだろうか……と考えるようになってな」

「え……俺が望んでいたかどうかですか?」


 そう聞かれると、どうなんだろうと考えてしまう。

 島で暮らしたかったのは本当だ。のんびり島の開拓が出来ればいいなぁと思っていたし。

 その上で冒険の旅なんかも……。


「よく分からぬ間に、余が貴殿の人生を決めてしまっていたようだの」

「え、いやそれは」

「顔に出ておる」


 ぐっ……考えてることが顔に出やすいってのは、冒険者にも言われたことあるんだよな。


「そこでだ、トリスタン男爵よ。お前に特命を命じる」

「と、特命?」


 い、今までの話の流れが、どこにどう特命と繋がるって言うんだ?


「我が国の北、ディトランダ王国に行って欲しいのだ」

「砂漠の国、ディトランダにですか?」


 大陸の北側にある国で、ディトランダは国土の半分が砂漠に覆われている。

 農作物はほとんど育たず、鉱山資源や南の大陸との貿易、それと確か大陸随一のダンジョンによって国が成り立っていたはず。

 逆にダンジョンが無ければ、国の経済も回っていないだろうって言われるぐらい、ダンジョンへの依存率の高い国だ。


「ディトランダでいったい、何をすればよいのでしょうか?」

「うむ。男爵、君の才能である物を修復して欲しいのだ」

「はぁ……」

「かの国が管理する、ダンジョンの核をな」


 ダンジョンの核?

 あの国のダンジョンは全部生きているはずじゃあ……。

 え、まさか誰かが間違って潰したのか!?


「あの国には全部で七つのダンジョンがある。大陸最大級のダンジョンもその一つだ。知っておろう?」

「はい。あの国は食料の自給が不可能な土地柄ですから、ダンジョンが枯れるのは死活問題になるのでは?」

「その通りだ。しかも今、ディトランダ王国では三つのダンジョン核が破壊されてしまっておる」

「三カ所も!?」


 ダンジョンの管理は基本的に領主が行っている。だがディトランダは国がダンジョンを管理していた。その方がより国に入るお金が増えるからだ。

 領主である貴族たちがその件に関して何も言わないのは、単純にそうしなければ国が潤わないからだと分かっているからだろう。

 潤うと言っても、あの国ではダンジョンで稼いだお金で他国から食料を輸入しているから実質潤ってはいない。


 だから……


 王命でダンジョン核の破壊は禁止されているはずなんだよ。


 それがなんで核の破壊なんて。


「それで頼まれたのだよ。核の修繕をな」

「国境沿いのダンジョンが復活しているのを知って、ですか?」


 陛下が頷く。

 あのダンジョン、今では冒険者で賑わっているらしいもんなぁ。

 ダンジョンが生きている間は気にも留めなかったのだろうけど、核が破壊されたあとでは藁にもすがる思いなのかもしれない。 


「ディトランダとは我が国と友好国なのだ。頼まれてはくれないか?」

「もちろんです」

「ありがとうトリスタン男爵。しかし移動は徒歩になろう」

「それならゴンぞ──」

「いやいやいやいや。ゴン蔵殿が突然現れれば、どんな混乱が生じるか分かったものではないのだぞ」


 あ、それもそうか。

 ドラゴンが突然町にやってくれば、パニックどころじゃないもんな。

 そっか……。


 徒歩か。


 ちょっとだけ冒険の予感がするな。

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