第150話:勉強をしろ

 陽が沈んですっかり辺りは暗くなってしまったのに、気分的には清々しい朝状態。

 昼夜が逆転しそうだな……。


 そんな中、森の中にあるというアルゲインの訓練場へと向かった。

 探さなくても松明でがんがんに照らされているのですぐにソレは見つかった。


「魔石ランタンは……無さそう?」

『臭くない』

『ナイよぉ』

「そっか」


 町でも魔石ランタンはあまり使ってない所も多い。特に大きいとな、半端ない数の魔石ランタンが必要になるから。

 その代わり壁を築いたり、兵士をしっかり配備していたりするんだけど。


 ここの場合は別の意味で置いてないんだろうな。

 アルゲインが調教したモンスターがいるのだから、魔石ランタンを置いていたら弱ってしまうだろう。

 まぁ奴はモンスターを弱らせて、従属させるときに使っていたみたいだが。


「イスル公の部下の人たちが結構来ているんだな」

『調査だろう。ところでルークは何をしにここへ? なんならオレが案内してやるぞ』

「あー……お前もここに捕まっていたのか」

『オ父サン、ここに捕まっテタノ!? どこ!? ドコニ!?』


 あ、ボスが拗ねた。

 捕まっていたという言葉は効いたらしい。そこへ子供たちが『捕まってたのどこ?』と連呼して、ボスのHPをゴリゴリ削っていった。


「と、とにかく中へ入ろう。アルゲインが調教した他のモンスターがいるかもしれないし、気を付けろよ。もしかしてつよおーいのとか、いるかもしれないからな」

『それはない』


 瀕死だったボスが復活し、シャキーンっとなってそう言う。


「それはないって、どういうことだ?」

「ウーク、モンスターもういないぉ」

「え、いない?」

『いない』


 シアは鼻を利かせてそう言ったが、ボスの方は違う確信があるような返事だ。


『ここで見たのはゴブリン、コボルト、スライム』

「あぁ、奴がけしかけて来たモンスターは、その軍団だったな。で、他には?」

『終わり』


 終わりって……え、本当にそれで終わりなのか?


 中はまるで闘技場のようになっていて、違うのは観客席がなく、高い壁に囲まれていることぐらい。

 隣接する建物はこじんまりしてはいるが、それなりに豪華な造りだ。

 まさかあそこにモンスターを住まわせているなんて……アルゲインの言動から考えると有り得ないよなぁ。


「ル、ルークエイン男爵ですか?」

「え? はい、そうです」


 声を掛けられ振り向くと、イスル公の部下の兵士だった。


「こちらの調査はあらかた終わりました。地下のモンスター小屋も、もぬけの殻です。アルゲインの従属が解けて、飛び出したのが最後だったのでしょう」

「え……本当に雑魚モンスターしかいなかったんですか?」

「えぇ。彼の『調教の才』は召喚士のテイミングスキルと同じようなもので、術者より能力が劣るか、もしくは著しく弱らせたモンスターにしか効かないのですよ」


 だから魔石ランタンが必須なんです──と兵士はボスを見ながら付け加えた。


 純粋な能力で言えばボスは圧倒的にアルゲインを凌駕している。

 ただあの冒険者モドキの五人がいて、そこに魔石ランタンもあれば……ボスも勝てなかったのだろう。

 だいぶんボロボロだったし、重症を負わされてそれで……


「そういやボス。傷は大丈夫なのか?」

『治った』

「いや治ったって……お前、進化してどんな力手に入れたんだよ。子供たちが無茶してたときも、人間を守ってバリアみたいなの出してただろ」

『うーむ、よく分からんのだ。オレも進化したのは初めてだしなぁ』


 そりゃ進化なんて気軽にできるものじゃないだろう。

 本羊たちも分からないって……ボスはまだしも、ボリスが力加減しないではしゃいで暴れまわったら……。


 トリスタン島の詳細な地図を今作成しているってのに、さっそく描き変えなきゃならなくなるぞ。

 職人さん、泣くぞ。


「あのぉー」

「え、あ、はいっ。なんでしょう?」


 さっきの兵士がおそるおそる声を掛けて来た。


「モンスターの事でしたら、あちらの居住区にある書斎を調べれば、何か分かるかもしれませんよ。アルゲインはとにかく、ありとあらゆるモンスター図鑑を収集していましたので」

「モンスター図鑑……そういや首都のティアムン別邸にいた執事っぽい人も、大地の幻獣のことを知っていたようだな」

「図鑑てモンスターの弱点などを徹底的に調べ上げ、初級以上のモンスターをなんとかして調教しようという努力はしていたようです」


 でも自分を鍛えて力を付ける努力はしなかったようですよ──と、彼は笑っていた。

 一番の近道をなまけた結果、雑魚三種類しか調教できなかったってね。


『違うヨ。お父サンも捕まってタモン』

『ンベッ!』

「ボリス、その話は止めて差し上げろ。お父さんのHPは残り1なんだぞ」

『ペ?』


 分からないよなぁ、HPって。俺も久々に思い出したネタだし。


 兵士に勧められて屋敷内に入ると、そこにいた別の兵士がアルゲインの書斎へと案内してくれた。

 俺の部屋とそう変わらない広さの書斎には、窓、そして扉以外の壁には本棚があって、びっしりと本が並んでいた。


「これ全部モンスター系の本ばかりなのか……どれどれ」

「シアも読むぅ」


 手に取ったのは『醜いモンスターの子』という童話だ。

 こんなもんまで集めてんのかよ!


「うぐっ……」

「どうしたシア?」


 後ろで本を開いていたシアが、崩れるように膝を折ってその場に蹲る。

 駆け寄るとシアは苦しそうに、


「字……いっぱい……」


 そう言って倒れた。


「勉強しろ……」

「あうぅぅ」

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