第135話:突撃チビーズ
「それじゃ、あとのことは頼んだ」
「くれぐれも無茶はなさらないでくださいよ」
そいうシャテルドンの言葉に、ちょっとだけ考えてから「分かった」と答えた。
めちゃくちゃ不信そうな顔だなぁ。そんなに俺のことが信用できないのかよ。
「あ、もし途中でエアリス姫が戻って来たら……」
「はい。お伝えしておきます。それから後を追わないよう、監視いたしますのでご安心を」
「そうしてくれ。姫に何かあったら、俺がトロンスタ国王から殺されるんだから……」
「心中お察しします」
だろ? だろ?
こういうところではシャテルドンは分かってくれる男なんだよ。
「ちなみにルークエイン様に何かありましたら、わたくしが姫から殺されますので。そこんところご理解ください」
「……すみません」
そんなオチが待っていようとは……。
「お待たせしました、ルーク様」
転移先がどこだか分からない。重装備であるフルプレートは動きを阻害するのもあって、今回は全員軽装備に着替えている。
ライエルンたちが揃ったところで、魔術師たちの注意事項が始まった。
「魔法の残留エネルギーから作られたものですので、もしかすると座標がずれてしまうかもしれません」
「残念ながら携帯魔導転送球はレアアイテムでして、島に残っている冒険者は誰も持っていませんでした。ですので片道切符になります」
「帰りは船を拾ってのんびり帰ってくるさ」
「携帯魔導転送は、発動後一定時間で消滅するものと、一定人数で消滅するものとがある。一定時間のものはほんの数十秒しかもたない。とにかく時間との勝負だ。魔法陣が出たらすぐに飛び込め」
その為に俺たちは二列縦隊で横に並んだ。
俺が飛び込んだら隣のシアが、その後は俺の後ろに並んだライエルン、さらにシアの後ろに並んだベルディルがという感じで交互に突入する。
「よし、準備はいいか?」
「もちろんです」
「いつでも」
全員が頷くのを見た後、石を握った右手を掲げた。
『ペペペペペペペーンッ』
ん? ボリスの声?
「ルーク様っ、ボリスが自分も行くと言い出したらキリがないので」
「あぁ、そうだな。ハンナ、ボリスには言っといてくれ。必ずボスを連れて帰るからって」
『ンベェェ』
石を地面にたたきつける。
その衝撃で石に付与された魔法が放出され、地面に真っ白い魔法陣が出現し──
『ンッペペーン!』
「ああぁぁぁっ! ボリス待ちやがれっ」
嘘だろおいっ。物凄い速さでボリスが……いや、ボリスとあと何かが飛び込んでいったぞ!
「シア!」
「がう!」
シアの手を引いて、急いで魔法陣に飛び込んだ。
飛び込んだ先は、どうやら船の上のようで。
で、ボリスがハッスルというかマッスルというか、とにかく船員に頭突きしまくり。
「おい、ボリス止めろ!」
『ンッペーッ!』
「ボスの匂い、すうって」
「なに!? どこだボス! おいボスゥーッ!」
この船の中にボスがいるのか!
どこだ、どこにいる!?
「や、野郎! どっから湧いて出やがったク──うぐぁっ」
「て、てめーっ。魔獣使いかよ──げふっ」
「あぁクソッ。うるさいんだよ! ボスゥーッ!」
「な、なんて強さだこいつらっ。おい、小娘を狙え!」
「お前ら、ボスだけじゃなく、シアにまで手を出そうっていうのか? あぁ?」
許さないぞ。絶対。俺は許さないからな!
ただの船乗りかと思ったこいつらは、全員が武装して襲ってくる。
海賊船かと思ったが、真っ白な帆にはそれらしい絵はない。
海軍か何かか?
そういえばライエルンの奴、まだ来ないのかよ。
そう思って振り向くと、そこに魔法陣はなく……まさか……タイムオーバー!?
いや、もしかして人数制限なのか。
俺、シア、ボリス──あとは……。
『ボスおじちゃんを返せぇ』
『返すでしゅーっ』
『これでも食らえでちゅー!』
……嘘だろ……。
なんでゴン太とクラ助、ケン助がいるんだよ!
「じゃあ、お前らは雇われて携帯魔導転送用にこの海域にいただけだと言うのか?」
「へ、へい……イチチチ」
襲ってきた連中を全員ぶっ飛ばしてボスを返すよう脅した。
奴らはある連中に雇われ、船を海上で停泊させていたそうだ。携帯魔導装置のマーキングをして。
携帯魔導転送はマーキングした場所に出る。一度だけの使い切りなので、往復は出来ない。
そして雇い主たちはこの船に現れると、再び携帯魔導転送球で次の目的地に向かったという。
始めは信じられなかった。だからボリスが突進して、ひとりが海に落ちた。
だが全員、同じことしか言わない。
「お、俺たちゃ金さえ貰えれば、どんな荷だって運ぶ! それが例え盗まれたものだろうが、王侯貴族の死体だろうが、な、なんでもだ!
頂く金は大金だっ。だがその分、依頼主の事情なんて一切聞かねーっ。そういう世界もあるんだ──ひぎぃーっ」
もうひとり海に落ちた。それでも男たちの話は一貫して「雇われただけ」だ。
「ウーク。この人たち、嘘いってないみたい」
「……そうか。おい、携帯魔法転送球はどこで使われた」
「へ、へい。こ、ここ、こちらです」
船長だという男に案内されて向かったのは、俺たちが転送されてきた場所のすぐ横だ。
つまりそいつらは船に長居することなく、すぐにまた転移したんだろう。
「その時、大きな角シープーはいたか?」
「え、ええ。いたと思います。なんせ一瞬のことでしたから」
「金は払わなかったのか?」
「前金ですぜ。もちろん、貰えば仕事はきっちりします。ど、どうですか? あっしらを雇っては」
「ぶっ飛ばされたいのか?」
俺がにっこりとそう言うと、男は涙目になって嫌々した。
『ペッペッペ』
「あぁ、分かっている。ここに箱を置いて────でも残留魔力ってどうやって出せばいい?」
『……ペェ』
『え? ぼ、ぼく? 知らないよぉ、そんなの』
『無理でしゅ』
『……他に考えるでちゅ』
か、考えるって言ったって……。他に奴らが向かった先を探る方法なんて……。
『ンペーッ』
『あぁ、ボリスが暴れ出したっ』
『船が壊れるでしゅよぉ』
『ぼきゅらはいいけど、ボリスは泳げるでちゅかねー?』
「ボリスウゥーッ! やめろぉーっ」
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