第136話:上陸

「いやぁ、悪いね送って貰って」

「い、いえ。はは、は」


 船長の顔が思いっきり引きつっているが気にしない。

 こいつらが悪党なのかどうか、そこは難しい所だ。金を貰って、人なりなんなりを運んでいるだけなのだから。

 今回は魔導転送の中継地点として船を使われたに過ぎないのだし。


 それで船員のひとりが、奴らの移動先のヒントになるようなことを話してくれた。

 まぁそのおかげでボリスも大人しくなったのだけど。


「しかし、運び屋なのに何も運ばないで出航したってことなのか」

「金はたんまり貰いましたので、えぇ」

「それで、依頼主のひとりをマウロナ共和国で見たって、本当なのか?」


 マウロナ共和国──アンディスタンの北にある国で、いくつかの部族が領主となり政を取り決めている。

 実力至上主義──とも言われていて、建国以来二百年の間に何度も国内で小競り合いをしている物騒な国だ。


 この船はどこの国にも属せず、大きな港町のどこにでも連絡員を滞在させているという。

 依頼者はその連絡員とコンタクトを取り、連絡者は魔導通話を使って船と連絡。依頼主が指定した港に行くという訳だ。


「一昨年にマウロナの港に立ち寄った時、やたらと商船の船長を怒鳴り散らしていた貴族がいましてね。その男だったんですよ」

「確かなのか?」

「依頼時には顔を隠すのが決まりになっとります。お互い干渉しないために。けどその男が船に上がって来る時、段差に蹴躓きましてね」


 その時、男の顔半分を隠していた仮面が外れた──と。

 同行者がすぐに視線を遮り、船員たちも見ないために視線を背けた。

 だが見たものは見たし、たまたまひとりは以前にも見ていたので記憶に残ってしまったようだ。


「ひとまずマウロナに行くしかないか」

「マウロナまでの移動はお任せくだせぇ。まぁアンディスタンの西をぐるっと回りますんで、十日ほどかかりやすが」

『ペペペペペペッ』

「ボリスがね、もっと早く船を漕げって。じゃないと壊すぞぉって」

「「そんなぁー」」


 さすがにそれは無理な話だろう、ボリス。

 けど十日も掛かるのは心配だ。あちらは魔導転送で既に目的地に到着しているのだろうし、のんびりしていられない。


「陸を行く手段もありますぜ。ただ金が必要なんですけどね」

「陸?」

「へぇ。魔導転送を使うんでさぁ」


 魔導転送装置……いや確かにあるだろうけど、基本的には国の要人や緊急事態の時にしか使えないはずだ。

 なんで使えないのかは知らないが、まぁロイスたちが魔導転送を設置している光景を見るに、あちこち設置しまくれないってのがあるんだろう。

 魔導転送装置はワンセットになっている。どこか二カ所を繋げて往復できるだけの装置だ。

 

 Aの町とBの町、Cの町があったとして、それぞれ繋ぐとなると……

 A→B。A→C。B→Cと、ひとつの町で二つの魔導転送が必要になる。町の数が百あったらどうなるか……。

 そんなの、魔導転送装置の管理が難しくなるし、行き先間違いも出てくるだろう。


 俺が思うに、これが原因で魔導転送装置は容易に設置しないのだと思う。


「お国のお偉いさんが使える魔導転送とは違います。我々のような裏稼業の者が使える魔導転送でして」

「各国の王都だけですがね、繋がっているんですよ」

「マウロナの首都にだけは行けるってことか……だけどボスを攫った連中がどこに行ったのか分からないしな」


 さすがに大きなボスを連れて、首都に向かった……なんてことはないだろう。

 もう少し情報が欲しいな。


「それとこれはボーナス情報なんっすけどね」

「ん?」


 船員のひとりがいやらしい笑みを浮かべてこう言った。


「マウロナ共和国のどっかの領主が雇った人物が、召喚士だって話なんっすよ」


 召喚士……モンスターをテイミングして使役する職業。

 そいつがボリスを攫ったのか?


 いや、角シープーなら探せばその辺でいるだろう。牧場にだっているんだし。

 そう考えるとその人物が犯人とは考えにくい。

 

 けど、もしかして知恵を貸して貰えるかもしれない。

 一度会ってみよう。


「よし、じゃあ陸路でマロウナへ行こう。その裏社会の魔導転送装置のある場所に案内してくれ」

「そりゃあ構いませんが、魔導転送装置を使うのもタダじゃねーんですが」

『ペェェー』


 ボリスが可愛い声で、だが睨みつけるような視線で鳴いた。

 





「……人間二人と……角シープー?」


 ク美の体を小さくする魔法。それは特殊な海藻に付与することも出来るようで、クラ助ケン助がそれを持って来ていた。

 今はゴン太とクラ助ケン助がそれを食べて、船で貰った鞄の中に入っている。

 これで転送代を安くできた。

 ボリスはどうしてもというので、このままだ。


『ペェー』

「きゅんっ。かわいいぃ」


 アンディスタンの港町で下船し、船長の案内でスラムにある一軒の建物へと入った。

 その地下に魔導転送装置はあるらしい。お金は船長が払ってくれることになった。


「動物の料金は提示してねーだろ? だったら人二人分だけでいいよな」

「あ、いや、待ってください。今親方に聞いてきますから」

『ペェー』

「はあぁぁん、可愛い」


 転送装置担当は女性で、ボリスを見た時から可愛い可愛いと言っていた。

 それが分かっているのか、ボリスは女性に鼻を擦りつけ猛アピールしている。


「はぁー……今回だけよぉ」

『ペ!』

「お姉さん、触っていいおって言ってる」

「本当!? はぁーっ、幸せぇ」


 暫くボリスをモフモフしたあと、女性に案内されて魔法陣がいくつも置かれた部屋へと入った。

 魔法陣ごとに板で仕切りがされ、壁には繋がっているだろう首都の名前が書かれている。

 

「壁に目的地が書かれているから、私が部屋を出てからその魔法陣に乗ってね」

「え? 見ていないんですか?」

「見ないわよ。お客がどこに向かうかなんて、いちいち監視しないわ。それが私たちの仕事なのよ」


 運び屋の船はお金さえ貰えれば何でも運ぶ。詳細は聞かないし、依頼主が誰なのかも詮索しない。

 ここでは依頼者がどこに向かうのか聞かないし、どの魔法陣に乗るのかも見ない。

 裏社会だからこそなんだろうな。


「ではあっしはここで」

「あぁ、助かったよ。あとトリスタン島には近づくな。海底火山が噴火したという噂を耳にしたぞ。近づけば……」

「肝に銘じておきます」


 嘘は言っていない。だが船長にはそれ以外の意味も理解したようだ。


 二人が出て行ったあと、俺たちはマロウナの首都マローナへと繋がる魔法陣に乗った。



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更新日変更のお知らせ

隔日更新としておりましたが、週末のPV増えるタイミングできっちり更新させたいなと思いまして。

今後は『火曜日』『木曜日』『土日』の週4更新といたします。


ご承知の方もいらっしゃるかもしれませんが【第二回ドラゴンノベルス新世代ファンタジー小説コンテスト】で錬金BOXが特別賞を頂きました。

こちらの特別賞は書籍化確約ではなく、改稿して出版出来るものとなれば・・・

というような感じです。

裏では既にその作業を始めておりまして、改稿ボツりまくりでスケジュールがぁぁ

っとなった場合には、更新頻度が下がるかもしれません。

その時にはまたご報告いたします。


今後とも錬金BOXをよろしくお願いいたします。

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