第121話:閑話-祝い4

「明後日の昼までに出来ますか?」

「出来ねーなんて言えねぇだろう、ジョバンさん」


 島唯一の仕立て屋に、昨晩、ルークエイン様に錬成して布状にして貰ったモズラカイコたち渾身の絹織物。

 それを見て目を輝かせた主人に、ルークエイン様用の服をお願いした。


 本来であれば正装着が欲しいところですが、せっかくの炎耐性付きです。

 普段着兼、正装としても見劣りしない程度のデザインでお願いしておきましょう。


「では任せましたよ」

「おう!」


 仕立て屋を出ると、再び角シープーたちが。今度は一家全員で来たようですね。


「今、モズラカイコの絹織物を渡して来ました。明後日の昼までに間に合わせてくれるそうです」

『ベェー』


 満足そうに鳴くボス殿。

 そのボス殿は荷車を引いていた。確かあればルークエイン様が錬成した、角シープー用のゴン太君馬車。

 そこに乗っているのはゴン太君ではなく、土まみれの何かですが……。


『ンベェ』

「それをどうするのです?」

『ンベェ~』


 はぁ、今回はゴン太君がいらっしゃらないようですね。

 さて、どうしたものか。


 荷車を持って来たということは、そこに乗っている物が重要なのでしょう。

 おや、よく見ると茸が……ってこれは!?


「こ、高級マッターケではないですか!? しかもこんなにたくさんっ」

『ンベヘヘェ』

「も、もしかしてこれをボス殿たちが?」


 ボス殿は首を振り、後ろの奥方殿たちを鼻で指した。

 あぁ、確かに奥方殿たちの羊毛が泥まみれだ。


「あぁ、ありがとうございます。このような高級食材を……ん? この島に自生しているのですか?」

『ンベェ~』


 こくこくと頷く奥方殿たち。更に荷車に顔を突っ込み、黒い塊を転がした。

 ま、まさかこれは!


「黒い宝石、ドリュフ!?」


 素晴らしい! 素晴らしいですぞ!


「さっそくこれらを料理長に見せましょうっ」

『ンベェ~』


 角シープーたちを一緒に屋敷へ戻り、すぐさま料理長を呼べば──


「な、なんてことだ!? こんな素晴らしい食材が手に入るなんて。さっそくメニューを考えなきゃな」

「よろしく頼みますよ」

「えぇ、お任せを!」


 料理長は大喜びで食材を厨房へと運んだ。


「ありがとうございます、角シープー殿。明日はあなた方もぜひ、お越しくださいね」

『ンベェー』






『おかあしゃんが捕って来てくれたでしゅ』

『と、とっても美味しいんでちゅ』


 翌日の昼過ぎに、今度はクラ助君とケン助君がやって来た。

 お二人は船乗りに頼んで、荷馬車で町まで運んで来て貰ったようだ。


 そのお二人は、ク美様が捕まえた魚を持って来て下さいました。

 ここでも料理長が目を輝かせる。

 どうやら滅多に捕れない、非常に美味しいと言われる魚も入っていたようで。


「貴族の間でも人気の魚なんですよっ」


 と嬉しそうに大きな魚を抱きしめていました。


「ありがとうございます、クラ助君、ケン助君。しかしお二人はまだしも、ク美様は町まで来れないのが残念ですね」

『そのことでしゅが、明日はおかあしゃん、小さくなって来るって言ってるでしゅ』

「え、小さく?」

『魔法でしゅ。だけど海水は必要でしゅから、水槽を用意できましゅか?』

『た、樽でもいいでちゅ』


 樽なら用意できますが、どこくらいのサイズがいいのか……。

 それを尋ねると、ボス殿がすっぽり入るぐらいでいい──とのこと。

 それとお二人が入る樽も用意しておきましょう。


 しかしケン助君は、やはりまだ人が怖いのでしょう。

 いつもクラ助君の後ろに隠れてしまって。

 それでもルークエイン様の為に、人の多い町まで来てくださったのですね。


「あぁそうそう。せっかく町まで来たのです、果物でも持って行きますか? 海では見れないでしょう」

『わぁーっ。じゃあドドリアンが食べたいでしゅ。おにいしゃんがまだ食べたことないでしゅし』

「ド、ドドリアンですか……あの匂い、平気なのです?」

『んー、くしゃいですけど、我慢できましゅ』


 我慢できますか。わたしはどうにも、やはり匂いがダメですね。

 厨房に恐らくあるだろうと思い向かうと、予想通りドドリアンも用意してありました。

 それを三つ、布に包んでクラ助君へ。


『ありがとうでしゅ』

『で、でちゅ』

「では気を付けてお帰りなさい。船乗りさん、よろしくお願いしますね」

「へい。じゃあ帰るぞ、おチビちゃん」

『『はーい』』


 おチビちゃん……と呼ぶには、クラ助君が随分大きくなりましたけどね。


 さぁ、いよいよ明日はルークエイン様の誕生日。

 最後の仕上げをしましょうかね。


 あ、樽の用意も忘れないようにしなければ。

 

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