第102話:決戦

【むきーっ! この声はルークエインざましょっ。今すぐ大砲を撃つざますっ。殺してけっちょんけっちょんにするざますよっ】

【ママン。お腹すいたじゃーん。魚はもう食べ飽きたじゃん】

【えぇいっ。弾はまだか!?】

【そんなもの、とうに無くなってるだろう! 貴様の負けだ。負けを認めて投降しろっ。家族を返せっ】


 どうやら海軍兵士の中には、家族を人質にされて仕方なく従っている者もいるようだ。

 どうにか助けてやれればいいんだけど。


『ベェ。ベェー』

「ボスがねぇ、まかせろってゆーでるよ」

「任せろってボス。どうするつもりなんだ?」

『ベェーッ』


 ボスはゴン蔵を見上げて何か伝える。

 ゴン蔵が冷凍ビームを発射して海を凍らせた。器用にク美を避けて。

 ボスは船からジャンプして飛び降り、氷の上を走っていく。何故かその背にシアが跨っていた。


「おいシア!」

「行ってくうぉー」

「あぁあ。ご領主、貸しにしときやすぜ」


 そう言って何人かの冒険者が船を下りて氷の上を走る。

 時々つるんと滑っているが、なんとかボスについて行っているようだ。


『ンベベベェーッ』


 ボスが吠える。

 そして船に突っ込んだ。

 あぁあぁ、船にでっかい穴空けてやんの。

 で、横に別の穴を空けて出てきた。


 その穴から冒険者が入ると、中から女性や子供たちが出てきた。


【んなっ。う、撃て! 弓で射殺せっ】

【ア、アッテンポー!? なんてこと命令するんだっ。止めろっ。妻と息子がいるんだぞっ!】

『人質は救助する。仕方なく従っている者、降伏したい者。いるなら今すぐ船から下りろ』


 甲板から弓を射かける者もいたが、さっきの精霊使いの女冒険者があっさりそれを防ぐ。

 剣を振りかざして船から下りてくる兵士も、他の冒険者によってあっさり切り捨てられた。


 ボスはさらに他の船に突進していって、船体に穴をばんばんあけて行った。


『我があれやると、穴を空けるだけじゃ済まぬからなぁ』

「あぁ……人質もろとも海の藻屑にしちゃうもんな」

『どうしましょう。あぁ、どうしましょうっ』


 ク美はさっき一隻破壊してしまっている。あの船に人質が乗っていないことを祈ろう。


「男爵様。われわれも行きます。ここはゴン蔵殿にお任せしても大丈夫でしょう」

『任されよう』

「頼む。人質の救助を優先してくれ」

「承知いたしました」


 シャテルドンたちも氷の上を走ってボスの後を追う。


 大砲の玉はない。

 弓も効かない。

 白兵戦を仕掛けても冒険者の方が実力は上。しかも向こうは既に寝返り始めた兵士もたくさんいる。


『アッテンポー、および……えぇっと、名前なんだっけ? まぁいいや、白豚オークもいるんだろう?』


 そう言うとどっと笑いが起きた。

 向こうの船からもだ。

 思うことはみんな同じなんだろう。


【な、なんで笑っているざます? は、早くルークエインを血祭りにあげるざますよっ】

『よくもまぁこの状況で、まだそんなことを……勝てると思っているのか?』


 そこでゴン蔵が鼻を鳴らすと、強風で向こうの船のマストが一本、吹っ飛んで行った。


【ひぃっ】

『もう一度だけ言う。大人しく降伏しろ。そしてアンディスタン王の裁きを受けるがいい』

【プギャァーッ! ルークエインざますっ。あれひとりぶっ殺せば終わりなんざますよっ。あーったたち、さっさと行ってあれの首を持ってくるざまぁーっす!】


 豚のようにわめき散らす元夫人。

 耳を覆いたくなるような声だ。


【ご領主様。人質の方々は全員救助しました。ご家族の兵士の方にも確認したのでもう大丈夫です】


 こちらはさっきの精霊使いの女性か。なんて聞こえの良い声だろうか。

 見れば氷の上をたくさんの人間が走ってやって来る。


「ゴン蔵」

『ふん』


 ゴン蔵が一歩、二歩と船団へと近づく。

 悲鳴を上げる者もいたが、冒険者や騎士たちは構わずゴン蔵の足元をすり抜けるのでついて来るしかない。

 向こうの船から矢が飛んでくるが、ゴン蔵が身を挺して守ってくれた。

 もっとも、並みの弓矢ではゴン蔵の鱗には刺さらないけどな。


「こ、これで最後ですっ。あとは海に飛び込んだ者が──」

『お救いします』


 ク美が腕を伸ばし、氷を迂回して泳ぐ者たちを引き上げてきた。

 引き上げられた者は当然ながら悲鳴を上げている。まぁ仕方ないか。


『降伏する気はないんだな?』

【当たり前ざましょ!】

【死ぬのは貴様だっ、ルークエイン!】


 大砲が鳴った。隠し玉でもあったんだろうか。

 丸い物体が真っ直ぐ俺に向かって飛んでくるので、思わず錬金BOXを構えた。


『入れるのか?』

「入りそうだろ?」


 ゴン蔵とそんな言葉を交わし、そして大砲の玉をキャッチした。


「ゴン蔵、乗せてくれ」

『よかろう』


 ゴン蔵の掌に乗り、そしてアッテンポーと白豚オークが乗る船の上へと飛んで貰った。


 もういいよな……終わらせて……。


 飛んでくる矢はどれも途中で失速して落ちていく。

 風の魔法でコーティングされたゴン蔵に、矢が当たる訳がない。


【プギィイィィィィィッ】

【えぇいっ何をやっている! わたしに貸せっ】


 この期に及んでも、まだ俺を殺すことに執着しているのか。

 若干小太りした初老の男が弓を番えるのが見える。もう少し太らせれば夫人に似てなくも……ない?


 放たれた矢はまっすぐに俺へと飛んで来た。

 腐っても武人、か。弓を構えた姿は堂に入ってるじゃん。

 真面目に国に尽くしてりゃあ……ま、もういいか。


 これで終わる。

 終わりにする。


『錬金BOX』の蓋を開け、そっとひっくり返した。

 黒い鉄球が落ちていく。

 同時にゴン蔵は上空へと舞い上がった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る