第101話:感動()の再会

 出航して間もなく。

 向こうの船もこちらに気づいて、また大砲を撃って来た。

 が、ヒュゥゥーンっという音が聞こえただけで、ク美がそれを叩き落とす。


「ク美っ、大砲なんか叩き落して、腕が吹っ飛ぶぞ!?」

『大丈夫です。ちゃんと水の防護結界を張っていますので』

「魔法が使えるのか?」

『はい。水属性の魔法でしたら、一通り全部』


 おぉ、すげー!

 さすが海の怪獣。違った、魔獣だ。


 しかし相手の船団に近づくにつれ、大砲の玉が飛んでくる数もどんどん増えていく。

 そのうち前に進むのも困難になってきて。


『みなさん、大砲が止むまでお待ちください』

「分かった。ク美、大丈夫か?」

『はい。防護結界だけですので、三日三晩ぐらい堪えられます』


 堪えすぎ!


『おかあしゃん頑張るでしゅー』

「頑張ぇー」

『ンベェー』


 大砲とク美の攻防は、意外と早く終わった。十五分ぐらいか?

 たぶん、砲弾が尽きたのだろう。


 その頃になると東の水平線からしらみはじめてきた。

 見上げた空に雲の切れ間が出来ている。


「朝か」

「おぉ、こりゃあ随分と団体様だなぁ」

「男爵様、敵船団の数は十五隻ほどですが、前方の五隻はアンディスタンの軍艦です。いかがいたしますか?」

「アンディスタンの軍艦? なんでアンディスタンの船が俺たちを襲う──あ……えぇー」


 俺はいやぁーなことを想像してしまった。


「ウーク、どうしたお?」

「うぅん……いやな、俺たちに──いや俺個人に恨みを持つ、元海軍のお偉いさんがいたなーっと思って」

『わっはっは。それで、どうするのだルークエインよ』


 氷のブレスで海を凍らせ、そこに降り立って仁王立ちするゴン蔵。

 段々と明るくなる海の上で、果たして相手の船乗りたちにはこの状況が見えているのだろうか。


 俺たちの船は一隻。軍艦ではない。

 その船の横には蒼銀色の鱗を持つ巨大なドラゴンが腕組をして立っていた。

 船の前にはこれまた巨大なクラーケンが海面から姿を見せている。


「なぁ、誰かあっちの状況を探れるような魔法を持っている者はいないか?」

「風の精霊を使って音を拾うぐらいは出来ますよ」

「すまない、やってくれるか?」

「はい。"風の精霊よ"」


 女性冒険者のひとりが呪文を唱えて暫くすると、マイクで音を拾ったようなのが聞こえてきた。


【な、な、なな、な、なんだありゃあ!?】

【アッポントー将軍! あ、ああ、あ、あれ、あれはなんなんでしょうか!?】

【おいっ、聞いてねーぞ兵隊どもっ。ああ、あんな化け物がいるなんてよぉっ】

【もうおしまいだ。鉱山から抜け出してこなきゃよかったんだ。おしまいだ。もうダメだ】

【食われる……食われるんだぁぁっ】


 うん。誰一人として冷静じゃない。


【た、大砲を撃て! どんどん撃てっ】

【撃つざますっ。さ、さっさとするざますよ!】


 うえっ。い、今の声……まさか!?


【アッポントー将軍。もうよしましょうっ。無理ですっ】

【えぇぃ、黙れ! わたしに指図するなっ。貴様の妻子供がどうなってもいいのか!?】

【くっ】


 え、まさか元自分の部下とかの家族を人質にしているのか?

 太陽が僅かに顔を出し、船団の全貌が見えてきた。

 ちらほらと、黒い海賊旗も見えている。

 クラ助にも見えたのか、怯えて船乗りのおっちゃんの背中に隠れていた。


『あぁ……あぁ……あの船は……』

「どうしたク美?」


 ふるふると小刻みに震えるク美。同時に彼女の周りには水泡がぶくぶくと上がっていた。

 興奮している?


『──でしゅ……』

「クラ助、どうした?」

『にーちゃんを……にーちゃんを……』


 それ以上は言わない。いや、言えないんだろう。

 だけど分かった。


「ク美。仇を取ってもいいんだぞ」

『はい』


 彼女は短くそう答えると、長い腕を振り上げ──


 巨大な水弾を放った。

 

 その一撃で後方にいた海賊船が一隻、木っ端みじんになる。

 

「前進!」


 号令をかけ船を進ませる。

 混乱しきっていた船団は、ク美の一撃を目の当たりにしてさらに混乱した。

 海に飛び込んで逃げようとする者もいる。


「風の魔法で俺の声を届けられるか?」

「可能ですよ。やりますか?」


 さっきの精霊使いを振り向き、それから頷く。


「──どうぞ」

『ありがとう。あ、もう声届いているんだよな?』

「ぷふっ。届いています」


 精霊使いは笑って船団を指さした。

 えぇっと、セリフを考えなきゃな。


 まずは──


『アッテンポーに告ぐ。無駄な抵抗は止めて、大人しく降伏しろ』

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