第73話:ライトニング戦斧

 トリスタン島に戻って来て、疲れ切った船乗りたちを荷車に乗せて町へと運んだ。

 空いている宿の部屋にそれぞれ寝かしつけ、俺の錬成したポーションを飲ませる。

 これ、怪我に有効なポーションだから疲労はあんまり回復しないんだけどな。


 船長のナタールからしっかり話を聞いて、討伐準備に取り掛かろう。


「死者が出なかったのは不幸中の幸いだ」

「へぇ……」

「なんだい、気になることでもあるのかよ?」


 そう言って嘆くのは、島の冒険者ギルドのマスターのオレインだ。

 元冒険者らしく、筋骨隆々の肉体を持つ男だ。

 この場にはオレインともうひとり、副マスターも同行していた。

 まとめた情報を冒険者に伝えるためだ。


「ここ一年の間に海賊ではなく、クラーケンらしき物に襲われたという商船が結構あるようですわね」

「そうなんだよ姉ちゃん。ただ襲われた商船のほとんどが……死人が出ていねえんだ」

「え? 死人が出ていないって……クラーケンに襲われて?」


 そんなことってあるのか?

 だって俺が襲われたあの奴隷船は、たぶん乗ってた連中が結構死んだはずだ。


「死人が出た船もあるってこったな」


 ギルドマスターのオレインの言葉に船長は頷く。

 ただ死人の出た船には特徴があった。

 商船が見つけた、粉々に破壊された船が海上に漂っていた。



「まぁ商船に偽装した船だったんですけどね、けどその船が海賊船だったんですよ」

「偽装船か……」

「周りには海賊どもの死体がぷかぷか浮いていたそうで」


 中には魚についばまれていた死体もあったとか。オエッ。


「海賊船だけなのでしょうか? 商船にも武器は積んでいるはずでしょう?」

「あぁ。俺の船にもそれは積んである」


 船には対海洋巨大モンスター用武器があったらしい。


 ナニソレチョットカッコヨサソウ。


「雷属性を付与した巨大な銛なんですがね……まったく役に立たなかったんですよ」

「雷が弱点ではなかったと?」


 海の中に住むモンスターは雷系の魔法に弱い。

 というのはド定番だ。


「いえ、効いてはいたんです。けど……奴が巨大過ぎて。針で刺した程度ですよ、ありゃあ」

「あぁー……ところでその銛の大きさは?」

「あっしの身長より頭一つ分長いぐらいでさぁ」


 この船長、たぶん190センチ近いと思うんだけどな。

 どんだけ大きいクラーケンなんだよ。


 けど雷付与が効かない訳じゃない──というのは朗報だ。

 雷魔法の付与石ならまだある。というか、一つ残しておけばあとは延々と量産が出来る。

 付与石も「魔法アイテム」扱いだからだ。

 箱さえあれば手軽に魔法アイテムが作れるってね!


「チッキショー。俺様の戦斧に雷が付与されていればなぁ」

「ギルマス、現役を退いているんだろう?」

「何言ってるんだご領主よ。クラーケンだぞ? 海の魔獣だぞ? 地上最強がドラゴンなら、海の最強はクラーケンだ。倒してみたいじゃねーか!」

「男爵、無駄ですわ。この人、脳筋ですから」


 と、副マスターのレナインが言う。

 彼女、凄く美人だけどちょっときつめな印象なんだよなぁ。

 でも冒険者への面倒見もよく、何よりギルドマスターが信頼しているようで……仲がいい。


「付与かぁ……出来てもどうせ、俺しか使えないんだろうなぁ」

「ご領主、そりゃあいったいどういうことで?」

「あぁ、実は俺の『錬金BOX』ってね──」


 箱で錬成が出来ることは島民全員が知っている。毎日のように何かを錬成しているから。

 付与のことは言ってない。言う機会も無かったし、ステータスの実をこっそり付与するときにしか島では使っていなかったから。

 だから今ここでギルドマスターに話すと、彼は──


「俺様の戦斧に、是非付与してくれぇぇっ!」


 っと、懇願してきた。






「まぁ一応やってみるけど、たぶん使えないと思うよ」

「なんでです?」


 場所を外に移して、まずはライトニングトールを付与した石を、アイテムボックス袋から取り出した。

 いつでも使えるように、付与石は袋の中に入れてある。

 島民から「男爵が持つような袋じゃない。ボロだからカッコイイものに錬成しなおせ」とよく言われる。

 ほっといてくれ!


 石と、オレイン自慢の斧を『錬金BOX』へ入れる。

 随分と柄の長い戦斧だなぁ。刃もやたらデカイ。今の俺の筋力でも、持ち上げるのがやっとだ。


「お、ご領主。なかなか腕力があるじゃねーか」

「まぁ多少は……じゃあ付与っと」


 箱を空けるとにょきっと戦斧の柄が飛び出す。

 それを引き抜くと、斧の刃からパチパチと青白い火花が弾けた。


「お、おおおおぉぉぉっ」

「ギルマス、持ってくれ」

「おっしゃあぁぁぁーっ──あ?」


 彼に手渡した途端、火花が消える。

 うん、やっぱりな。


「おおぉおぉぉぉぅぅ」


 項垂れるギルマス。

 すると副マスターのレナインが眼鏡をくいっと上げ──


「箱の『付与』効果が男爵様だけのものでしたら、そこに『エンチャント』を挟むとどうなるのでしょう?」

「エンチャント……武具に属性を付与するあれか」


 なるほど。エンチャントは一定時間、武具に属性を付与する魔法だ。

 そのエンチャントを、俺が武器に付与する。

 出来る出来ないはよしとして、試してみる価値はあるな。


「ではエンチャント魔法の使える冒険者を連れてきますわ」

「いや待ってっ。だったらわざわざ俺じゃなくって、魔術師に雷をエンチャントして貰えばよくないか?」


 そうじゃなきゃ、俺が冒険者にエンチャントをせびられる未来が見えるんだよ。

 レナインはまたまた眼鏡をくいっと上げ、


「残念ながら雷属性の魔法を使える冒険者がおりません」


 と、無慈悲な言葉を発した。


「は?」

「雷は魔法の中でも高度な分類なのですよ」

「うそん。ロイスはめちゃくちゃ楽勝で使っていたぜ」

「あの方とそこらの魔術師を比べないであげてください。かわいそうです」


 ロイスが規格外ってことか。


「あ、訂正します。ひとりいました」

「おお!」

「しかし初級の『サンダー』のみですし、付与魔法を習得していないはず。どちらにしても、ロイス様のとんでもない魔法が付与できるのなら、その方がよろしいに決まっております」


 そう言ってレナインがギルドへと向かい、暫くして戻って来る。

 あぁ、コキ使われる未来が決定したな。


 連れて来られたのは火属性の付与が出来ると言う魔術師だ。


 エンチャント魔法は武具対象の魔法。

 これの解決方法として、ギルマスの戦斧に火属性のエンチャントをかけて貰った。

 その斧を箱に入れる。

 斧と、火のエンチャント魔法とに分解。


 次にただの石を二個入れる。一つには『火』を付与して、残ったもう一つは『エンチャント』石になった。


「分離するとやっぱりファイア石になるんだな」

「エンチャントするときにファイアをイメージしますから……でも本当にファイアだったとは、私も知りませんでしたよ」


 と、魔術師冒険者が言う。


「よっしゃーっ。今度こそ雷だな!」

「はいはい。まずエンチャント石の量産ね」


 量産したうちの一つと、ロイス産『ライトニング・トール』石を一つ箱に入れ、戦斧も投入。

 ライトニングトールとエンチャントを、斧に付与──するとぉ。


「おおおぉぉぉぉぉっ!」

「うわぁー、出来ちゃったよ」


 完成した斧をギルマスが握っても、ちゃんと放電していた。

 ただエンチャントってさ、一定時間しか効果がないんだよね。


「あ、一時間で効果が切れます」


 そして一時間後。


「うあああぁあぁぁっ、俺様のライトニング戦斧せんぷがあぁぁぁっ」


 普通に戻った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る