第74話
『なんだこれは……』
『ベェ……』
クラーケン退治の助っ人として、ゴン蔵とボスが参加してくれた。
これで鬼に金棒だな。
雷エンチャントの説明をするのに、実際に何人かの武器にエンチャント付与してやった。
そしたら全員がヒャッハーして、俺も俺もとなって今ここ。
お祭り状態だ。
一時間後に消えるから、現場に到着前にまた付与しなおさなきゃな。
「エンチャントの魔法を挟むことで、付与後も他の人が持っても効果が出ることが分かったんだ」
『ほぉ』
「ただエンチャント目的でしか使えないみたいで、直接攻撃用には出来なかったよ」
ファイアとエンチャントと石に付与すると、ただのファイアエンチャント石になる。
地面に向かって投げても効果が無かった。
そもそもエンチャントは
地面にはエンチャント出来ないし、ファイアは付与する属性に変換されるようで意味がない。
が、それも今は関係ないな。
パリパリと放電する武器を、冒険者たちは満面の笑みを浮かべ見つめている。
それを自慢げにゴン蔵へ見せびらかすものまでいた。
『なるほど。ならば勝負がつくのは早かろう。我もおるのだしな』
『ベェー』
俺だっているぞとボスが声を上げた。
ただボスのニードル・クエイクは海の上では使えないな。
ま、角突進は破壊力も抜群だし、イカの足をふっ飛ばすぐらいは出来るだろう。
『ちなみに言っておくが、我、氷竜だからな』
「ん、それは分かっているけ──あ」
そうだった。こいつも雷魔法が弱点だったんだ。
『我、上空からブレス吐くし』
「そ、そうしてくれ」
どうやら俺たちには近づかないようだ。
あと冒険者を脅していた。
『我に挑むとき雷付与していたら、本気出すからな』──と。
そりゃあ全員ビビるって。
桟橋から出航した船を、島民とゴン蔵が見送る。
ゴン蔵が一緒に出発すると、船が遅すぎて海獣大決戦で終わってしまう。
これは俺たち人間とクラーケンの問題だ。本当はゴン蔵にここまで頼むつもりはなかったんだが、『お前に死なれては困る』というので少しだけ手助けして貰うことになった訳だ。
「シアの魔法で海面を凍結させられたりできるか?」
「んー、少しだけぇ」
「そっか。少しでも出来るなら凄いもんだ。冒険者が直接攻撃できるように、足場として凍らせて欲しいんだ」
「付与する?」
「あぁ、そうだな。そうすればお前の負担を減らせるか」
石は持って来てないが、空の樽がある。それをビー玉サイズに錬成して、付与用にした。
シアの魔法『アイス・フィールド』を付与したそれを鑑定すると、
【『アイス・フィールド』が付与された木。投げて衝撃を与えると、半径3メートル範囲が凍結する】
とあった。
半径3メートルか。木の数が多いし、まぁ十分だろう。
船に揺られること三時間ほどで、上空にはゴン蔵の姿が。
「ウーク、あっこの海ぃ」
シアの声に船の上にいた全員が前方を見つめた。
海面が盛り上がり、そこから巨大な姿を現したのは確かにイカだ。
いやぁ、デカいだろ。
ゴン蔵並みのサイズだぞ。
しかもアレに長い足があるんだから質が悪い。
だが──
『グルルアァアァァァァッ』
ゴン蔵がひと吠えすると、クラーケンは速攻で海中に潜ってしまった。
『ぬ……潜られてはブレスも届かぬ』
「わかった! どうせたぶん、船に取り付こうとして足を伸ばしてくるだろう。じわじわダメージを与えるさ」
シアが海面の盛り上がりを見つけてからすぐ、戦闘準備は始めていた。
みんなの武器を次々に箱の中に突っ込んで貰い、ライトニング・トールエンチャントを付与!
「一時間だからな!」
そう言い終えると同時に、船の船尾の方の海面からイカの足が出現した。
「うらあぁぁっ。食らいやがれぇっ!」
「サンダー・アローの威力、見るがいいわ!」
「おぉぉっ。こりゃ楽しいな!!」
雷付与の武器を構えた何人かがイカの足に群がる。
更に船の側面から──
「きたきたきたぜぇーっ!」
「バリバリ行くぜい!」
なんだろう……ちょっとだけクラーケンがかわいそうに思えてきた。
シアから貰ったアイス・フィールド木を持ったまま、あの辺に潜ってるんだろうなーって海を見つめた。
よく見ると船底に向かって伸びてくるイカの足が見える。
それを辿って──
「あそこか。シア、ボス。一緒に来てくれるか?」
「う、海泳ぐ?」
『ベ、ベベベベベベ』
「いや、これを投げて凍らせて進むんだ」
「あっ。そっかぁ!」
アイス・フィールド木を投げ、凍った海面に向かって縄梯子を下ろす。
船の周りに出現した足は十本。
クラーケンもイカなら、足は十本で打ち止めだよな!
「わたくしも行きますっ」
「じゃあ氷対策をしますので、一度靴をお貸しください」
簡単な対策だ。靴の裏にゴムを錬成でくっつけるだけだが、溝をたくさんつけてスノータイヤのようにしてある。
ボスにも靴下みたいな感じで作った物を履かせた。
段々と伸びる足の根元へと近づき、アイス・フィールド木をそこかしこに投げて戦闘区域を作り上げる。
『我も手伝おう』
「頼む! 俺たちの前方50メートル先の海底にいると思うんだっ。円を描くように、真ん中だけ開けておいてくれ」
『分かった』
ゴン蔵のブレス一発でスケートリンク並みのフィールドが完成。
あとは潜っているクラーケンを引っ張り出すだけ。
それだって、俺たちが真上にいたんじゃあ、落ち着いてはいられないだろう?
狙い通り、真ん中だけに残った海水部分が盛り上がり、そこからイカが現れ──ん?
『お、おかあしゃまを、虐めるなでしゅ!』
小さい──いや、大きい?
胴の長さが1メートルを少し超えたサイズのイカが飛び出してきた。
しかも喋ってる!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます