第71話

 二週間ほど続いた雨季が終わり、気づけば七の月が始まった。


 雨季が終わった=夏が来た!!


「夏と言えば海でしょー!」


 モズラカイコの糸を練成して作った海パン!

 色は黒!

 さすがに白い海パンを穿く勇気は、俺にはなかった。


「ちょ、ちょっと恥ずかしいですわね。でもこういうドレスなんだと思えば……」

「うにゅうぅぅ。海こあい」

「大丈夫だってシア。俺はバッチリ、泳げるからさ」


 エアリス姫とシアが着る水着は、島の女性陣の監修の元、何度も何度もダメ出しをされようやく完成したものだ。

 まぁ正直言えば、姫付きの女騎士二人が絵にしてくれたものをそのまま作っただけなんだよな。


 けど、良い物が出来たと思う。


 エアリス姫の水着は、ビキニと腰に──えぇっと、なんだっけか?

 水着のタイプ名なんて、ビキニかスクール水着しか知らないよ。

 とにかく腰に布みたいなの巻くやつだ。少しでも露出を減らすためだって、女騎士が言っていた。

 小振りの胸を強調しないようにと、胸元にふりふりした布を多めに配置されている。

 これも女騎士の気づかいらしい。

 もちろん姫にはそのことは話してない。

 白とピンクのチェック柄は俺のアイデアだ。上手く表現できて嬉しい。


 シアのほうは青、水色、白で作ったビキニだ。

 ミニスカートみたいにした。

 最初はパンツタイプだったんだが、シアが「やっ」って言うからさ……。

 上のほうはオーソドックスなビキニタイプにしたけど、結構苦労したな。

 サイズの意味で。


 何度も何度も錬成しては試着してもらい、やれ小さいだの大きいだの。

 十回ぐらい錬成したかな?


 まぁその甲斐あって無事に雨季明けには完成した水着だ。


「ほぉ、これに体を通せば浮くのか?」

「本当に大丈夫なんじゃろうなぁ?」


 あー、ついでだから住民全員の水着も錬成したんだよな。

 あとゴムの木を見つけたんで、樹脂を集めて浮き輪も錬成してみた。


 ドワーフ軍団が興味津々だけど、誰も海に入ろうとしない。

 今日は仕事休みの日にして、島民の半数以上引き連れて町の東にある海岸へとやって来た。

 船着き場から南は、数百メートルにわたって砂浜が広がっている。

 

「はっはーっ。じゃあ俺たちが試してやろうじゃないか」

「お、さすが冒険者。命知らずじゃの」

「おいおい、俺が錬成して大丈夫だって言ってんのに、そりゃあないだろう」

「おぅ。ご領主様もこうおっしゃってるじゃないか。それいくぜー!」


 大の大人が浮袋を付けて海に飛び込んでいく。

 前世の記憶のある俺としては、吹き出しそうになる光景だ。


「おぉ! 浮くぜこれっ」


 冒険者のひとりが楽しそうに海に浮かんでいる。

 それを見て騎士や他の冒険者が、顔を見合わせながらも浮き輪に体を通して海へと向かった。

 冒険者も騎士も、ほとんどが引き締まった肉体ボディーを持つ。

 そんな男たちが、浮き輪を付けて海に行ってるんだぜ。


 シュール過ぎるんだろ。


 とはいえ、冒険者にも女性はいる。

 彼女らにもそれぞれ何度も試行錯誤して錬成した水着を渡してあって、今はそれを着てくれていた。


 うん。

 なんだろう。

 俺、人生で初めて女性がキャッキャウフフして海に入る姿を見ている気がする。


 いいな、これ。


「ルーク様ぁ~っ」

「ウークもぉ、来るのぉ~」

「え、あ──」


 嫌だって言ってたくせに、シアの奴、海に入ってんじゃん。浮き輪付きだけど。


 気づけば全員、浮き輪に入ってぷかぷかと浮かんでいた。






「これがバタフライだ」


 ばしゃばしゃと泳ぐ俺。

 泳ぎは結構得意だ。


「「おぉぉっ」」


 最初にクロールを見せた時には上がらなかった歓声。

 まぁこっちの世界でも、泳げる奴はだいたいクロールなんだよ。

 実際冒険者や騎士の中には、クロールで泳げる奴が何人もいた。ちょっとぎこちないフォームだったけど。


 平泳ぎでは笑われ、バタフライでは歓声だ。

 まぁ水泳の概念の無い世界で、バタフライなんて思いつかないフォームだろうな。


「あ、シア。泳ぎの練習するか?」

「やっ!」

「即答かよ……ん?」


 シア越しに見えた沖合で、船の姿が……けどなんかおかしい。


「あの船……」

「どうしたんですの、ルーク様」

「いえ、あっちに船が見えるんですが、なんかおかしくありませんか?」

「んー……あぁっ。あのお船、こわえてるぉ!」


 壊れていると聞いて納得した。

 あるはずのマストが無いんだ。それに船首もえぐれた感じになっている。


「まさか海賊の仕業なのか!?」

「救助に向かわれますか?」


 騎士のひとりがそう言う。

 島には何かあった時のために、中型の船が常駐している。もちろん船乗りもだ。

 ここから町まで徒歩で一時間半は掛かる。なので船乗り用に、町へと続く森の道の入口にアパートを一軒建ててある。

 休みの日まで海に入りたいとは思わない──ということで、彼らは家でのんびりしているだろう。

 

「もちろんだ。すぐに呼んで来てくれ」

「承知しました」


 さすがに騎士だ。行動が早い。


「冒険者は各々武器を手に船の方へ! 海上での戦闘があるかもしれない。防具は最小限にするんだ」

「特別手当でますかね、ご領主様」

「んー、じゃあ……一週間、三食タダ!」

「おっしゃー! 引き受けましょう、その依頼っ」


 

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