第70話:センスとは

 ニーナとキャロに草をたらふく食べさせた翌日は、また雨だった。

 だが仕事はある!


「モズラカイコの糸で、何を作られるのです?」

「この糸は防水性の高い、しかも丈夫な糸です。そのうえ若干光沢もあって、商人の間でも高額取引されているものですよ」

「そうだったのですか? わたくし、全然知りませんでしたわ」

「綺麗だねぇ」


 これでレインコート、あと傘を作りたい。

 コートは簡単だけど、傘は骨組みとかちゃんとしないと閉じっぱなしor開きっぱなしになるしなぁ。

 グレッドに相談して、骨組みは手作りして貰おうかな。


「これ、染色はできるのでしょうか?」

「出来るんじゃないでしょうか」


 真っ白なレインコートでもいいけど、全員それ着てるってのは絵面的にシュールな気がする。

 染料は石で作ることが出来るので、いろいろ錬成したいと思っている。

 その石もいくつか用意しているので、まずはレインコートの形で錬成してみた。


 出来上がったコートを着てサイズを確かめる。


「それ、コートですの?」

「レインコートといって、雨の日に濡れないようにするための物ですよ。こうやってフードを被れば、頭も濡れないし」

「まぁ! 便利ですのね」

「シアも欲しいぃ。シア、濡れるの嫌い」

「分かったよ。何色がいい?」


 シアはいくつか用意した石を見ながら、薄水色の顔料となる石を手渡してきた。


「これより少し小さく錬成するか──こんなもんかな。ちょっと着てみてくれ」

「あい」

「わ、わたくしはこっちの色で」

「薄桃色か。さすがお姫様だ。じゃあ──よし、サイズを見てください」


 二人がそれぞれ袖を通し、サイズを確認する。

 膝下丈で、裾は少しだけスカートのように開くようにしてみた。


「あら、少し大きいようですわ」

「姫はまだ十四歳ですし、身長もまだ伸びるでしょう。だから少し余裕を持たせました」

「そうですの。袖は折り曲げれば問題ありませんものね。これでいいですわ」


 けどどうせならと思って、少しだけ可愛くしてみた。

 背中のウエストあたりにリボンをくっつけたのだ。


「まぁ、可愛い!」

「あぁーっ、シアもぉ。シアも欲しいっ」

「あー、はいはい。分かった分かった。じゃあついでに染めてしまうぞ」


 リボンが少し目立つように、そこだけ濃い目になるよう錬成した。姫も同じだ。

 ふ。俺のデザインセンスもなかなかいいじゃない。


「んふふ。これで雨の中を歩いても平気ですわね」

「けどあんまりはしゃぐと、地面に溜まった水が跳ねて下から汚れますので……あー、ズボンとか穿くつもりは?」

「嫌ですわ」

「ですよねー」


 じゃああまりはしゃがないようにして貰わなきゃな。

 さて、俺の分はこのままでいいや。あとはズボンも錬成して──ゴムがないから紐で縛るようにするか。

 それから騎士用にも二十着ほど錬成し、人間の職人用、ドワーフ用と作っていく。

 

「まぁレインコートがあっても、高所作業は危ないことに変わりないんだけどな」

「この残った糸はどうしますの?」

「服欲しい!」


 服かぁ。それはなー……俺のデザインセンスが試されすぎるので、さすがに本職に頼んで欲しいな。

 それよりも防水という効果を有効的に使いたい。

 たとえば……


 たとえば……


 うぅん。たとえばなんだろう?


「それにしても、最近暑くなってきましたわね」

「雨季が終われば本格的に夏ですからね。今からその準備なのでしょう」

「シアは暑いの苦手ぇ。寒い山の上の方で暮らしてたからぁ」

「そうなのか?」


 確かに銀狼って聞くと、雪山というイメージだな。氷魔法も使っているし。


 雨季が終われば夏。アンディスタンでは日本のようなじめぇーっとした夏ではなかったが、この辺りはどうなんだろうなぁ?

 あぁ、せっかく海が近いのに、海水浴が出来ないなんて。


 この世界はプールもなければ、海水浴の概念もない。

 泳げないからと言って笑われる世界じゃない。むしろ泳げない人間のほうが多いかもしれないから。


 川に落ちた時、船から落ちた時。そういう時に泳げたらラッキーだねっていう程度。

 まぁ船乗りはほぼ全員が泳げるんだろうけど。


「海水浴か……そうだっ!」

「どうしたのウーク?」

「シア、お前に泳ぎを教えてやる」

「え……」


 途端に耳を伏せ、尻尾を垂らしてエアリス姫の後ろに隠れた。

 そんなシアを横目に、モズラカイコの糸を『錬金BOX』に入れて──錬成!


 オシャレで女の子が好きそうな水着をれん……せ……い?


「こ、これはっ!?」

「うー? ウーク、これなぁに?」


 オシャレで女の子が好きそうな水着になぁーれって感じで錬成したそれは、俺の記憶の中ではスクール水着・・・・・・と呼ばれるものだった。

 染色をしていないので、純白のスクール水着だ。


「ルーク様これ……下着ですの!?」

「はっ。ち、違うっ。こ、これは水着と呼ばれる、泳ぐための正装であって……」


 誰かぁぁっ。

 俺にセンスというものを、くださーいっ!


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