第65話
*今日、明日は「朝」「夜」の二回更新とします。
「えぇ!? こ、この宿を取り壊すだって……」
「今すぐじゃねえ。ちゃんとした領主邸が完成してからだ」
本国から応援部隊が到着して十日。
職人棟梁のグレッドが朝食の席でそう言った。
相変わらずここでは職人や騎士、たまに冒険者も来てわいわいと食事を楽しんでいる。
前世でも今世でも、寂しい食事風景だった生活しか送ってこなかった俺的には、今のこの光景は至福のひと時だってのに。
「それをあんたは奪おうっていうのか!?」
前世の事は抜きにして話す。
「……貴族もいろいろ辛いことがあんだなぁ」
「あぁぁ、棟梁が泣いた」
「ご領主様ぁ、うちの棟梁はお涙頂戴に弱いんだから、いけませんぜぇ」
俺は何も嘘なんか言ってないし。
俺が泣かしたことになっちゃってんの?
「分ぁーった! じゃあ領主邸の一階にでっけー食堂を作ってやらぁっ。そこを店舗にして、誰かに店をやらせりゃいいだろう。うちのかーちゃんなんかが喜んで引き受けるぞ」
「ちょっとアンタッ。勝手に話を進めるんじゃないよっ。あ、でもご領主様、やれと言われたらアタシはいつでも歓迎だよ?」
「おおぉぉーっ! いいんですかロゼッタさんっ。じゃあ一階は食堂でヨロシク棟梁」
これで賑やかな食事風景は保たれる。
でも食堂にするっていうなら、町から離れたところに屋敷を建てるわけにはいかないな。
「どこに建設予定なんだ?」
俺がロゼッタさんに頼んで作って貰ったカツサンドを頬張りながら訪ねた。
総菜パンの概念が無かった異世界で、いくつか作れそうなネタを提供したらこれがバカ受け。
普通にパンを焼くより手間がかかるが、ボリュームが増すので働き手には大人気になった。
「うぅん。最初の計画だと、果樹園の手前辺りを考えていたんだがな」
「でもそれだと食堂までわざわざ足を運ぶのは面倒だろう。客足が遠のいて寂しくなる。嫌だ」
「ガキかよお前ぇーは!」
もう少しで十六歳。されど十六歳。
日本じゃ立派な子供さ。
まぁ俺、死んだの二十三歳だから、子供と言い張れない所もあるんですけど。
「わたくしもルーク様の気持ちが分かりますわ」
「お、エアリス姫も分かってくれますか」
「えぇ。わたくし、お城にいた頃は侍女たちに囲まれて食事をしていましたが、彼女たちと一緒に食べていたわけではありませんもの」
つまり囲まれて、見られていただけ──と。
まぁそれはそれで寂しいよな。
「ここに来てみなさんとお喋りをしながらの食事は、本当に楽しくて、それにとても食事が美味しいですもの」
それを聞いてじーんっと感動する職人や冒険者たち。
逆に騎士は苦笑いを浮かべる。
一国の姫様が食事中にお喋りを楽しむなんて、まぁ本来ならお行儀が悪いと言われても仕方ないところだよな。
でもここなら許される。
そんな雰囲気がもう出来上がってるんだ。
俺はこの雰囲気を大事にしたい。
大工職人増援部隊が来て約二カ月もすると、新築の宿が二軒、冒険者ギルド、俺考案のアパート二軒、店舗兼民家数軒が建った。
「いやいや、俺らも長年この仕事をしているが、まさか二カ月でここまで出来るとはなぁ」
「みんなの頑張りのおかげだな」
俺がそう言うと、グレッドが呆れたようにこちらを見た。
え、なんで?
みんなで頑張ったじゃん。
ゴン蔵が木を引っこ抜き、俺が木材に錬成し、職人たちが組み立てる。
冒険者も騎士もみんな手伝ってくれたんだ。だからこんなに早く出来たんだろう。
「ま、頑張ったわな。うん」
「けどまだまだ頑張って貰わないゃな。ひとまずアパートも出来たし、宿も増えた。働き手を呼び込みたいところだな」
「冒険者ギルドが完成したんで、ギルドマスターはそろそろ冒険者の入島制限を解除して欲しそうだぜ」
「まぁ冒険者はテント暮らしでもいいって言ってるし、許可出してもいいんだけどな」
けどその前に食料事情の改善をしなきゃならない。
今は職人の奥様方が畑仕事を担ってくれているが、人が増えれば追いつかないだろう。
専門家=農家の方々に移住して貰いたいんだけどな。
そういやロク、どうしてるかなぁ。
俺もトロンスタ国民になったし、会いに行ってもいいんだけど……と思いつつ周りを見る。
建設途中の建物が一つ二つ三つ……いっぱい。
他に必要なのは騎士団の詰め所兼、宿舎。
宿は今三軒あって、それぞれ十五部屋ずつぐらいある。全部二階建てだから、部屋はそう多くはないんだよな。
ギルドマスターの希望だと、最低でもあと二軒ぐらい欲しいそうだ。
それからアパートももう一軒欲しい。
既に二軒が満室で、この先移住してくる人を招いても、住むところが無い。
あとは一軒家だ。農家さんはアパートだと耕具置き場に困るだろう。
「はぁ、まだまだ足りないなぁ」
という訳で、木材錬成を頑張りますか!
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冒頭でも書きましたが、今日、明日は
「朝」「夜」の二回更新を行います。
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