第56話

 トロンスタ王国からはエリオル王子が同行した。

 もちろんシアと、そしてエアリス姫も馬車に乗っている。

 角シープーファミリーとゴン蔵&ゴン太は、別荘で留守番だ。


 島を出るとき海に飛び込んで来たってのに、今回は大人しく留守番をしてくれた。

 シアが言うには、


「人間同士のどろどろしたお話しにいくだけだから、行かないってぇ」

「どろどろって……まぁそうなんだけどさ」


 もふもふ成分の無い状態で、約三週間掛けてアンディスタンの王都へと到着した。

 シアも銀狼化すればもふもふだけど、今は俺とゴン蔵&ゴン太、そしてシープーファミリーだけが彼女の正体を知っている。

 

 王城へと到着し、出迎えの騎士に案内されたのは立派な応接室だった。

 トロンスタ王国からもアベンジャス率いる小隊と、ロイス、司祭が護衛で同行している。

 もちろん道中で登場した野盗が瞬殺されたのは、言うまでもない。


「あぁ、緊張してきた……話を聞きたいってことですが、どんなことを聞かれるんでしょうかね」

「海賊が持っていた密約書をどこで、どういう風に見つけたかとか?」


 首を傾げる王子も、どんな質問が飛んでくるか分からないようだ。


「ご心配なく。万が一、アンディスタン側が自分の不利益にならないよう、あなたを陥れるような誘導の仕方をしようとすれば──」

「す、すれば?」


 ロイスがニィーっと笑う。

 まさか魔法をぶっ放してその場を切り抜けるとか言わないよな?


「その時はこちらが丸め込みますから」


 と、サラっと言う。

 どうやって丸め込むんだ。


 応接室の扉がノックされ「謁見の準備が整いました」という声が。


「では行こう。ルークエイン、準備はいいか?」

「緊張はしていますが、こうなったら行き当たりばったりで行きますよ」

「そうだな。なに。君は正しいことをしてきたのだ。胸を張るといい」


 男たちが立ち上がり、シアと姫、それから姫付きの女騎士、アベンジャスの部下が二人ここに残る。

 シア以外は当然、姫の護衛だ。


「シア、待ってるんだぞ。では姫、シアの面倒をお願いします」

「お任せくださいルーク様。どうかお気をつけて」

「ウーク、がんばっ」


 いざ行かん、戦場へ!






「きぃーっ! あーったらっ。あたくしの果樹園を返すざますっ!!」

「僕ちゃんの果樹園でもあるじゃんっ。もうお腹ぺこぺこじゃんっ。早く食事を持ってくるじゃん!!」

「えぇいっ、黙らぬか!!」


 何がどうしてこうなっている?


 俺たちが謁見の間へとやって来ると、そこには見覚えのある肉塊が二つあった。あともやしのような男も。

 衛兵と騎士、十数人が盾を構えて肉塊を抑え込もうとしている。

 もやしは無抵抗だからなのか、放置されていた。


 果物がどうとか言っている気がするけど……。


「ジョフス!」

「承知いたしました」


 玉座に座る王が傍らに控える杖を持った男に声を掛けると、男は肉塊に近づいて魔法を唱えた。


「沈黙の魔法ですね」


 後ろでロイスの声がした。

 うるさいから実力行使で黙らせるのか。


 そのとき、ぼぉっとただ立っていただけのもやし=ローンバーグ侯爵がちらりとこちらを見た。

 ちょっと間があって、それから腰を抜かす。


「ル、ルル、ルークエイン!? な、なぜお前がここにっ」


 それはこっちのセリフだ。なんでここにいるんだよ。王都ならあんたらを見ることもないだろうと思って、要請に応じてここまで来たのに。


「ローンバーグ侯爵。なぜであろうな。息子は成人の儀を行ったその日に、馬車ごと崖から転落して死んだと報告を受けたのだが。そこにいるのは貴様の反応からして、本物の息子のようだな」

「ひっ。そ、それは……。いいえ陛下っ。この者は確かに我が息子に似ておりますが、別人でございますっ」


 崖から転落?

 そんな扱いになっていたのか。っていうか奴隷商人に売り渡して、その上で死亡届とか出してやがったのか。


「ローンバーグ侯爵はこう申しておるが、少年よ、どうだ?」

「えぇっと、ルークエインであることを証明すればよいのでしょうか?」

「そうだ」


 そんなもの簡単だ。


「陛下。この場においでの重臣の方々の中に、鑑定スキルが使える方はいらっしゃいませんか?」

「おる。ジョフス」

「はっ。では失礼しまして──"鑑定"」


 宮廷魔術師なんだろうな。

 鑑定スキルを使える人は少ない。けど宮廷魔術師に上り詰めるような実力者は、使える人が多い。

 鑑定スキルがあるってだけで、召し抱えられたりもするぐらいだ。


「鑑定結果──名前はルークエイン・ローンバーグ。15歳。『才能』は錬金……不思議な文字であとは読めませぬが、『祝福』は『付与』となっております」

「『才能』の届け出は『錬金術』となっておったが、『祝福』は合っておるな」

「おそらく文字が読めないため、適当に当てはめたのでしょうな」

「なるほど。少年がルークエイン本人であることは分かった。それで侯爵よ、どう釈明するのだ?」


 国王の声は至って平常であり、その顔は無表情。

 こわぁー。


「陛下、あの……よろしいでしょうか?」


 質問を受ける立場の俺だが、どうしても聞いておきたい。


「うむ。話すがよい」

「ありがとうございます。では……なぜ侯爵がここに?」


 ただいるのではなく、どう見ても罪人っぽい扱いで連れて来られているように見える。


「ふむ。実はな──」


 まずは大きなため息を吐き、それから国王は語った。

 話を聞いて、俺は思わずこめかみに手を当てた。


「余の気持ち、分かってくれたか」


 そう言った国王の目は、どこか遠くを見つめているようだった。


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