第46話:付与とは?

【『ライトニングトール』。雷属性最大の破壊力を持つ局所魔法。天空の雷を集束させ、一点に落雷させる。魔力の低い生命がこれを食らえば、一瞬にして消し炭と化そう】


 そんなおっかないアナウンスが頭の中で流れる。

 それを搔き集めた石数十個に付与していざ出発!


「ダンジョンの地図があるんですか?」

「そうなんだ。核の破壊に携わった冒険者が几帳面だったようでね。ほら、この通り」


 エリオル王子に見せて貰った羊皮紙には、この階層全体の地図が描かれていた。


「地下への階段が見つかったら、もう用無しですよね?」

「だと思うのだが、どうやら完全に埋めてから進んで行ったようだ」


 なんのため?

 まぁおかげでこっちは迷うことなく進めるんだけどさ。


「ところでルークエイン。君のその付与石なんだが」

「はい」

「誤って落とした場合、どうなるんだい?」

「……確かめたことはありません」


 確かめる。

 それはつまり俺の死を意味しているから。


「……そうか」


 そう返事をして、エリオル王子が後ずさる。

 何故か周りの騎士たちも俺から距離を取った。


「だ、大丈夫ですよ。落としたりしませんから」

「しかしルークエイン殿。石をポケットに入れているだけではありませんか。ポケットの中で石同士が接触した衝撃で……」


 ざっ──と、シアを除いた全員がまた一歩遠のく。

 いやいや、大丈夫だって。たぶん……。


「今まで一度も暴発してないからっ」

「今までは……かもしれませんよルークエイン様。俺のライトニングトールが暴発したら、どんなことになるか……ひぃ」


 ぐぅ。そんな風に言われたら、俺だって怖いじゃないか。


「ではこういうのはどうだろう? ルークエイン以外の者が持っても、付与の効果は現れない。ならシアに持って貰うのは?」

「まぁ確かにその方が安全かもしれませんが……」


 石が多すぎて、今はいくつかだけをポケットに入れて、残りはアイテムボックスリュックの中だ。

 たぶんこのリュックも、シアが持つと効果が無くなる気がする。付与だからな。


「じゃあシア。ポケットの分だけでも、持って貰っていいか?」

「いいお。シアの鞄に入れるお」


 町でシアにもウエストポーチを買ってやっている。動きを阻害しない程度のやつを。

 中にはハンドタオルとポーションを入れてあるが、そこに石を入れると瓶が割れないか?


 うぅん、錬成してもう一つポーチを作るか。

 布ならシープーに掛けてあるアレと同じ物が残っているし。


 休憩時間にシアのポーチを観察して、似たようなものを練成した。

 うん、ちょっと不細工だけど問題ない!

 ポーチの中は五つに仕切ってある。付与した魔法ごとに仕分けて入れるためだ。


「よし、シア出来たぞ。じゃあこの中に石を入れてっと」


 じゃらじゃらと石を注いで、それをシアに渡した。

 左右の腰にそれぞれポーチをぶら下げることになったが、大丈夫だろうか?


 俺とシアのやり取りを見ていたロイスが腕組みをしてこう言う。


「なるほど。軽い衝撃では魔法は発動しないみたいですねぇ」

「ん? どういうことだロイス」

「いえ、今ポーチに石を移すときに、じゃらじゃらさせてたでしょう? 石同士がぶつかってたじゃないですか」


 あれ?

 言われてみれば?


「石ってそもそも、衝撃を与えて発動なんです? それとも地面に落として?」

「どう……だろう?」


 アイテムボックスの元にもなっている、ダンジョンボス産異次元石は、投げることでと言っていた気が。

 ロイスの魔法を付与した石を『錬金BOX』に入れて鑑定すると、やっぱり【投げることで~】と言っている。

 他の石も全部そうだった。


「投げなきゃダメ?」

「じゃあ落とした程度じゃどうだろう?」

「さぁ?」

「やるしかないでしょ」


 ってことで検証することになった。


 まず神官を配置します。俺が怪我してもすぐ治療するために。

 ロイスに『プチ・ウォーター』を唱えて貰います。一番威力の低い魔法を選んでもらいました。


 付与します。


 足元に落とします。


 何も起きません。


「落とすだけじゃダメなのか」

「2、3メートル先に投げる程度だとどうなんだい、ルークエイン」

「やってみます」


 これもダメ。

 いろいろ試した結果、距離よりも投げ方のほうが重要だと分かった。


 下からぽーんっと放り投げるのはダメ。

 ピッチャーのようにスピードの出る投げ方をしてようやく発動する。

 要は『ぶつける』感じに投げろってことだ。


「今まで気にせず投げていたけど、戦闘の時は相手にぶつけるつもりで投げていたもんな」

「まぁ分かって良かったよ。これで一安心だ」


 ほっと胸を撫でおろした騎士たちは、しかし微妙な距離を保っていた。



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