第36話:船出
「へぇ~。ダンジョンの生成や核の破壊を感じ取る『祝福』なんですか」
「そうだ。まぁハッキリ言って、ゴミだな!」
魔術師のロイスはそう言って胸を張る。
世の中にはいろんな『祝福』があるもんだな。
そしてこの『祝福』は、死んだダンジョンが復活した時にも感じ取れたそうだ。
なるほど。道理でダンジョンの復活を知っていたわけだ。
そんな話を、海岸へと向かう道すがらに聞いた。
昨日は一日かけて宿の修復をし、それからボスたちに当分の間世話をしてくれる人たちを紹介した。
あの船乗りと、騎士、それと魔術師たちだ。彼らが寝泊まりするために宿の修復を頑張った。
「ボスぅ」
「……見送りにも来てくれないか……仕事を終えて戻るまでに機嫌を直してくれるといいんだけどな」
暫く島を離れる。
そうみんなに話すと、シープー軍団も一緒に行くと言い出した。
でもなぁ。ふわっふわでもこっもこでも、お前らはモンスターなんだぞ?
いくら家畜をして飼われている事実があるからって、それは牧場で飼育されているシープーのことだ。
その辺を徘徊するシープーが冒険者に見つかれば、当然殺されてしまう。
王子が復活させようとしているダンジョンまでは、馬を使っても十日は掛かると言う。
ならやっぱり、あいつらは連れていけないよ。
「ボスが心配なら、シアも残っててよかったんだぞ? ダンジョンを復活させて、亡命とか島の所有権とかもろもろの手続きが済めば戻ってくるんだし」
「やーっ」
そう言ってシアがしがみつく。
顔を上げれば頬をぷぅーっと膨らませて、ご立腹なご様子。
「それだけ懐いているのです。連れて行って差し上げなさい。大丈夫ですよ。ダンジョンは死んでいます。モンスターは出ませんから」
「まぁその辺りの心配はしていないんですけどね」
モンスターがいないのは既に体験済みだ。核を修復すればボスが出てくるけれど、それも心配はしていない。
心配なのはシープーたちなんだよなぁ。
島のダンジョンが復活したことを、他でも感知する者がいるかもしれない。
まぁ入って行って勝手に死ぬのはいいが、荒らされても困る。
ってことで、俺が戻ってくるまで、そして冒険者ギルドの支部が出来上がるまでは、王子直属の騎士や魔術師たちが滞在することになった。
ついでにシープーたちの世話もお願いしてあるんだが……。
戻るまでに怪我人が出ないことを祈ろう。
東の海岸にある桟橋に、エリオル王子の船が停泊していた。
乗り込んで暫くすると、さっそく船が動き出す。
廃墟の町がある方を見つめ、ボスたちのことを想う。
「アグラに人参ハウスのお願いはしたけど……大丈夫かなぁ」
「うぅぅ。人参、なくなったらボスぅおこりゅ」
「反乱を起こすだろうなぁ」
「ひいぃぃぃ」
船が出航し、徐々に浜から離れていく。離れるほど寂しくなるな。
せめて見送りに来てくれてもよかっただろう。
島に戻ってくるときには、別の品種の人参の苗とか持って帰って来てやろう。
シープーたちの小屋も新築して、ふかふかの藁を敷いてやろう。
シーナの子供の名前も考えなきゃな。
そんなことを考えていた。
『ベエェェェーッ』
っという声が聞こえ我に返ると、砂浜をシープーたちが走っているじゃないか!
ボリスもいるし、シーナまで!?
「お、お前らっ」
『ベェッ。ベェェー』
「ボスうぅぅ。ウーク、ボスぅがいっしょ、いたいって」
「くっ。馬鹿野郎! 身重のシーナをどうするつもりなんだっ」
『ベェー。ベェ、ベベェー』
「シーナ、だいじょううって」
大丈夫ってお前なぁ。
『ペェー。ペェペエェェ』
必死に鳴くボリスは、そのまま海の中へ!?
「ば、馬鹿っ。引き返せ!!」
『ペェ、ペペペペェ』
うああぁっ。もうダメだ。
もうっ。もうっ!
「船長おおおぉぉぉっ。お願いです! 引き返してくださいっ。今すぐっ」
『ンペェッ。ンペッ』
「おいーっ。ボリスッ!」
突然途切れた声に恐怖して振り向くと、ボリス──を乗せたボスが溺れかけていた。
「うわぁぁっ。ボスウウゥゥゥッ。今行くぞぉーっ!!」
無我夢中で飛び込んだ。
そして思い出した。
真冬の海であることを。
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