第16話:ダンジョンは→

 ダンジョンは……右?

 

 ……ダンジョンとは。

 異世界ファンタジーならダンジョンがあって当たり前。この世界にも当然ダンジョンは存在する。

 ダンジョン内のモンスターと、地上に生息するモンスターは似て非なるものだ。


 地上のモンスターは雄雌の交配で繁殖し、ダンジョンモンスターはダンジョンの壁から産まれる。

 本で読んだ知識なので、ちょーっと信じがたいが。


「ダンジョンがあるのか?」

「う、ううぅぅぅ」

「じゃああの町はダンジョンで栄えたってことか」


 地上のモンスターを倒しても、その屍は消えたりしない。だから解体して素材にすることができる。

 ダンジョンのモンスターは倒すと光になって消えるそうだ。消えるとアイテムや素材を落とすってのは、ゲームみたいだ。

 同じ種類のモンスターでも、ダンジョン産のほうは質が良いらしい。だからダンジョンでモンスターを狩る仕事をする冒険者ってのが、この世界にはいるわけだ。その冒険者を世話する『冒険者ギルド』も存在している。


 ただこの世界のダンジョンには、俺が知るラノベやゲームのダンジョンとちょっと違うところがあった。


「けど、なんで無人島になったんだ? ダンジョンが生きて・・・いれば、いつまでも需要があるだろうに」

「あうぅー?」

「もしかして、何らかの事情で死んだ・・・のか?」


 ダンジョンは生きている。という表現はおかしいが、モンスターが壁から産まれるのはそういうことだからだ。

 全てのダンジョンには最下層にボスがいて、そのボス部屋には『ダンジョン核』がある。

 この核を破壊するとダンジョンは死に、モンスターは二度と生まれないし、ボスも現れなくなる。

 全てのモンスターを狩りつくせば、あとはただの巨大洞窟だ。


 ダンジョンから得られる素材で栄えた町は、それが無くなれば廃れるだけ。


 でも、普通は核を壊したりなんかしない。冒険者だって稼ぎ口が無くなれば困るのだから。

 ただし、理由があって核を壊すことはある。

 突然生成されたダンジョンが街道の近くだったり、王都や町、農村の目と鼻の先とかだと核を潰すことになる。


 ダンジョンが生成されると、そこから漏れ出す魔素が地上のモンスターを引き付けるようになってしまう。

 安全性を考えて核を潰すのだ。

 それでも、人里から離れすぎた場所に生成されると、冒険者向けに商業施設が近くに建ったりする。


「この島じゃあダンジョンから離れた場所と言えば、海の上になるしな。それであそこな訳か」


 ダンジョンかぁ……ロマンだよなぁ。入ってみたい。


「うあっ」

「ん? んんんーっ!」


 シアが声を上げて指さした。その方角には白くてもこもこしたものが動くのが見える。

 山羊……にしてはもこもこし過ぎだ。なら羊か!


「シア、生け捕りにするぞっ」

「がうっ」

「返事は『はい』か『おーっ』だ。言葉、教えただろ」

「がおーっ」


 少し近づいたか……。

 

「よし、出来るだけこっそり近づこう」

「う」


 シアが斜面を下っていく。下の方から行こうってことか?

 ふいに山の上から風が吹く。なるほど、風下からってことか。

 気づかれないよう慎重に……慎重に……あ。


「あれは……角シープーだ」

「うぉーぷー?」

「モンスターだ。けど比較的穏やかな性格で、家畜として飼育することもできるんだ」


 奴の毛は普通の羊のそれより柔らかく、保温性も高い。その上丈夫だから、防具の素材としても使われる。

 あの毛があれば、羊毛布団も作れるぞ!


「さて、どうやってアレを捕まえるかだなぁ」

「うぅ」

『ンベェー』


 ん?


「シア、今変な声を出さなかったか?」


 ふるふるとシアは顔を振る。その途中で表情が固まった。


『ンベェー』

「ん?」


 後ろから声がした。

 振り返る。


『ンベェー』


 そこにはもっこもこな顔があった。


「うえぇーっ!?」

「がるるるるるぅぅっ」

『ンベェッ』


 でかっ。めっちゃでかっ!

 そもそも普通の羊に倍近いサイズがある角シープーだが、こいつはさらに一回り大きい!?


「つ、角シープー!」


 風下からシープーに近づこうとしていた俺たちの、更に風下から近づいてきてたのか!?

 こいつ、なかなか賢いぞっ。


「お、穏やかな性格なんだよな? 俺たちはお前たちを傷つけたりしない。ただその毛と、ミルクが欲しいだけなんだ」

『ンベェェーッ』


 ガシガシと蹄を鳴らすその姿は、どう見ても怒ってますよ!


「本当だっ。絶対傷つけないっ。生きていくために、お前たちのその暖かそうな毛とミルクは必要なんだっ」

「がうがう。あうぅ、がうあおぉ」

『ンベ。ンベェベェ』


 ……シアと角シープーが会話し始めたぞ。獣人族はモンスター語が分かるのか。

 暫くひとりと一頭の会話が続き、やがてシープーの鼻先が俺に触れる。

 ふんふんと匂いを嗅いでいるようだ。


 匂い……にお……


『ンベェェエェッ!』

「あぁーっ、すまんっ。島に来てから──いや、屋敷を出てから一度も風呂に入ってないんだった」


 すっげー嫌な顔してる。モンスターにすら臭がられる俺って……。


『ンゲェッ』

「悪かったって……明日は風呂作りをして、綺麗に洗うからさぁ」

『ンベ……ンベッ!』

「がう? あっ」


 ど、どうした。今度はなんだ?

 俺が背負った袋をシアが奪い取る。中からおやつの人参スティックを取り出すと、それをシープーに差し出した。


『んべぇぇ~』


 なんだかよく分からないが、今こいつがデレたのは分かった。


「お前、人参が好きなのか?」

『ンベェェ~』


 嬉しそうに食ってる。


「人参ならまだあるぞ。たくさんって訳じゃないが、お前とあっちのシープーにご馳走してやれるぐらいはあるかな」

『ンベッ! ンベェェーッ』


 角シープーがひと際大きく鳴いたかと思うと。


『ンベェ』『ンベンベェー』『ンベェー』『ンベェーベェ』


 風上のシープーたちが物凄い勢いで走って来た。



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