第15話


 ガラスは予想通り、錬成できた。

 シアに手伝って貰い、三日掛かりでガラスハウスが完成。中に四本の畝を作った。

 二本の畝にトウモコロシのを植えてある。『錬金BOX』である程度成長錬成させたそれは、苗と呼ぶにはだいぶん大きいけどな。


「しかし収穫できるまで錬成しようとすると、どうしてもしおしおになってしまうなぁ」


 今までは実った果物を完熟させるために使っていた錬成で、種の状態から錬成したのは今回が初めて。

 結果は惨いものだった。冷蔵庫のなかで一カ月ぐらい放置するとこんな風だよなぁ。


「がうがう」

「ん? 空?」


 シアが空を指さす。

 今日は天気も良く、お日様がぽかぽかしていて気持ちいい。

 あぁ、そうか。植物の成長には、太陽の日差しが必要だもんな。

 いくら土と水を箱に入れても、太陽光までは取り込めない。

 人参でやったときも、一応出来るには出来るんだ。小さくて干からびたようなのが。


「なら野菜も途中まで成長錬成して、あとは畑に植えてやればちゃんと育つだろうか。まぁやってみよう」

「うぅ」


 種は雑草畑からいくらでも集められる。それを数粒ずつ箱に入れ、苗より少し成長したところで止めるよう錬成した。

 シアに苗を渡せば、彼女は畝にテキパキと植えてくれる。

 この日の夕方には全ての畝が埋まって、あとは成長を待つばかりとなった。


 宿に戻って夕食の準備。


「トウモコロシの粉も、残りが少なくなってきたな。しばらくは節約しよう」


 今夜はさっそくふかし芋だ。


「うぅぅぅぅぅ」

「ジャガイモやサツマイモだって炭水化物なんだし、美味しいだろう?」


 贅沢を言えば、調味料がもっと欲しい。サツマイモはそのままでいいが、ジャガイモは塩をまぶすだけじゃ味気ない。

 バターがあればなぁ。チーズでもいい。

 牛か山羊、それに羊。どれかが島で生息していればいいんだけど。


「シア。牛か山羊、羊を見なかったか?」

「う? うぅぅぅぅぅ……あっ」


 一応唸るんだな。けど何か見たような反応だ。

 勝手口から外に出たシアが、俺を手招きする。行ってみると、西の山を指さしていた。

 山……山羊って山に生息してるもんだよな。


「よし。シア、明日は山羊探しだ。ついでに山の頂上まで上れば、島全体が見渡せるかもしれない」

「ぐっ」






 節約すると言ったナンを朝から焼き、薄く切った兎肉とキャベツの千切りを挟んで布で包む。それを二つ用意して、おやつ代りに人参スティックも用意した。

 木材で作った水筒に水を入れて、いざ出発!


「途中でりんごでも取っていくか」

「おぉーっ」


 果樹園でりんごを二つもぎ取ってから山へと向かう。

 山の標高は300メートルぐらいかな。中腹より下辺りまでは木が生い茂っているが、その先は禿山だ。

 山羊って崖っぷちとかで暮らしてるイメージだよな。禿てる上の方かもしれない。


 で──


「結局頂上まで来てしまったな」

「うー」

「とりあえずここでランチにしよう。西のほうは……」


 島の西側も森だった。その向こうは海だ。

 あまり大きな島じゃないなぁ。

 

 人間は生きている限りご飯を食べる。ご飯を作るってことは、火を使う。

 竈で火を焚けば当然煙だって出るから、高い所からなら煙も見えると思ったんだけど。それが見えないってことは、この島に人はいないってことだろう。

 実際、西側には森しか見えない。振り返れば廃墟の町はちゃんと見える。


「昔は人が住んでいたんだろうけど、今は無人島だな」

「あぐあぐっ。んぐ」

「……俺の分、食べるなよ」


 取られる前にさっさと食べてしまおう。

 食べたら山羊探しの再開だ。

 さっきとは別ルートで山を下りつつ、辺りをしっかり見渡す。動く影を見つければそこに行って、ただのモンスターでしたとぶっ倒す。


「はぁ、なかなか見つからないなぁ」

「うぐぅぅ……うっ」

「見つけたのか!?」


 シアが駆け出し、それを追いかける。

 彼女が走る方角に何かあるな。なんだろう?

 何かのところまでやって来ると、それが看板であることが分かった。

 島に住んでいた住人が目印にしたものだろうか?


 看板に書かれていたのは

【ダンジョンは→】

 という文字だった。

 

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