ななみにおまかせ☆

うさぎ蕎麦

第1話「魔法少女ななみ☆」

 これは、世界と世界の狭間に存在する空間を拠点とし、様々な異世界を股に掛ける魔法少女の物語である。

 無限に広がる漆黒の闇が広がる空間にある一角に一人の少女がふかふかなベッドの上でうつぶせになりながら本を広げていた。

 その少女はこの物語の主人公、陽花(ひはな)ななみでその身体的特徴はと言うと、

 

 容姿  :可愛い。

 身長  :155cm。

 体重  :ひみつ。

 3サイズ:ひみつ。

 髪   :セミショートの薄緑色。

 目   :ぱっちりとした水色。

 年齢  :見た目は15歳。

 

 ざっくりとこの様な感じだ。

 肝心な所を教えてくれなかったが、しつこく聞こうものなら大魔法の1発は飛んで来る事は覚悟した方が良いだろう。

 

「ななみん?」


 ベッドでくつろいでるななみに声を掛けた主、彼はななみの使い魔で、見た目は白いタヌキに天使の翼を生やした感じで、身長は大体30cm程で名前はぽん太と呼ばれている。


「ふぁ~い?」

「ねぇ、いつまでそうしてるの?」


 いつまでもくつろいでいるななみに対し、ぽん太が呆れた声で話掛けるが、当のななみはぽん太を完全に無視して『るんるんるん~♪』とご機嫌な鼻歌を歌いながら読んでいる本のページを捲った。


「もぉ~! そんなんじゃ僕が怒られちゃうんだよ!」

 

 業を煮やしたぽん太が大声で訴え掛けるも、


「今良い所なの~」


 ななみは適当に聞き流し、クスクスと笑いながら漫画に熱中している。

 ダメだこりゃ、と頭を抱えたぽん太は大きなため息を付いて、

 

「はわわわ……こうしている間にもあの世界が……ああ、魔王が強過ぎて勇者がピンチだよぉ~」

「らんらんらん~♪」

 

 大声を出しても無駄だと悟ったぽん太は涙声で訴える作戦に切り替えたが、残念ながらななみの前では無駄だった。


「な、ななみんが助けに行かないと! 助けに行ってお金を……」


 稼が無ければ生活が出来ない、と言いかけた所でななみはお金に全く困っていない事を思い出したぽん太は再び頭を抱えた。


「うっうー……そ、そんなんじゃ、こ、この世界から出られないよ?」

「知ってるよー」


 と、ぽん太が苦し紛れに言葉をひねり出すが、今の世界に不満を抱いていないななみからはやっぱり生返事しか来なかった。


「もぉ、誰だよななみに便利な道具を寄越した人は……」


 ポンタががっくりと項垂れながらぼやく通り、最初はななみもちゃんと仕事に行っていたのだ。

 しかし、仕事での戦利品のお陰でこの空間が快適になるにつれてななみはこの様な状況になってしまったのだ。


「のう、ぽん太?」

 

 ポンタがななみに対して頭を抱えているところで、突然彼の脳に直接老人の声が響いた。

 正確に言えば、この声はななみにも届いているのであるが、見ての通り彼女は全く聞く気が無い様でベッドの上で足をバタバタさせながら読書に夢中になっている。

 

「はぅぅぅぅ!? 無理ですダメですどうしようも出来ません!」


 声の主に対して、ぽん太が激しく言い訳をした。


「はて? ワシはまだ何も言っておらぬぞい?」

「ひぃぃぃ、ごめんなさい、ごめんなさい」

 

 声の主が言ってる事を無視し、今度は虚空に向けて激しく土下座をしだす。


「フォッフォッフォッ、どうせこんな事もあろうかと思ってのぉ? ほれ、コイツを使うのじゃ!」


 そう言って声の主はぽん太に1枚の写真を渡した。


「こ、これは!?」


 その写真には一人の青年の姿が映し出されていたが、当然♂であるどころか種族が違うぽん太は全く興味が湧かない。

 

「これはのぉ? 今とある世界で戦ってる勇者じゃ、これをななみに使うのじゃ!」

「は、はぁ……」


 声の主が自信満々に言うが、何故この写真でななみが動いてくれるのかと言う疑問に対してぽん太は全く理解が追い付いていない。


「では、頑張るのじゃ!」


 しかし、そんなポンタの心情を知ってか知らずか声の主は渡すものだけ渡してさっさと何処かへ行ってしまった。


「何をどうすれば良いの……?」


 現状に追いつかぬ思考を抱えたままぽん太は深い溜息を付くと、仕方無く言われた通りにしてみよう、と写真を引き摺りながらななみが居るベッドの近くまで移動した。


「ねぇ、ななみん?」

「むぅ~これは大ピンチです!」

 

 やはり、ななみはぽん太の声を聞く気が無い様で、読んでる本に対して独り言を言っている。

 思った通り、ただ単純に近付いただけではダメかと思ったぽん太は、意を決してベッドをよじ登り、写真をくわえてななみの隣まで行った。


「むむっ、ぽん太君じゃないですか!」


 ポンタがなんとかしてななみの近くにやって来たと思ったら、今まで読書に夢中だったななみが何故か急にぽん太に声を掛けた。


「え、そ、そうだけど?」


 急にななみから声を掛けられて、何か言われてしまう? と思ったぽん太は思わず身構えてしまった。

 

「ふふ~ん♪ 勇者様の大ピンチはこのななみんにお任せなのだ☆」


 ななみは読んでいた本を放り投げ、ベッドの上に立ち上がり腰に手を当てながら得意気にしている。

 

「ええー、それならそれでいいけどサァ」


 ぽん太はまたしても大きなため息を付くと、がっくりと肩を落とした。

 

「まじかる・ちぇーんじ☆」


 ななみは空中でクルリと縦方向に回転しながらベッドから飛び降りると、天使の様な笑みを見せながら右手を天高く伸ばした。


「って、もう変身しちゃうの!?」


 ぽん太が目を丸くするのも束の間、ななみの身体を薄緑色の光が包み込んだ。

 

「マジカルななみん☆ 登場なのです!」


 ななみを包み込んだ光が収まると、頭部が隠れそうな大きな青いリボンを身に付け、天使をイメージさせる翼に純白のローブを身に纏った少女の姿があった。


「勇者サマを守る為、正義の魔法少女ななみんが参るのです☆」


 魔法少女への変身を終えたななみは、即座に転移魔法の詠唱を始めた。

 

「わ、ちょっとまって、待ってってばー」


 それを見たぽん太は慌てて彼女の道具袋の中にその身を預けると、ななみの転移魔法は完成し狭間の空間から姿を消したのであった。

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