学校一〇〇な美少女たちに巻き込まれるお話
一ノ平 冬馬
1-1 満月と終わりの日
「綺麗だ…」
バイトからの帰り道、俺【
(そういえば、今日はスーパームーンだって
先生が言ってたな。)
それはとても美しく、しかしこちらを闇の中から覗き込んでいるようにも見えてなぜか少しだけ不安な気持ちにさせる。
いつも夜の11時頃にバイトが終わり、すぐに帰宅したあとは風呂に入って宿題を終わらせ、寝る頃には日付を跨ぎそうになる。
なので、普段はバイトが終わればまっすぐ家に帰るのだが、立ち止まって見上げているうちに、このまま帰るのはなんだか勿体ない気がして、どこかでお月見でもして帰ろうかと柄にもないことを考えていた。
(そいえば、店長がまかない料理の量ケチったせいで晩飯全然足んなかったんだよな…)
たとえ深夜でも、腹が減れば食べればいいじゃんと考えるのは、食べ盛りの男子高校生にとっては当たり前。
そうと決まればコンビニでお月見用のお菓子とジュースを購入し、家から少し離れたところにある公園へ足を運んでみた。
コンビニから15分くらい歩いた先に、目的の寂れた公園にたどり着いた。外灯はなく、月明かりだけがその公園を照らしている。
小さい頃によく遊びにきた公園で、普段は人通りの少ない薄気味悪い場所だが、お月見をするにはちょうど良い環境だ。
周りを見ても俺以外は誰もいない。
(そりゃ、こんな場所なんかにゃ誰もこねえわな。)
よっこらせっと、とオッサンくさいかけ声と共に錆びたベンチに腰を下ろし、満月を見ながら、長いため息をついた。
(最近、同じことの繰り返しだな…)
色々あって現在一人暮らしの太郎は、1ヶ月前に高校2年生となった。
1年のときに親しかった友人は何人かいるが、生活費のためバイト三昧である太郎は、
放課後や休日に友人と出かけて遊びに行ったことは過去1年間で1回しかない。そんな付き合いの悪い太郎と1年間、一緒にいてくれた友人たちはほんとにいい奴らだ。
しかし、学年が変わって仲のよかった友人たちは、なんと全員が違うクラスになってしまった。
新しいクラスの親睦会にも参加できず、現在はクラスのなかでぼっち。
学校生活ではひたすら勉強、放課後はひたすらバイトと変わり映えのない毎日を少し
退屈と感じていた。
(ただ、バイトは楽しいし、あいつらも違うクラスになったけどたまに絡みにきてくれるし、一応満足はしてんだよな…)
それでも、少しでいいから刺激が欲しいと感じるのは、やっぱり俺が若いからかな、とジュース片手に1人でカッコつけてみたところで、時間を確認すると夜の12時を回ったところだった。
そろそろ帰るかと、両膝に手を置いてゆっくりと立ち上がろうとしたところで、それは聞こえた。
(……なんだ?)
その音は、道を挟んだ向かいにある、幼い頃に秘密基地として使っていた廃材置き場で確かに聞こえた。
普段、野球部が練習しているときに聞く
金属音に似ている。
しかし、この辺りは昼間でも人通りが少なく、ましてや深夜となるとだれも近づかないような場所だ。
数回同じ音が聞こえたあと、数刻前と同じ静寂が戻ってきた。
音は間違いなく、あの廃材置き場の方向から聞こえたが、ここからではなにも分からない。
(野球部が深夜の自主練…ってわけねえよな。)
しばらくその場で音の方向を凝視していたが、変わらない状況に痺れを切らした太郎は
「よしっ」と小さく気合を入れてベンチから立ち上がった。
普段の太郎であれば、気味が悪いとすぐに帰路についただろう。しかし、その日は月の光に当てられたか、それともなにか刺激が欲しかったからなのか、ゆっくりと廃材置き場に近づいていく。
だれかいるかもしれないと廃材の影に身を潜ませながら進み、まるでスパイにでもなったようだと気分も高揚していた。
「はぁ…はぁ…」
段々と速くなる呼吸と鼓動。もしかしたらここで某推理漫画みたいに闇の組織が取引をしているかもしれない。はたまたバカなカップルがあんなことやこんなことを楽しんでいるかもしれないと、健全な男子高校生は期待に胸を膨らましていた。
あの頃と変わっていなければ、もう少しで開けたところにたどり着く。
あと少しのところで、また何かの音が聞こえた。
(……?…水の音?)
近くでパシャパシャと、水溜りを踏んだときと同じような音が聞こえる。そして濃くなってくる鉄の匂い。
最初は廃材の鉄臭さと混じっていて分からなかったが、次第に生臭さを含んだ匂いまで漂ってくる。
ここまできて俺はようやく理解した。
ここから先は、絶対に見てはいけないもの
だと…
頭の中がクリアになっていくと同時に恐怖が身体中を支配し、震えが止まらなくなる。
この先に、俺が想像してるものがあるかもしれない。そして、おそらく誰かがいる。
急激に込み上がる吐き気を堪え、ゆっくりと後ろに下がろうとしたが、しかし身体は動かない。
(バカヤロウッ!これ以上は絶対に見たら
ダメなやつだろうがっ!!早く動けッ!!)
頭の中では警鐘が鳴り響いてるが、しかしこの場から引くことを好奇心が許さない。
あと半歩進めば覗き込める。
あと半歩進むだけで…
(それに、俺の勘違いの可能性もあるし…
そうだよ!俺の想像通りのことなんて早々
起こることじゃないだろ!そうだ、大丈夫、
大丈夫…)
向こう側にいるかもしれない誰かに聞こえないよう小さく深呼吸し、覚悟を決めて足を踏み出した。
そこには想像通り…いや、想像以上の光景が目の前に広がっていた。
地面には赤い水溜りが広がり、その中心におそらく男性だったと思われる人が横たわってる。おそらくと付けたのは、首より上が、まるで潰れたゆで卵みたいになって原型を留めていなかったから、服装でなんとなく判断した。誰が見ても一目で死んでいると分かる。
ここまでは太郎の想像通りだった。
あの金属音が野球部の練習中の音と同じなのはほぼ間違いないだろう。ただ、狙うものが違うだけ。
鉄と生臭さが混じった匂いも、血の匂いだろうと容易に想像できた。
では、そんな凄惨な現場を目の前にしながらなぜ太郎はこんなにも冷静にいられるのか。
それは、太郎が全く想像できなかった
存在…
女子高生が、死体の横に佇んでいたからだ
(…えっ?な、んで…しかも、うちの制服?
……は?てか、だ…れ?)
惨たらしい死体を見るよりも、同じ高校の制服を着た女子高生のほうが衝撃的だった。
だが俺の目には、月明かりがその子だけを照らしているように見えて、この状況にもかかわらずひどく幻想的だと目を奪われた。
そして、俺が気づかないうちに音を出していたのか、それとも気配で気づいたのか、女の子はゆっくりとこちらに振り返る。
「こんばんは、今夜は月が綺麗だね。」
学校一、笑顔がかわいい美少女【
誰もが見惚れる笑顔でそう言った。
この日から、俺の平凡な日常は
終わりを告げる。
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