第16話 荒事は苦手ですのに……
「爺、大使館の裏手に回って貰えるかしら?」
「はい、お嬢様」
大使館の裏側の人気のない路地裏に車を止めてもらった。
さて、ここからが、ウルタールの本当の仕事よ。
でも、誰にしましょう?
関係者で何となく怪しい人物は、3人ね。
先ずストーカーさんですけど、あれほどの本を祖父から頂いたと云う事は、例えば悪魔の様のものを召喚する魔導書をまだ隠し持ってる、という事もあり得るかもしれないわ。
でも、彼が犯人だとも思えないのよね、昨夜の行動や、今日話してみた限り、事件を解決したいと言う意図が垣間見えるわ。
そうすると、公使閣下と参事官さんのどちらかね。
昨夜は自室で二人でお酒を飲んでいたとか言ってましたけれど、それって裏を返せばアリバイが無いという事。
それに、曹長さんの話だと、二人ともアヘンの常用者という話も、きな臭いのよね。
どちらにしましょうかしら……。
まあ、こう言うのは偉い人を調べるのが、
「ウルタール、公使を見張って」
「にゃー」と一声鳴いて闇夜に消えていった。
「爺、もう用は済みましたわ、屋敷に帰りましょう」
「承知致しました、お嬢様」
帰り道、何だか通行止めの看板が、目立つ様になって来たわね。
「爺、なんだかやたら通行止めが多い様なんですけれど、これってやっぱり
「はいお嬢様、
私が大使館に出向いた事へのリアクションがこれ、と云う事ね。
まあ、何もリアクションが無いよりは、分かりやすくて良いわ。
「通行止めの看板なんて、無視して突っ切っても良いのだけれど……。せっかくですから、お相手して差し上げましょう」
「承知致しました」
通行止めの看板に沿って、
それにしても、何て雑な手口なのかしら。
「お嬢様、
「その様ですわね」
柄の悪い男たちが数人、車の前に現れ道を塞いだ。
刃物とか角材とか持っているわね。
それに、なんだか皆さん目の焦点が合ってない様に見えるわ。
「それではお嬢様、私が片付けて参りますので、暫く車の中でお待ちを」
「そうも行かない見たいですわ」
後方からも、バタバタ足音が聞こえてくる。
「せめて窓が有れば、暫く立て籠もれたかも、しれませんけれど」
何となく皮肉ってみた。
「そうで御座いますな、今回のような事も御座いますし、私の方からも旦那様にお願いして見る事に致しましょう」
それは心強いわ♪
まあ、薄いガラスの窓が有ったとしても、こいう状況だと直ぐに割られてしまって、意味ないでしょうけれど。
「ではお嬢様、後ろの客人の御相手をお願い致します、前の客人は私が」
「仕方有りませんわ、でも早く済ませて手伝って下さいましね。お爺様や叔父様達と違って、荒事は苦手ですの」
「ははは、御冗談を、お嬢様に苦手なものなど」
そう言いながら、車を降りる。
薄暗い路地裏から獲物を持った男たちが現れ、薄気味悪い笑みを浮かべながら、ゆっくり囲む様に近付いてくる。
やっぱり全員目が逝っちゃってますわね、それに涎を垂らしてるのもいるわ。
あまり触られたくないわね。
何人ぐらいいるのかしら、ひい、ふう、みい……十人ぐらいかしら、爺の方は……向こうも同じくらいかしら。
一人、比較的目の焦点の合った男が、日本刀を肩に担ぎながら爺の前にでる。
「可哀想だが、お前らには死ブヒャ!」
あら、爺の廻し蹴りが顔面にめり込んでいますわ。
殺す積りの相手に
まあ、「死」て言う単語が出て来るまで待った爺の自制心はさすがね。
「爺、殺してはいけませんわよ」
分かってると思うけれど、一応忠告しておく。
「承知しております、お嬢様」
さて、此方もお相手しませんと。
爺の蹴りに触発されてか、目の前の一人が奇声を上げて角材で襲ってきた。
「ヒャッハー!」
こういう人たちって本当に「ヒャッハー」なんて言うのね。
お爺様から習った古武術の体捌きで、角材を左に受け流し、右手でトンと背中を軽く叩く。
「グアッ!」
バチッ!と青白い火花が飛び散り、男が昏倒する。
強すぎたかしら?白目を剥いてますわ、死んで無きゃ良いんだけど。
右手の手袋の魔法陣は、スタンガンの様に放電が出来るわ。
因みに、離れた相手に電撃を飛ばすとかは、無理ですけれど。
でも、電撃の出力調整が難しいのよね、相手の意識を絶とうとして威力を上げれば最悪、殺してしまうことに成るかもだし、逆に弱ければ敵の戦闘能力を奪えない、まあ、苦痛を与えることは出来るでしょうけど。
だから、
だけど、ヒャッハーな人達には遠慮する必要は無いわね。
今度は左右から、木刀と
右から襲ってくる木刀の男を、左手の突風の魔法陣で吹き飛ばし、
バチッ!という音と同時に背中をのけ反らせて、
残り七人ですわね。
残りの男達もさすがに、目の前の小娘が侮る相手じゃ無い事に気付いたのか、目でお互いに合図すると一斉に向かってきた。
先ず、左手の魔法陣にやや多めの魔力を注ぎ込み、正面の三人の男を吹き飛ばす。
残り四人。
ナイフを突き刺そうと腕を伸ばしてきた男の、その腕を取って一本背負い、それと同時に電撃を放つ。
残り三人。
男が大きなモーションで日本刀を振り上げて切りかかってくるが、
バチッ!
「グヘッ!」
妙な悲鳴を上げ、苦痛に顔を歪めるが倒れない。
うーん、ちょっと威力が弱かったのかな?
再び男が切りかかろうとすると、ドスッ!という鈍い音、男の頭に爺の踵が突き刺さる。
男は沈む様に白目を剥いて倒れた。
「爺、それ、生きてますの?」
念の為聞いてみる。
「はい、お嬢様、殺してはおりませんので、殺しては……」
と、何故か視線を逸らす、多分一生寝たきりねあれは。
「それでは、後二人で御座いますな、お嬢様」
「ええ、その様ですわね」
まあ、向こうに戦意が有ればの話だけど。
残りの二人に視線を向けると、二人はヒィッと小さく悲鳴を上げて、持っていた獲物も捨てて逃げ出した。
「どう為さいますか、お嬢様、後を追った方が良ろしいでしょうか?」
「無用よ、それより、あちらの対応を頼みますわね」
さすがに此れだけ騒ぎに成りましたから、野次馬や「こっちだ!」と警官らしき人達が集まって参りましたわ。
「承知致しました」
爺は警官らしき人達の元へ向かい、事情説明を始めたので、車の後部座席へ戻り一服。
「疲れましたわ、荒事は苦手ですのに……早く屋敷に帰りたいわ」
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