第73話●教会への問い合わせ

 日付は遡り、ロゼリアーナが最初の町で馬車移動の疲れを癒やすために休養していたころ、国教会では大司教と司教がシワの寄った首を長くして城からの連絡がいつ来るかと待っていた。


 一週間が経ってようやく問い合わせがあったのだが、それは城からではなく前王妃から大司教宛に届いた。


 そして書面には、恒例の挨拶文の後にこう書かれていた。


『先日、現国王夫妻の離婚申請が即日受理された経緯並びに、受理の取り下げの可否について至急回答願います』


 教会としてはありのままを回答するしかなく、こちらが知る限りの情報と正式な流れについて記すため、大司教の代筆で司教がペンを取った。


 まずはこちらも恒例の挨拶文とご機嫌伺いから始め、さらに説明を続けた。


 ▽▽


 先日の流れ


 1、教会事務局受付へ城からの騎士が離婚申請書を持参し提出


 2、教会事務局受付係が一般業務の流れと同じく全署名欄記入済みを確認後、受理した上で受理証明書を発行



 正式な流れ


 1、城の文官が先触れの後に大司教へ離婚申請書を持参、提出


 2、大司教から城へ再度の意思確認の問い合わせ書類を発送


 3、後日意思確認後、大司教が受理し受理証明書を発行



 受理の取り下げについては、事前に不受理申請がされていない限りは取り下げ不可能


 尚、トライネル王国内では同一人物との再婚も不可能


 △△


 そして最後に教会側の心境なども書き添えた。


 ▽▽


 今回王族の手続きが教会事務局で行われたことに教会側も驚きと戸惑いがあり、離婚申請から一週間経過しても布告がないことなどからへの不安をもっております。


 この件について教会側は大司教アントニオ並びに司教モントニオの2名のみが事実を認識していることをご承知ください。


 また、もしも、そのであるならば、に限り再婚不可能であることをここに重ねて記入いたします。


 △△



 *** ***



 国教会からの回答が届き、それを読んだマリーテレサ前王妃は額に手を添えて深く溜め息をついた。


「教会についてはとくに咎めることはないと連絡するように陛下にお伝えして。やはりこちらの事務処理が機能していなかったことが問題だったと」


 顔を上げて侍女のリリアーナにそう言ってからクスリと笑った。


「まぁ、なんとかなりそうだわ」


 先日のお茶会でお知らせした件についてはそれぞれが動いてくれていると連絡が入って来ている。


 あとは大元をどうするか。


 あの人は頭が悪いわけではなく、一点を除いて公私の区別もついていた。


 人を使うことが上手いわけではないが人たらしで、いつの間にか周りがあの人の為に動いていた。


 皆が良き王であろうと努力しているあの人の姿を見ていたから。


 それがまだ続くと思いいたのに、側室を失ったとたんにあれほど気力をなくしてしまうとは誰も予想出来なかった。


 それほどに深い愛情だったとは……二人とは近い位置にいたのにわからなかった。


 もともと自分達は恋愛感情のない政略結婚であったが、そんな関係でも子を得ることが出来た。


 夫とは表面上の夫婦関係を維持する協力者であり、もらうことを諦めた愛情は息子から向けられ、また与えた。


 あの人にも我が子への愛情はあったのだと思う。


 だが、彼女へのそれとは比べるほどのものではなかったようだ。


 彼女が亡くなり私達からの声は届かなくなった。


 退位されたとたん急に子供の我が儘のように自分に近い者達を引き連れて保養地入りしてしまった。


 即位したばかりの陛下息子が心配で同行を断ったら何の相談もなく離婚申請しようとしていたなんて。


 エドワード、ロゼリアーナ、ごめんなさい。


 あなた方は私達夫婦のとばっちりを受けてしまった。


 私に出来ることはさせてもらいます。


 とりあえず昨日、手配したことがあるので明日には追い付くでしょう。


 エドワードが少し落ち着いたら話し合わないといけませんわね。


「マリー様。ルパート伯爵とダラン伯爵が本日登城されたそうです」


 思考を内側から引き戻していると、エドワードへ連絡を送る手配をして戻ったリリアーナから、予想より早い報告を知らされました。


 マリアンナとメランダのところはご主人方が痺れを切らされたのかもしれないわね。


 テレーズは即日動いてくれると言ってましたから2、3日後にはウィリアムズ様も戻られるでしょう。


 でも、あれほど執着してらしたのにあの人が良く側近を手放されましたわね。



 *** *** ***



 マリーテレサは夫のアルスタールの心に変化が生まれていることをまだ知らなかった。


 愛する者を亡くし、退位したことで存在意義もなくしたアルスタールは、これ以上の喪失感に耐えられず周りにいた者達にすがった。


 皆と保養地で過ごすうちに頭を冷やす程度には時間が経ち、それは自分の身勝手でしかなく、一人残される寂しさを嫌がって引き留めて良いものではなかったことに気付いた。


 マリーテレサに対しても保養地へ共に来なかった理由も聞かずに離婚を考えてしまったが、たとえ恋愛感情がなくても、長く協力関係を築くほどには信頼し合っていたのだから、これからまた何か新しく目標を持って協力関係を築いていけるのではないかと模索していた。




 アルスタールもまたマリーテレサの気持ちを知らなかった。


 息子から愛されて愛情の温かさを大切に思うようになったマリーテレサの願いが『家族には幸せでいて欲しい』であり、それは家族、国家に属する者達が幸せになるということを。


 そしてこちらも


 失敗には反省とやり直しを。


 そして壊れたものには修復を。




 この二人はいつ歩み寄るのだろうか。


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