第70話●お屋敷は準備中
先日、王都のアムネリアから届いた手紙を読んだパラネリア辺境伯爵ユリシウスから側で控えていた執事に指示があった。
「アーマンド、ロゼリアーナが帰って来るそうだ。先に荷物が到着するがそのまま保管しておいてくれ」
それを聞いたアーマンドは、手紙から1日遅れて到着した数台の馬車に積まれていた荷物を客室の一つに全て運ばせる。
ユリシウスからはそのまま保管するように言われていたが、侍女長のローザンヌからドレスなどの衣装だけでも手入れが必要と指摘されたので、それらだけはローザンヌ達に任せることにして主人に報告に行くのだった。
*** *** ***
ロゼリアーナが婚約したとき、エドワードがまだ学園に通っていたので、半年後の卒業パーティーでようやく正式に婚約発表をした。
もちろんロゼリアーナは学園に通っていなかったので発表しただけであった。
ロゼリアーナをあまり人目につかせたくなかったエドワードが、
「学園の卒業パーティーなら発表だけで済ませられる」
そうホセルスに笑って話していたらしい。
*** *** ***
正式な婚約発表が済むと同時にロゼリアーナは王妃から王妃教育を受ける為に王都へ移ったので、実家に帰るのは4年ぶりとなる。
その為、辺境伯爵の屋敷では誰もがロゼリアーナを迎えることを楽しみにしながら、迎える準備をしていた。
「お嬢様がお好きな果物はちょうど時季でしたから樹上で完熟させるよう果樹園で調整させますよ。お屋敷に到着されるのはいつ頃になられるんでしょう」
「カーテンと敷物のお色を以前より落ちついた色にして、お部屋もそれに合わせたいと奥様から言われましたので、商会の方をお呼びする予定です」
「ドレスのシワは思ったより少なかったわ。さすがアムネリアね。お城の技術かしら、帰ってきたら私達にも教えてもらいたいわね。少し手を入れるものもあるけど、それほど時間はかからないわ」
「先ほど旦那様から出掛けて来るとの言伝てがありました」
厨房長、設備長、侍女長、兵隊長から今日の報告を聞いていたが、最後の兵隊長かの報告には目をつむって耐えた。
「ロゼリアーナ様が到着されるまで、おそらく2週間から20日ほどかかるだろうとのことです。熟し具合はもちろんですが、大きさも考えてください。昔のように巨大過ぎるものは困ります」
「商会には私からも用事がありますので私から連絡を入れておきます。奥様の明日のご予定を後程教えてください」
「ユリシウス様からは衣装なら出しておいてもいいとのお許しがありましたので引き続きお願いします。何か商会に頼む物があれば早めに言ってくださいね」
「ユリシウス様はどれくらい前に出られましたか?」
報告した順に答えていたアーマンドは、最後に兵隊長へ質問した。
ユリシウスが執務室で部下から報告を受けてそのまま向かったのなら、自分が部屋を出てからだからそれほど時間は経っていない。
「まだ『薄闇の森』に到着されていないくらいの時間だと」
「何人ですか」
何人が付いていけたのかが気になる。
「始めは10人、戻って来たのが……、ん?5人目ですね」
アーマンドはユリシウスには5人付いていれば…、さらに減って3人付いていれば大丈夫だろうと、この後にまだ戻る者がいれば至急合図を出して連絡して欲しいと伝えて解散させた。
自分が報告会で側を離れたタイミングとは……、と足早にユリシウスの執務室に向かった。
ユリシウスの武器庫を調べると幅広で刀身が短い両刃のグラディウスと細身で両刃のロングソードが持ち出されている。
どちらも両手剣であるが使い勝手が違う。
おそらくいくつかのパターンで仕掛けるつもりなのだろう。
それならとアーマンドは片刃で幅広のファルシオンを取ると、追い付くために急いで『薄闇の森』に一人向かった。
パラネリア辺境伯爵家に仕える者に求められるのは強さ。
戦う為に必要なのは攻撃力であるが、必ず勝つという負けん気の強さも求められる。
ようは実戦で役に立つかどうか。
アーマンドはユリシウスの隣で戦って来た。
兵隊長にした言伝てはつまるところユリシウスからの「お前も来い」という召集。
最近は部下任せだったので実戦は久しぶりだが訓練はしているので不安はない。
ユリシウス様なら一人でも大丈夫とは思うが、その隣で戦うのが自分の役目だ。
おそらくどこかでニヤニヤしながら待ってくれているだろう。
途中、屋敷から合図の空砲が2度聞こえた。
『薄闇の森』の入口から目的地までとの中間あたりでユリシウス達に追い付いた。
「アーマンド、遅かったな」
やはりニヤリと笑ってそう言ったユリシウスに、森の入口から走り続けて来たアーマンドは息も乱さず一礼すると、足を早めた主人の横に並んだ。
『薄闇の森』の中では馬を使わない。
馬に巨大化の影響がないとは言い切れないからだ。
領主一行の5人が仕留めたのは大猪で、ユリシウスとアーマンドが戦い3人は逃げ場を作らないように囲みを作るという、ユリシウスが好む戦い方だった。
アーマンドの合図を見て追いかけて来た回収担当の一団によって、森の外に準備してある馬車へと運び出された。
これでしばらく厨房長達が猪肉には困ることはないだろう。
運ばれる大猪と部下達を見ながらユリシウスが首を傾げたのに気付きアーマンドが尋ねた。
「どうかされましたか?」
「いや。森へ入る人間には巨大化の影響が見られないのはやはり不思議だと思ってな」
確かに馬の乗り入れは禁止しているのに人間は普通に出入りしていて、その人間には何代を経ても巨大化の影響は見られていない。
「それはそうですが、今さらでしょう。さぁ、お屋敷に戻りませんと」
体を使う仕事は終えたのだから、執務室の机に残っている頭の仕事も今日中に終わらせてもらいたいと思う執事のアーマンドだった。
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