第33話●藍を食べました

 ロキスの町に二泊して出発した三人は、計画通りに途中で休憩を取り、次の馬車で夕方遅くにティスタの町へ到着した。


 休憩したのは湖畔の村で、湖での漁の様子や魚の加工をする様子を見ることが出来た。


「藍の葉のスープは美味しかったわ」


 昼過ぎに馬車が休憩するために止まった広場には馬車客を狙った屋台が出ており、女店主が一人でスープを木製のコップに入れて売っていた。


 もちろんテーブルや椅子は準備されていなかったので、リアーナ達は馬車の乗車小屋として作られた建物内の椅子に腰かけて、アンナが別に調達してきたパンと一緒に昼食の代わりにスープを飲んだ。


「そうですね。ロキスにもありましたが注文しなかったのは失敗でした。普通の野菜スープに揚げた魚と乾燥した藍の葉を入れたもので、疲労に効くと言ってましたね。美味しかったです。藍の葉は藍染めの原材料だということは知っていますが、食べられるとは知りませんでした」


「薬として用いられているのは知っていましたよ。普通に料理の食材として使っても効能があるものなのね。染料、薬、食材、いろいろと活用の幅があるのですね」


「粉末にしたものがありましたので少し分けていただきました。飲み物にならいつでも混ぜられるかと思いましたので」


「さすがですわね。今日は途中で休憩をとったのと藍の葉のスープをいただいたからか、あまり疲れを感じていませんが、これから疲れを感じた時にはお願いしますわ」


「かしこまりました。その時はお任せくださいませ。さぁ、最初の馬車の馭者に宿屋の確保を頼んでおきましたので参りましょう」


「まぁ、やっぱりアンナは素晴らしい侍女ですわね。ありがとう」


 途中で休憩をとる分、次の町に到着するのが遅くなるのは仕方がない。


 だが、そういうときに宿が先に確保してあるのは心強い。


 乗合馬車から降りて、馭者に先の馭者から聞いていた宿屋の名前を伝えて場所を聞くと、近くだからと案内してくれた。


 宿屋に着き案内してくれた馭者にチップを渡し、部屋に荷物を置いたところで、今日はあまり疲れていないからと外で夕食をとることにした。


「リアーナ様、あの方も同じ宿のようですよ」


 アンナがそう言って宿の受け付けをしている男性を示す。


「おや、あなた方もこの宿にお泊まりですか?」


 湖畔の村で乗り替えた馬車に始めから乗っていた男で、町から町へ行商しながら移動していると自己紹介していた。


 後便の乗合馬車は到着が遅くなるので、先の便ほどには乗客が乗っておらず、自然、お互いに会話をしながらこの町に着いたのである。


「はい、少し前に着きましたの。これから私達は夕食をいただきに外へ出ようとしていたところなのです」


 リアーナはアンナに視線を向けるとアンナはうなずきを返して先を続けた。


「ネスレイ様もよろしければご一緒にいかがですか?」


 目立たないようにしていても、リアーナ……ロゼリアーナは貴族令嬢なので、知り合ったばかりの男性に自ら食事の誘いをするわけにはいかない。


 アンナが代わりに誘ってはいるが、ルードが向ける視線は厳しい。


「ありがとうございます。お誘いは嬉しいのですが、まだ商売用の荷物の整理もありますので、どうぞ皆さんだけで出かけください」


「お仕事お疲れ様です。そういうことでしたら私達はこれで」


 引き続きアンナが対応して別れようとすると、ネスレイと呼ばれた男は嬉しい情報を教えてくれた。


「そうそう、宿を出て左に通りを進むと『染屋の嫁』という店があります。そこのおかみさんはロキスの染屋のお嫁さんだったそうなんですが、藍を利用した料理を出してくれますよ。ロキスでは食べ損ねたようですので、差し出がましいですがお教えさせていただきました」


「「ありがとうございます」」


 リアーナとアンナの声が重なりルードを除いた三人が笑う。


「では早速行ってみましょう」


 もう一度ネスレイに礼を言って宿を出た三人は、『染屋の嫁』に向かい、藍を使った料理を堪能したのであった。


 サラダは生の葉が今はないのでメニューにはなかったが、苦味があるので好き嫌いが分かれるらしい。


 藍入り肉団子のスープ、藍入り蒸しパン、そして藍入り酒。


 普通のメニューもあったが、藍入りをあるだけ選んだことでロキスでは注文しなかったことの後悔の念は消え失せた。


 そしてここでも護衛は同席せず、少し離れて座り、なぜかその隣のテーブルにいたおじいさんからお酌をされたが丁重にお断りしていた。




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