世界の皆から100円貰ってガチャを回しちゃおう☆

るぽるぽるっぽ

第1話 ベリーちゃんだよ☆

「出ろ、出ろよ、絶対出ろよ! ……クソッ! 出なかった!」


 俺の名前は福田 士郎。どこにでもいる大学生だ。


 今、俺はソーシャルゲームのガチャを引いている。

 

 今は、主に『BGB』というソシャゲにはまっている。主にであって他にもやっている。複数掛け持ちは厳しいのだがついやってしまう。

 そして、BGBで欲しいキャラである『アップル』がいるのだが出ない。結構回しているつもりなんだが……。


「確率間違って設定してんじゃねぇの? ……はぁ、もう課金する金もねぇしなぁ」

 バイト代は色々やった後に残りを課金に回している。それでも全く足りないのが現状だ。


「はぁ……」

 部屋の中でため息をつく。


「ねぇねぇ、契約しようか?」

「……うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 唐突に知らない女に話しかけられ、思わず椅子から転げ落ちる。ここは俺の部屋だぞ。誰だこいつは。


「お、お前は誰だ!」

「名前? 偽名でいいよね? ベリーちゃんです。ストロベリーやブルーベリーのベリーからとりました☆」

 偽名を名乗ってくる女。マジで何なんだこいつ。


「そんなこと聞いてるんじゃねぇんだよ! どこの誰なんだよ! どうやって入ってきた!」

「? ベリーちゃんは悪魔だよ?」

「は……ぁ……?」

 マジでこいつ頭おかしい。


「ほら見た目が人間じゃないじゃん。髪の毛ピンクだし。角が生えてるし。羽も尻尾もあるじゃん。何より、空中に浮いてるじゃん?」

 ベリーとかいうやつの言う通り確かに普通の人間とは思えない見た目だ。コスプレ? でもどうやって浮いてるんだ?

 しかし、よく見ると見た目がいいな。見た目年齢は俺と変わらないかちょい下ぐらいの絶世の美少女。


「え? まだ信じてくれてないの? ベリーちゃんの言う事信じられない?」


 もしかして、おかしくなったのは俺の頭か?


「しょうがないなぁ。ベリーちゃんの事信じろ☆」


 ベリーの目が光る。


「わかった。信じる」

「ありがとー」


 唐突に信じる気になった。多分これが悪魔の能力なんだろう。凶悪な奴に目をつけられてしまった。


「お前が悪魔だっていう事はわかったけど何の用があって俺の目の前に現れたんだよ」

「お前じゃなくてベリーちゃんだよ?」

 訂正を要求してきた。めんどくさいなこいつ。かわいければ何やってもいいと思ってんのか。


「で、そのベリーとやらが何の用だよ」

「ベリーちゃんは悪魔の契約をしに来ました☆」

 非常に危険な響きをあっさりというな。


「悪魔の契約ってなんだよ」

「君がお金を貰える契約だよ!」

「何?」

 ろくでもない事だろうに思わず耳を貸してしまう。金がもらえると聞いては黙ってはいられない。


「世界の皆に犠牲になって貰って、一人一人から百円ずつ貰って君のお金にしちゃうんだ☆」

「何言っているんだ? 犠牲になって貰うって?」

 何を言っているのかさっぱりわからない。


「君は全世界の人間から一円貰ったら金持ちになれるとか考えたことない? それだよそれ。具体的に説明するとね。全世界の中から無作為にこっちが選んだ一人死なせるたびに、君が代わりに百円貰えるの」

 駄目だ。こいつ頭がおかしすぎる。


「一人死なせるってマジで言ってんのか? しかも、その命の代償が百円って馬鹿にしてんのか?」

 何か色々こみあげてくる。


「本気だよ。人の命の代償なんてそんなものだよ?」

「正気じゃないな」

「でも世界で今もいろんな人が死んでるけど、君はその一人一人に感情を抱くの? その他大勢の命なんてそんなもの。その命が尽きるたびに君は百円貰うんだよ。魅力的じゃない?」

 こいつの言う通り、実際何も感じてないのは確かだ。今も世界で誰かが苦しんでいると言われても、特に何も感じない。感じる人間もいるみたいだが、俺はそういう人種じゃない。


「……わかった。で、ベリーに何の得があるんだ。何か裏があるんだろ」

 信用などできるはずがない。


「裏……かぁ。ただの遊びだよ。遊び。あえて言うなら神様の命令でもあるかな」

「神様だぁ? なんで神様がそんなことするんだよ」

「うーん。創造するのには破壊も必要なんだよ。多分。というかこんな大それたこと神様の許可がないとできないから。悪魔だって大変なんだよー」

「そうなのか?」

 こいつのいう事が本当なら随分ひどい神様だ。


「うーん。信じてくれないならまた信じろビーム使っちゃうよ?」

「脅迫じゃないか」

「こんなにかわいい女の子の言う事信じられない?」

「関係ないだろ」

「ベリーちゃんは嘘が嫌いなのです。だから極力嘘はつきません。全くつかないとも言いませんけどね☆」

 まぁ、嘘を言っているようには見えないが……。


「こうなったら実践するしかないよね。……ゴソゴソ。デビルカードォ!」

 ベリーが何もないところからカードを取り出す。


「デビルカード?」

 なんだそれ。


「そうです。デビルカードです。まぁ簡単に言っちゃうとクレジットカードです。あらかじめ入れられているお金分しか使えないのでどっちかと言えばデビットカードなのですが、細かいことは置いておきましょう!」

「はぁーん。で、それが?」

「犠牲になって貰った分がここに入ります。」

 ベリーはカードをコツコツと叩く。


「ね? そのガチャ?っていうの? 引いちゃおうよ」

 ベリーが誘惑してくる。


「いや、駄目だろ……」

「世界では一年間に6000万人程度死んでるんだよ? ちょっとぐらいなら誤差だって」

 なんかそう言われると問題がない気がしてくる。


「なぁ、一人当たり百円なんだよな?」

「そうだよ?」

「じゃあ、30人。30人なら3000円だよな。よろしく頼むよ」

 30人ぐらい大丈夫だろ……。誤差だ誤差。


「ちなみになんで30人なの?」

 ベリーが聞き返してくる。


「はぁ? 俺がやってるゲームが10連引くのに……10回分連続で引くのに3000円だからだよ。そこら辺リサーチしてないのかよ」

「ベリーちゃん難しいことわかんない! あ、後、一応言っておくけど無作為に選ばれた人は一週間以内に様々な理由で死にます。だから急にぱたって死んでいくわけじゃないので時差があるのでよろしくね」

「そうか」

 今更どうでもいいことを……。


「それじゃあ、君のスマホにアプリを入れるね。このアプリから人数を選んでください」

「なんだよ。お前が直接やるわけじゃないのかよ」

「実際に殺すのはベリーちゃんじゃないし、ベリーちゃんが四六時中いるとも限らないからこちらからお願いします」

 殺すとか物騒なこと言うなよ。


 『一人百円アプリ』とかいう変なアプリを開く。人数を入力しろとか言ってきたので30と入力してみる。後は決定ボタンを押すだけだ。


「…………」

 押していいのだろうか?


「どうしたの? やっぱりやめる?」

 ベリーが顔を覗いて来る。


「やってやるよ!」

 決定ボタンを押す。残高の表示が3000円になる。


「…………」

 特段何かが変わった感じはない。知らない他人がどこかで死ぬとか言われても実感など湧く訳がなかったのだ。俺が直接殺すわけでもないしな。


「で? これちゃんと使えるんだろうな? 本当は使えないんじゃないだろうな?」

「使えるよ? 試してみて」

 ベリーがデビルカードを渡してくる。


「じゃ、試してみるか」

 デビルカードを使って課金してみる。


「マジかよ……」

 ……本当に使えた!


「じゃあ、引いてみるか」

 ガチャ画面に移行する。


「それがガチャってやつ? ベリーちゃんが代わりに押してあげようか?」

「いや、俺がやるから」

「ちぇっ」

 ベリーが言葉で舌打ちをする。


 ガチャボタンを押す。

「来いよ……!」

 自分の金じゃないのにガチャを引くというのも妙な気分だ。あえて言えば無料ガチャを引いている気分。


「で……出た!」

 10連の最後でお目当ての『アップル』を引く。


「ん? 何が出たの?」

「俺が狙ってたやつが出たんだよ! やったぜ!」

 出る確率は0.3%だったから正直引けるとは思っていなかった。しかし、引いた時の快感はすさまじい。これだからガチャはやめられないのだ。


「なんかよくわからないけど君は運がいいんだね。良かった良かった」

 ベリーは軽く拍手をする。


 どうやら俺の運はついて来ているようだ。

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