004:女に転生したので異世界で好き勝手する

【タイトル】

女に転生したので異世界で好き勝手する


【ジャンル】

異世界ファンタジー、性転換、魔法


【概要】

定番の異世界転生×性転換ファンタジー。

ゲームクリエイターだった主人公は、あっさり死亡し異世界に転生させられる。

この時、神に対して言った不注意な一言のせいで、女子として転生することに。

真面目に生きても報われなかった前世の思い出から、「今世では、絶対に好き放題に生きてやる!」と決意。

貴族令嬢(中身は男)フレンは、己の欲望に忠実に暴走していく。



【1話試作品】


真っ暗な空間だ。


真っ暗な空間の中で、身体がゆったりと宙に浮かんでいる。

男は直感的に、自分が死んだのではと考えた。

無職となって忙しい社畜生活から解放されたものの、一人暮らしの身では結局働くしか道はなく。

バイトだ派遣だと探すうちに気が付けばロクな食事も取らぬままの日々を過ごし、道の真っ只中で意識が飛んで倒れた。


そこまではどうにか思い出せた。

外出中に意識が飛んだことは初めてではないが、今回はモノが違うと感じた。

空間の中で身体が浮かんでいて、その身が全く動かせないのだ。



「この構図、見たことあるわー。キ〇グダムハ〇ツのゲームオーバー画面とかで」



不意に声を掛けられた。

男はどうにか顔を動かして声の主を探そうとするが、何せ首すら全く動かない。

そんな男の様子を察したのか、その存在は男の顔を覗き込んでくる。


「やっ、元気してるー?って死んでるか、青年!」


少年…といえるのだろうか?

白い肌、白い髪、中性的な顔立ち。全身白のスーツを着込んでいる。

今にも自称・神を名乗りだしそうな白い人物は、やや鬱陶しい口調で語りかけてきた。


「あ、口ぐらいは動かせるようにしてあるよ!

とりあえずようこそ、ゲームオーバー空間へ!

残念、キミの人生はここで終わってしまった!

キミのメモリーは今、私の手の中にある!

キミの命を拾った私がどう使おうと私の勝手です!」

「喋り方うぜぇ……」


カラカラ笑いながら語り掛ける白人物に、男は正直な第一声をぶつけた。


「パロディやるならせめて統一性を持たせろよ……」

「おいおい、最初のツッコミがそれかい?

パロディ頼りでなんとか生き残ってたゲームクリエイターさん?」


痛いところを突いてくる。

男は確かにゲームクリエイターの道を歩んでいた。

だが、あまりに凡作続き、しまいにはパロディ頼りと揶揄されるあたり、自分は大した才能は持ち合わせていない。

そう自覚してからやる気を失い、日々の激務から逃れるように仕事を辞めた。

しかし結局それから這い上がることもなく、気付けば謎空間の中だ。


「…僕は死んだのか?」

「そそ。で、迷える魂たるキミのために、今まさに神様たる私が現れたのだよ」

「アンタみたいな軽薄そうなヤツが神だって知ったら、世界中の宗教家は発狂するだろうな」

「あれあれー? そんなこと言っていいのかなー?

 私はキミを転生させようとしているいい神様だっていうのに~?」

「転生…ね。異世界モノの定番だな。

 流行りにとりあえず乗っかる…というか、もうだいぶ乗り遅れた感はないか?」

「しょうがないでしょ、それが私のお仕事なんだから!

 この格好だってキミのセンスのせいなんだよ!

 救済する魂が死んだって現実を受け入れてもらえるように、魂にとって分かりやすい姿を取らされるんだよ!

 私だってこんな、一昔前の男性アイドルみたいな白スーツとかヤだよ!」


男のツッコミに対し自称・神はわめく。

ともあれ、神との会話で自分は死んだらしいというのは不思議とすんなり受け入れられた。

男は口だけを動かして質問を続ける。


「神様もご苦労なことだ。

 それにしても、僕が転生ねぇ?

 トラックに轢かれたわけでもないのに」

「異世界転生といえば交通事故って、いったいいつから定着したんだろうね?」

「知らん。ネット小説が流行った頃は一種のトレンドだったんだろ。

 小説以外でも、ジ〇ニャンとか、交通事故エピソードが印象的な話が多かったし」


神の言葉に思わずつい雑談を続けそうになる。

聞きたいことから遠ざかる前に、慌てて本題へ戻す。


「…いかんな、話がズレる。

 話を戻すが、なんでまた僕は転生させられるんだ?

 僕は神様に認められるような善行はしてないと思うが。別に信心深くないし。

 まぁ、地獄送りされるほど悪行してるとも思わんけど。

 それとも、地球で死んだらどこかに転生させる決まりでもあるのかね?」

「んーー、神様の気まぐれ?」

「なぜそこで疑問形なんだよ」

「いやだってキミ、会社辞めてー、鬱になって自宅に引きこもり気味なってー。

 貯金尽きそうになっていよいよ外に出たら、体力なさ過ぎて倒れてー。

 誰にも気づかれずにそのまま死亡とかもう哀れすぎて哀れすぎて……

 思わず駆けつけちゃったわー、どんな気持ちか聞いてみたくて」

「性格の悪い神様だな…」

「せっかくだから異世界に行かせたら、また面白い死に方してくれそうだなーって。

 ってわけで、転生申請出したらOK通っちゃったんだよね」

「申請って役所かよ…

 つーかかなーり適当だな。日本の役所見習えよ」


男はため息をつく。

自称・神に付き合うのはなかなか精神的に疲れそうだ。


「それで、転生というからにはどっかの世界に飛ばされるんだろう?何かチート技でも授けてくれるのかね?」

「転生イコールチート技って発想が既に貧困な発想じゃないかー」

「これは"お約束"というのだ。主役に何か能力がなきゃお話として盛り上がりが欠けるだろ。

 記憶の保持と言語の適正は標準装備、それプラスアルファが基本だ。

 僕の来世を物語として楽しむつもりなら、せめてそれくらいはしてほしいものだが?」

「自分が物語の主役にでもなれるつもりでいるわけ?救国の勇者とか?」

「さぁね。ただ、モブどころかその辺の雑草みたいな死に方したんだ。

 来世があるならもうちょっとまともな生活したいなとは思うだろ。

 女の子達とキャッキャウフフするとかさ」

「出てくる望みがしょっぱいよキミ」

「男の欲望の基本だろ」

「はいはい。まぁチート技とかは無理だけど、希望はなるべく沿えるように頑張るよ」

「もうちょっとやる気見せて欲しいね、就活支援のエージェントみたいに」

「ロクに仕事探ししてないキミに言われたくはないね。

 そういう人は、特別な仕事なんか就けないよ。よくあるものにしかなれないさ」

「よくあるもの、ねぇ…」

「ま、今生とは全然違う生活が送れるようにはしてあげるから、それは楽しみにしてなよー」


そう言いながら、自称・神が手をかざす。

手から光が溢れ、周りの真っ暗な空間が徐々に白く変わっていく。


「それじゃ、さっそく転生しますねー。よき来世を―」

「あー、一つ聞いていいか?

 神様は名前ないのか?」

「神様は名乗っちゃいけないのですー。では、今度こそ、よき来世をー」


そう言って気の抜けた声と共に、光が強くなる。

その瞬間、急激に後ろへと身体が引っ張られる感覚が男を襲う。

猛スピードで自称・神様から遠ざかっていき、やがて男の意識は途絶えた。



◆◆◆◆◆


「やりました!生まれましたよ!」

「よかった、無事に生まれてくれて!」

「奥様、大丈夫ですか!?」


日本人だった男の意識は、女性達の声で覚醒した。

自分を抱きかかえる女性が穏やかに笑い、身体をぬるい濡れ布で拭いてくる。

頭がややぼんやりしているが、自分はまさに生まれてきた瞬間に転生したのだと分かった。


「はぁぁ、よかった。どうにか母子ともに無事に終えられそうですか」


見渡すと、メイド服を着た女性達が安堵のため息をつく。

何があったかは分からないが、ひょっとしたら難産だったのかもしれない。

神様のせいじゃなかろうな、とちょっと申し訳なく思う。


メイドの一人が扉を開けて出ていくのが見えた。

扉の向こうにいる人物、恐らくは家族である人物に声を掛けていた。


「旦那様、無事に生まれました!

 元気な女の子ですよ!!」



……ん?

(あのメイド、今なんて言った!?)



その後、父と思われる男と兄と思われる子供が部屋に入ってきた。

彼らを交えて皆に誕生を祝われる中…

転生してきた男……もとい、生まれたばかりの女の子は、適当な愛想笑いをしながら頭の中で自称・神とのやり取りを思い出す。


(んー、なるほど?

 確かに女の子とキャッキャウフフしたいって言ったしねぇ?

 なるほど、確かによくあると言えばよくある設定だよねぇ?)


周りが可愛い可愛いと声を掛けてくることで、自分の身がどうなったかを理解する。


(はぁぁ、女体転生とか、一番普通過ぎる発想じゃないのかな?)


あの自称・神が男に施したもの。

それは、女性としての2度目の人生。

なるほど、前世とはまったく違う生活が送れそうではある。


(……ま、せっかくの転生だ。

 どうせなら、とことん楽しんでやろう!)


前世で鬱だったとは思えないほど、男は前向きに女体化転生の現実を受け入れていた。

この先どうなるかは分からないが、一度死んだことで何か吹っ切れたようだ。


病弱な体、多忙な仕事、人間関係……前世ではいくつものしがらみがあった。

それらすべてをバッサリ切ったうえでのやり直し。

どうせなら、やりたいことをとことんやろう。

前世で出来なかったことも、今世で気になったことも。


前世の世界には「好きなことで、生きていく」という有名なキャッチコピーがあった。

自分は別に動画投稿者でもなかったけども、そういう生き方はやはり憧れるし、それを一から…

いや、ゼロから出来るチャンスなのだ。


(女の身体だろうと関係ないや。今世は絶対に、やりたい放題に生きてやる!)


精神だけ成人男性の赤子は、良くも悪くも吹っ切れて、自然と笑顔がこぼれる。

笑顔となる赤子に、周囲の者達はにこやかに微笑み返した。


(…とりあえず、メイドさんを侍らせたいな、という望みはすぐに叶いそうかな)



良くも、悪くも、己の欲望に忠実に生きる少女の人生が、静かに始まったのだった。



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