第479話 カウボーイの盗賊(2)
鼻風船がパンと裂けると、眠そうな目をこすりながら魔人は背後へと振り返った。
そこには、カウボーイハットを深めに被る男の姿。
「えっ? 交代? 魔物バトル終わったの……」
目の前のレースの状況を確認することすらしない、その魔人。
よほど立っているだけがつまらなかったのだろう。
その証拠にすぐさま、その男が出した交代の指示に従うと嬉しそうに主賓室から外へと駆け出して行った。
「……本当に、魔人どもは単純だ……」
男は、カウボーイハットのつばを人差し指で押し上げた。
そのカウボーイハットの下には、見たことがあるような顔。
そう、この男、第六の元神民たちが神民街から追い出された際にソフィアの手によって人魔の返り血を浴びさせられた騒動の時、カルロスの手から黄金弓を奪い取ろうとした男であった。
名を、ダンディ=ソロ……またの名を、ルパン=サーセン!
オッサンである。
なぜ、名前を知っているかだって?
ビン子が、あの騒動のおり足元に転がる拾った通行証に名前がそのように書いてあったのだ。
まぁ本名かどうかは分からないが、とりあえずは、この男の事をそう呼んでおこう。
ダンディは、エメラルダの黄金弓に手をのばす。
元第六神民たちの返り血騒動の時もそうであった。
なぜかダンディは、エメラルダの黄金弓をしつこくねらっていたのだ。
そして、魔の融合国で黄金弓が見つかったと聞くと、すぐさま、その後を追ってきていた。
だが、ココは魔の融合国である。
そして、一応見るからにダンディは人間のようである。
すなわち、人間であるダンディはこの魔の融合国ではエサなのだ。
エサである人間が自由に行動するためには、今のタカトたち同様に強い魔人の後ろ盾が必要になる。
それか、もしくは、どこぞの魔人の奴隷でないと生き残ることは難しいのだ。
ということは、ダンディにも魔人とのつながりがあると言う事なのだろう。
黄金弓に伸ばしたダンディの手がピタリと止まった。
そして、その瞬間つぶやいた。
「これはダメだな……こいつは既に死んでいる……」
ダンディは、やれやれと言わんばかりにため息をついた。
頬杖をつくハトネンが、目だけをダンディに向け低い声を出した。
「お前……何をしている……」
しかも、その目つきの鋭いこと。
ものすごい怒りと殺気が、ダンディに向けて放たれていた。
こんな殺気は、一之祐と戦っている時にさえ見せたことが無い。
おそらく、ハトネンにとって、門内のキーストンの奪い合いなどは、ただのお遊びの一環なのかもしれない。
だが、お遊びであるならば魔物バトルの方が、ハトネンにとっては興味をそそるのである。
そして、今、その魔物バトルの優勝賞品に手を出すバカが一人。
しかも、レース主催者である自分の目の前で堂々と盗み出そうとする恐れ知らずがいる。
そもそも、三ツ木マウスがグレストールにやられてイライラしていたところなのである。
ハトネンの怒りは、頂点に達した。
「何をしていると聞いているのだ! 人間ふぜいが!」
既に、ハトネンの鼻は、ダンディがこの部屋に入ってきたときから、その匂いで人間だという事は分かっていた。
だが、どこぞの奴隷だろうと気にも留めていなかったのである。
しかし、こともあろうに、今、優勝賞品のいくつかに手をだしながらうすら笑いを浮かべていやがった。
ハトネンは体を起こして大声を張り上げた。
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